国際金融安定性報告書

高インフレ環境の
舵取り

概要

国際金融安定性報告書(GFSR) 2022年10月

連鎖的なショックが続く中、国際金融安定性リスクが高まっている

1章では、高インフレに対する中央銀行の政策対応、金融環境の無秩序なタイト化のリスク、新興国市場とフロンティア市場における過剰債務を分析する。市場は極めて不安定であり、流動性の低下により価格変動が増幅しているもようだ。欧州では、エネルギー危機が見通しの悪化の一因となっている。中国では、不動産部門が依然として脆弱性の主な原因である。第2章では、新興市場国と発展途上国における気候ファイナンスの不足を解消する方法を検討する。カーボンプライシングや気候関連情報のディスクロージャー、クライメートトランジションのタクソノミーを含む気候政策は、民間の気候ファイナンスを動員するために極めて重要である。革新的な金融商品は民間の気候ファイナンスの規模拡大に役立つが、国際開発銀行を含む公共部門が主要な支援的役割を果たさなければならない。第3章では、オープンエンド型投資ファンドがどのように資産市場の脆弱性に影響するかを分析する。オープンエンド型投資ファンドは金融市場で重要な役割を果たすが、日次で償還ができ、流動性の低い資産をもつものは、投資家による償還殺到と資産の投げ売りが生じ、負のショックを一段と増幅させる可能性がある。これは資産市場のボラティリティの一因となり、潜在的に金融安定の脅威になりうる。

分析章

第1章:高インフレの新環境における金融の安定性

インフレ率が過去数十年で最も高いほか、ウクライナでのロシアの戦争や 、欧州および世界のエネルギー市場の波及効果が続く中、金融安定リスクが高まった。市場の流動性が乏しい中で金融環境が突如、無秩序にタイト化した場合、既存の脆弱性と相互作用するリスクがある。新興国市場では、金利の上昇やファンダメンタルズの弱さ、大規模な資本流出が、フロンティア市場を中心に借入コストを押し上げており、今後もデフォルトする国が出るリスクが高まっている。中国では、住宅販売の急激な落ち込みが開発業者への圧力を高め、不動産の低迷が深刻化しており、金融部門への波及のリスクが高まっている。

第2章:新興国と途上国における民間の気候ファイナンスの拡大 - 課題と機会

新興市場国と発展途上国は、気候変動を緩和し適応するために多額の気候ファイナンスを必要としている。本章では、こうした目標を達成する上での民間資金の重要な役割について検討する。革新的な金融商品が一部の課題を乗り越え投資家層を広げることに寄与することを示す。民間投資を活用し、リスク吸収能力を提供するために国際開発金融機関の関与が極めて重要である。IMFは、政策助言やサーベイランス、能力開発、ならびに気候変動に伴う長期的・構造的な課題への対処を支援しうる、強靭性・持続可能性トラスト(RST)を通じた資金調達で、触媒的役割を果たすことができる。

第3章: ストレス時における資産価格の脆弱性 - オープンエンド型投資ファンドの役割

3章では、オープンエンド型投資ファンドがどのように資産市場の脆弱性に影響するかを分析する。オープンエンド型投資ファンドは金融市場で重要な役割を果たすが、日次で償還ができ、流動性の低い資産をもつものは、投資家による償還殺到と資産の投げ売りが生じ、負のショックを一段と増幅させる可能性がある。これは資産市場のボラティリティの一因となり、潜在的に金融安定の脅威になりうる。こうした脆弱性の影響は、新興国市場にも波及し、金融環境のタイト化につながる可能性がある。方向を修正するために政策当局者は、流動性管理ツールが利用可能であり、適切に調整され、ファンドによって活用されているよう確実を期すべきである。

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