Credit: Tamara Merino/IMF Photos

新興市場国における民間の気候ファイナンスの規模を拡大する方法

必要不可欠な低炭素インフラプロジェクトの資金を調達するには、民間資本の規模拡大が非常に重要となる。 発展途上国においては特にそうだ。

新興市場国と発展途上国が気候の影響に対処しつつ、温室効果ガスの排出を抑制し気候変動を抑えようとする中で、民間の気候ファイナンスが中心的な役割を果たす必要がある。

さまざま試算があるが、温室効果ガスの排出を大幅に削減して気候変動を緩和するために、これらの国々では全体で2030年までに毎年エネルギーインフラに少なくとも1兆ドル、また全産業において2050年までに36兆ドルの投資をしなければならない。それに加えて、海面上昇や干ばつの深刻化といった気候変動の物理的影響に適応するために、2030年までにさらに年間1,400億ドルから3,000億ドルが必要となる。2050年以降は年間で5,200億ドルから17,500億ドルにまで大幅に増える可能性がある。額は気候緩和策がどれほど効果的だったかに左右される。

最新の「国際金融安定性報告書(GFSR)」の分析章で詳しく説明しているとおり、試算はを早急に拡大することが不可欠である。主要な解決策としては、気候リスクの適切な価格付けや革新的な資金調達手段、投資家層の拡大、多国間開発銀行や開発金融機関の関与の拡大、気候関連情報の強化などがある。

心強いことに、昨年、新興市場国と発展途上国における民間のサステナブルファイナンスは過去最高の2,500億ドルに達した。しかし、投資対象として適した低炭素インフラ案件がしばしば不足し、パリ協定以降化石燃料産業による資金調達が急増している中で、2030までに民間資金を少なくとも2にする必要がある。

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効果的なカーボンプライシングがないために、気候に寄与するプロジェクトに投資家がより多くの資金を振り向けるインセンティブと能力が削がれている。気候データや開示基準、タクソノミー、その他の整合性アプローチが不完全な一貫性のない気候関連情報アーキテクチャも同様である。

また、環境と社会、ガバナンスに配慮したESG投資が急速に成長し規模が非常に大きくなっているが、それだけで試算はの拡大に実質的な影響を与えるかも定かではない。ESG投資は気候にもたらすメリットが依然不透明であることに加え、新興市場国・発展途上国の企業のESGスコアは先進国の企業に比べて一貫して低い。その結果、ESGに特化した投資ファンドが新興市場国資産に配分する資金はずっと少ない。さらに、投資家らは新興市場国と発展途上国の資産への投資に伴うリスクを過大視していることが多い。

革新的な資金調達手段が、こうした課題の一部を克服する助けとなる。同時に、投資家層をグローバル銀行や投資ファンド、保険会社等の機関投資家、インパクト投資家、慈善目的の資本などに拡大することも一助となる。

より機能的な債券市場を持つ大きな新興市場国では、世界銀行の民間部門向け投融資機関を後ろ盾とするアムンディのグリーンボンドファンドのような投資ファンドが、年金基金等の機関投資家を取り込む方法について好例を提供している。そのような投資ファンドを複製・拡大して、新興市場国の発行体が低炭素プロジェクトの資金調達を目的とするグリーン資産の供給を拡大するようインセンティブを与え、広範囲の国際投資家を惹きつける必要がある。

発展途上国の場合には、不可欠な低炭素プロジェクトの資金を調達する上で、多国間開発銀行が重要な役割を果たすことになる。そうした機関を経由して、より多くの気候資金を提供すべきである。 

そのためは、多国間開発銀行の資本基盤を増強し、透明なガバナンスと経営監督に支えられた民間部門とのパートナーシップを通じてリスク選好アプローチを見直すことが最初の一歩となるだろう。

そうすれば、多国間開発銀行は、現在新興市場国・開発途上国に対する気候資金コミットメントの約1.8を占めるに過ぎないエクイティ・ファイナンスの活用を拡大できるだろう。また、多国間開発銀行による出資はさらに多くの民間資金を呼び込むことも可能にする。現在、民間資金は多国間開発銀行が自ら投入する資金の約1.2倍にとどまっている。

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民間投資にインセンティブを与える手助けするのに必要な重要なツールのひとつは、移行タクソノミーやその他の整合性アプローチの策定である。それによって、長期的な排出削減を可能にする金融資産が特定され、企業の排出削減目標に向けた移行が奨励される。

そこで重要なのは、技術面およびコスト面での制約を理由に排出削減が容易ではないセメントや鉄鉱、化学、重輸送などの産業におけるイノベーションにも焦点が当てられることである。それは、温室効果ガスの排出削減ポテンシャルが最も大きいこうした炭素集約型産業が投資家らに遠ざけられないようにし、むしろそうした産業が長期的にカーボンインパクトを削減するインセンティブを得るようにするのに役立つ。

IMFは、新設の「強靭性・持続可能性トラスト」などを通じて、ますます重要な役割を果たしている。このトラストは、各国が気候変動やその他の長期的な構造的課題に対する強靭性を構築するのを支援するために、低コストの長期資金を提供する目的で作られた。IMFは総額400億ドルの資金提供を約束しており、バルバドスおよびコスタリカとの間で最初の2プログラムに関する職員レベルの合意に達している。このトラストによって、気候ファイナンスのための公的・民間投資の呼び込みが可能になるだろう。

IMFはまた、魅力的な投資環境を整備するために、質の高い気候データの利用可能性を高めるとともに、開示基準と移行タクソノミーの採択を促進している。

より一般的には、IMF金融システムグリーン化のためのネットワークやその他の国際機関を通じて気候情報アーキテクチャの強化に貢献し、カーボンプライシングを含む新興市場国と発展途上国の気候政策を支援している。民間の気候ファイナンスの拡大に向けた動きが確実なものになる中で、IMFは可能な限りパートナーを巻き込み解決策を推進していく。