ソブリン債のリスクが増大するにつれ、債務問題を秩序ある解決に導き、債務不履行を防ぐためには、世界が協力し合うアプローチが必要だ。
我々は危険な時代に生きている。世界は改めて不確実性に直面しており、絶えず変わりつつ3年目を迎えたパンデミックに加え、戦争が勃発している。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)以前の問題も未解決のままだ。政策当局者が数日内にIMFと世界銀行の春季会合のためにワシントンに集まる際、世界的な債務脆弱性の増大が中心議題のひとつとなるだろう。
コロナ禍による最初のロックダウン以前、債務はすでに非常に高い水準に達していた。パンデミックによる動揺の中、平時では未曾有の経済的支援が金融市場を安定化させ、世界の流動性と信用状況を徐々に改善させた。多くの国では、財政政策がパンデミック中に個人や企業を守ることができた。総需要を増やし、デフレダイナミクスを避けることによって金融政策の支援ともなり、金融および経済回復に大いに貢献した。
パンデミックがいまだ多くの政府予算に重くのしかかる中、公債がかつてないほどの水準まで拡大していたところ、ウクライナでの戦争を受けてリスクがさらに増した。このような状況下では、負債の透明性を改善し、債務管理の政策および枠組みを強化するために、当局者による改革(ガバナンス改革含む)が急務となっている。
IMFでは、きめ細かい政策助言と能力強化に関する活動により、高リスク債務の根本的な原因を解決できるように引き続き助力する。しかし、ソブリン債のリスクが向上し、予算と財政に多大な制約がある中、ストレスを最小化するためには国際的な協力が今後必要不可欠だ。流動性支援だけでは足りない場合、政策当局者は、脆弱性が最も高い国の債務負担を緩和し、債務の持続可能性を育み、債務者と債権者の利益のバランスを取る必要がある。
記録的な債務
パンデミック中、以前起きた景気後退局面(世界大恐慌と世界金融危機という、最大規模のものを含む)をはるかに超える速さで赤字が増え、負債が累積した。その規模に匹敵するのは21世紀に起きたふたつの世界大戦のみだ。
IMFのグローバル債務データベースによれば、借入は2020年に28%ポイント急増し、国内総生産(GDP)の256%まで上昇した。このうちの約半分は政府が占め、残りは非金融企業と家計部門だ。公的債務は今や世界全体の40%を占め、ここ60年弱で最大となっている。
この増加に占める新興市場国および途上国(中国を除く)の割合は比較的小さい。その公的債務は1990年代をはるかに下回る水準にあるが、債務は近年着実に増加してきた。これは、民間市場を利用する能力や信用力の増加、国内債券市場の発展を一部反映した結果だ。債務の返済費用も急増しており、低所得国の約60%は、債務返済の危機に陥っているか、そのリスクを抱えている。
インフレ加速によるリスク
債務に対する返済費用の低さは最近まで、先進国の記録的な公的債務に対する懸念を和らげる要因だった。これにはふたつの要素がある。ひとつ目は、名目金利が非常に低かったことだ。実際、ドイツや日本、スイスなどの国では、イールド・カーブ上の償還期間を問わず、ゼロに近いまたは負の水準にあった。ふたつ目は、実質中立金利が多くの国(米国やユーロ圏、日本、複数の新興国)で急な下落傾向にあったことだ。
これに加え、実質金利が実質成長率を下回っていたことで、財政拡大が痛みを伴わないとの理解につながった。しかし、リスクに対する認知が高まり、金融引き締めが見込まれるなか、債務の脆弱性に再び注目が集まっている。
公的および民間部門の借入残高が高いと、財政的な脆弱性をもたらすが、これはすでに懸念事項となっている。債務比率が経済規模を超えている先進国が著しく増加している。負債が歴史的に高い水準にあることが、ファンダメンタルズのより弱い国の長短金利格差を拡大させ、これら国での借入コストを増大させるリスクがある。さらに、予期せぬインフレが対GDP債務比率を短期的に下落させるかもしれないが、最終的には持続的なインフレとインフレ・ボラティリティが借入コストを増加させる可能性がある。このプロセスは、債券の償還期限が短い国で短期間のうちに発生しうる。
先進国では、経済活動とプライマリーバランス(基礎的財政収支)、歳出、歳入が2024年までにパンデミック前予想の水準まで戻りそうだが、途上国の状況はかなり厄介だ。新興国と低所得国では、GDPおよび歳入の低下が続いている。これは、パンデミックの影響によりプライマリー支出が持続的に減少し、持続可能な開発目標(SDGs)の達成がさらに難しくなることを示唆している。これは世界にとっての問題である。
エネルギーと食料価格の急騰は、最も貧しく脆弱な国に対してさらなる圧力を与えている。低所得国では、食料が家計消費支出の最大60%を占める。これらの国では複数の問題がぶつかり合っている:人道的支援に対する差し迫ったニーズと非常に切迫した財政的制約だ。石油や食料の輸入に頼っている低所得国では、このショックへの対処として、援助を必要とする家計を支援しながら、収支を合わせるために無償資金を増やしたり譲許性の高い融資を提供したりすることが必要となるかもしれない。
グローバルな金融環境は引き締め傾向にあり、主要中央銀行がインフレ抑圧のために利上げに動いている。ほとんどの新興国のソブリン債は、米国債とのスプレッドがパンデミック前の水準をすでに越えている。中国からの対外融資の減少によって、信用収縮は悪化している。同国は、不動産部門の支払能力をめぐる懸念に取り組んでいるほか、上海やその他主要都市でのロックダウンを延長し、新しい経済成長モデルへ移行していることに加え、途上国への既存ローンに関する問題に直面している。
世界が協力し合うアプローチ
債務再編の頻度は増える見込みだ。債権者特性の多様化が進んでいるため、協調に関して過去よりもさらに複雑な問題に取り組む必要性が出てくるだろう。より秩序のある債務再編のための体系を整えておくことは、債権者と債務者の両方にとって最大の利益となる。
低所得国にとって、債務支払猶予イニシアティブ(DSSI)は2021年末に期限を迎えた。G20によるDSSIを超える債務処理の共通枠組みはまだ実現していない。さらなる改善が必要だ。同枠組みには入れないが、世界が協力し合うアプローチの恩恵を今後受けるような、より広い範囲の新興国および途上国を助けるための選択肢も探るべきである。なんとなくうまく切り抜けることは、債務者および債権者、より広い意味では世界の安定と繁栄のためのコストとリスクを増大させることになりかねない。最終的には、最も貧困な家計がその影響を一番身近に感じることになるだろう。
ソブリン債のリスクが増大し、財政的制約が政策課題の中心に戻るにつれ、債務問題を秩序ある解決に導き、債務不履行を防ぐためには、世界が協力し合うアプローチが必要だ。債務者と債権者の見解と利益は、バランスの取れた形で反映させなければならない。
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ヴィトール・ガスパールはポルトガル国籍、国際通貨基金(IMF)財政局長。IMFへの加入前は、ポルトガル中央銀行で政策に関わる様々な要職を歴任(直近では特別顧問)。2011年から2013年にポルトガルの財務大臣、2007年から2013年に欧州委員会欧州政策顧問局(BEPA)局長、1998年から2004年に欧州中央銀行調査局長を務めた。ノーバ・デ・リスボン大学で経済学博士号とポスト・ドクター学位を取得。また、ポルトガル・カトリカ大学でも学位を取得。
セイラ・パザルバシオグはIMFの戦略政策審査局長として、IMFの戦略的な方向性と、機関としての方針の設計・実行・評価に関する業務を主導している。また、G20や、国際連合など国際機関とIMFの関係を統括している。