国際金融安定性報告書

高金利時代のための
金融政策と気候政策

2023年10月

インフレが高止まりし、金利が 「より高くより長い」水準に留まる見通しの中、世界経済の成長に対するリスクは依然として下振れ方向に傾いている。

第1章では、世界経済の成長に対するリスクが、2023年4月の国際金融安定性報告書における評価同様、下振れ方向に傾いていると評価している。市場参加者が期待していたソフトランディング(軟着陸)が実現しなかった場合、金融システムに見られる亀裂が憂慮すべき断層へと化す可能性がある。

第2章では、国際銀行システムに注目し、強化した世界的ストレステストと、新たに開発された一連の市場ベースの指標を用いて、金利がより長期にわたってより高い水準で推移する環境における脆弱性について、新たな評価を示す。明らかになった脆弱性を踏まえ、監督慣行と規制基準の強化を提案している。

第3章では、新興市場国・発展途上国における気候変動緩和への投資ニーズを満たすには、民間の資本を誘引する幅広いポリシーミックスが必要になると指摘している。

分析章

第1章 ソフトランディング(軟着陸)となるか、急下降となるか?

先進国の多くでコアインフレが高止まりする中、中央銀行は金融政策を、市場が現在織り込んでいるよりも長く引き締めておく必要があるかもしれない。新興市場国は、インフレ抑制がより進展している様子だが、地域によって違いが見られる。世界経済においてディスインフレーションがこのまま進み景気後退を回避できる「ソフトランディング(軟着陸)」に対する期待から、金融情勢は2023年4月の国際金融安定性報告書の時期と比べて和らいだ。株価は反発し、信用スプレッドは引き続き低く、新興市場国通貨は値上がりした。インフレ見通しが予想外に上昇した場合はソフトランディングのシナリオに暗雲が立ち込め、資産価格が大幅に調整される可能性がある。

第2章 世界の銀行システムの脆弱性に関する新たな観点

第2章は、金利がより長期間に渡りより高い環境における世界の銀行システムの脆弱性を新たな観点から評価する。2023年3月に起きた銀行の混乱から教訓を得るために改善された世界的なストレステストでは、先進国の多くの銀行が、証券の値洗いと貸倒引当金によって大幅な資本損失を出す可能性があることが明らかになった。テスト結果は、市場データとアナリストの予測に基づいて新たに開発された一連の指標と一致しており、米国ではかなりの数の小規模銀行がリスクにさらされ、また、アジアと中国、欧州ではリスクが高まっていることを示す。こうした脆弱性への対応として、政策当局者はリスク評価方法を磨き、ストレステストをより厳しくし、金利リスクに対する自己資本基準を上げるほか、銀行はストレス時に中央銀行の制度にアクセスできる体制を整えるべきである。

第3章 新興市場国と発展途上国において民間の気候資金を引き出すための金融セクター政策

新興市場国と発展途上国(EMDE)では、気候変動緩和への大規模な投資ニーズの大半を民間部門が満たさなければならない。EMDEは、信用格付けが低い国が多いことなど、民間の気候資金を呼び込む上で課題に直面しており、潜在的な投資家層が限られてしまう。主要な銀行・保険会社の気候政策はネットゼロ排出目標に合致していない。サステナブル投資ファンドは急速に成長しているものの、気候にプラスの影響を与える商品に充てられる投資資金は極わずかである。

カーボンプライシングを導入する際の政治的な難題と、EMDE特有の課題を踏まえると、こうした国々の気候変動緩和への民間投資にとって魅力的な環境を整備するため、幅広いポリシーミックスが必要になる。EMDEで資本コストを下げ、国内の資金源を動員し、信用格付けを改善するには構造政策が鍵となる。ポリシーミックスのもうひとつの重要な要素は、金融セクター政策である。金融セクターの政策は、気候にプラスの影響をもたらすことに重点を置くとともに、EMDEが直面する特有の状況を考慮するべきだ。低所得国では、追加的な国際支援と政策イニシアティブが不可欠である。IMFの強靭性・持続可能性ファシリティ(RSF)は、改革を支援することにより、民間資本を呼び込むための投資環境を整備する助けとなりうる。

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