戦争が経済回復を抑制する
世界経済の見通しと政策
ウクライナでの戦争が主な要因で、世界経済は2022年に大幅に鈍化する見込みだ。紛争の結果、ウクライナのGDPは2桁台の大幅下落となるだろう。ロシア経済は、欧州各国がロシアからのエネルギー輸入の削減を決めたことや、これまでの制裁が重しとなり、大幅に縮小するだろう。戦争の経済的な打撃は、一次産品市場や貿易、そして程度は低いが金融のつながりも一経路となり、広範囲に伝播していくこととなる。燃料と食料の値上がりはすでに世界に影響しており、低所得国を中心に弱い立場の人々が一番大きな打撃を受けている。
第2章 民間債務と世界経済回復
パンデミックが勃発してすぐに、民間部門の融資へのアクセスを維持するため、異例の措置が導入されたことで2020年に景気がもっと後退する事態を避けられた。こうした政策は景気を下支えするうえで大きな効果を発揮した一方、消費者や企業の債務が急増することとなった。本章は債務の急増が回復ペースに影響する可能性を検証する。マクロ・マイクロレベルのデータに基づく実証的分析によると民間債務の合計値からは見えてこないものもあり、一部の国ではさまざまな要因で回復が弱くなる可能性がある。今後の金融・財政引き締め策は、最も脆弱な者への打撃が大きいため、パンデミック時代の支援政策を解消していくにあたりこうした要素に注意を払わなければならない。
第3章 よりグリーンな労働市 場:雇用、政策、および経済変革
本章は、グリーンな経済変革が労働市場にとってどのような意味合いを持つのかについて検証する。主に先進国を対象とした実証分析によると、環境に優しい仕事も環境を汚染する仕事も、少数の労働者に集中している。また、汚染集約型に就く労働者がグリーン集約型の仕事へ転職する際に厳しい課題に直面することが分かった。より強力な環境政策は、労働市場のグリーン化に役立つ。また、労働者の再配分のインセンティブが阻害されなければ効果が高まる。モデルでシミュレーション解析を行ったところ、グリーンなインフラの推進と炭素価格、勤労所得税額控除(EITC)、研修などを盛り込んだ一連の政策は、包摂的な移行で2050年までに排出量実質ゼロの経済を実現する可能性がある。
第4章 パンデミック下の世界貿易とバリューチェーン
新型コロナのパンデミックが始まった当初、需給ショックが貿易の劇的な縮小につながると見られた。しかし、サービスの貿易が依然として低迷する中でもモノの貿易は比較的速く持ち直した。パンデミック中に生産と貿易の主要な世界的ネットワークと貿易が混乱したことで、生産を国内に移すことを求める声も高まった。本章では、サービスからモノへの需要の転換はパンデミック特有の要因が根底にあることが明らかになった。また、パンデミックの抑制政策が貿易相手国に及ぼす負の波及効果は大きかったものの、その持続期間は短く、貿易とバリューチェーンは総じて強靭であったといえる。それでもなお、将来のショックに備えるため、原材料の調達先を多様化し代替可能性を高めることで生産と貿易の世界的ネットワークを強化できる。