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アジアの生産性向上、デジタル化が鍵

世界経済の成長が鈍化する中、テクノロジーの導入を促進し、デジタルデバイドを解消することが、域内の生産性と生産高を高める要因となる。

アジアのパンデミックからの力強い景気回復は、金融環境の引き締まりや輸出需要の減少、中国経済の異例な急減速によって見通しが暗くなるにつれ、勢いを失っている。

より広義には、パンデミックによる経済の深刻な傷跡とそれに先立つ生産性の伸び悩みが、この地域の長期的な成長見通しを圧迫している。  しかし、こうした課題がある中でも、アジアが歴史的にリードしてきた分野、デジタル化で域内の生産性を高めるための有望な道筋が見える。

デジタル技術は、公共部門と民間部門の効率を高め、金融包摂を拡大し、教育へのアクセスを改善し、企業が遠方の顧客にサービスを提供できるようにすることで新しい市場を開拓することができる。たとえば、パンデミックの間、デジタル化によって健康衛生と社会福祉に充てる貴重な資源の配分が改善され、公共支出の漏れを抑制しながら迅速な救済を提供することができた。デジタル化はパンデミック中、大規模な財政支援とともに、レジリエンスを下支えした。テレワークとオンライン販売によって雇用や教育、企業が守られたのだ。

デジタル大国としてのアジア

アジアのデジタル化は近年拡大しており、製造の自動化から電子商取引のプラットフォーム、デジタル決済に至るまで、幅広いイノベーションが見られる。同地域はパンデミック直前、デジタル技術およびコンピューター技術の特許の60%を占めていた。20年前は40%だった。製造業が盛んなアジアは、産業用ロボットの導入において世界をリードしている。中国は最大のロボット採用国であり、市場の約30%を占めている。

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日本の楽天、中国のアリババグループ、インドネシアのGoToグループは電子商取引の大手であり、収益は米アマゾンや米ウォルマートに匹敵する。インドはインディア・スタックとして知られるデジタルインフラで先駆的な取り組みを進め、デジタル決済 とIDを統合して金融へのアクセスを拡大する方法を示す主要な例となっている。バングラデシュ、インドネシア、ベトナムで増加する若年層は急速に新しいテクノロジーを採用し、デジタル経済の大きな潜在的顧客ベースになっている。

パンデミックは、この地域のデジタル化の動きを加速させた。パンデミックの間、テレワークと電子商取引の技術に関する特許出願が、電子商取引への支出と同様に急増し、アジアは現在、世界のオンライン小売売上高の60%近くを占める。ベトナムとインドネシア、インドは2020年に電子商取引の収益が40〜50%増加し、世界の大半の地域を上回るペースだった。

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この急速な増加は、現金離れと、その結果として電子ウォレットとプリペイドカードを中心としたデジタルの代替手段が急速に広がったことによって促進された。

デジタルデバイドが進展を阻害

デジタル化における成功が見られる一方、アジアはデジタルデバイドによって生産性の伸びが抑制されている。最先端のデジタル技術へのアクセスは、国内および企業間で非常に不均一である。

中小企業は、デジタル技術へのアクセスと使用に関して大きな障壁に直面する。われわれの新しい論文で述べている通り、アジアの 新興国および発展途上国の中小企業のほぼ半数と大企業の約3分の1が、テクノロジー採用の主要な障壁として資金調達の難しさを報告している。これらの企業はデジタル化の水準が低く、新しい技術へのアクセスと導入が困難であるため、パンデミック中、テレワークやオンライン販売が困難だった。

技術導入が進んでいる企業と遅れている企業の間に見られる差も、技術格差の要因だ。デジタル技術に精通した労働力の不足、デジタルインフラへの不平等なアクセス、データ保護と知的財産権に関する適切な法律の欠如などの法的環境の不具合が制約となり、情報共有と技術採用への信頼を妨げている。

また、デジタルデバイドによって、労働者がニューエコノミーに参加し、潜在能力を最大限に発揮する恩恵を享受することが妨げられている。たとえば、インドネシアでインターネットを使用している人口は全体の4分の1に過ぎず、東南アジアで最もインターネット普及率が低い国のひとつとなっている。また、ベトナムとバングラデシュでは手頃な価格でインターネットにアクセスできるが、接続が遅いことがよくある。

政策の道筋

デジタルリテラシーを一段と向上させ、企業と業界、労働者間のデジタルデバイドを縮小することは、生産性のギャップを埋めることに役立つ。

われわれが発表した新たな論文は、アジアの生産性と成長を押し上げるために、広範なイノベーションとデジタル化を強化するために必要な改革に焦点を当てている。

改革の優先事項は次のとおり。

アジアは引き続きデジタルイノベーションを主導するだろう。企業と業界、労働者がテクノロジーへ平等にアクセスする環境を促進することは、アジアがデジタル化による経済的利益を完全に享受することに役立つ。