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暗号資産とアジア株の連動性高まる、規制の必要性が浮き彫りに

アジアでの暗号資産の受け入れは世界でもあまり類を見ないものだ。インドやベトナム、タイなどでは、個人から機関投資家までが積極的に採用している。これは、暗号資産がどの程度アジアの金融システムと統合されているか、という重要な問題を提起する。

デジタル化は、環境に優しい支払システムへの移行を支え、金融包摂を推進する一方、暗号資産は金融の安定性に対するリスクともなりうる。

新型コロナウイルスの世界的大流行(パンデミック)以前、暗号資産と金融システムはほぼ無関係のように見えた。ビットコインやその他資産とアジアの株式市場との間には相関性がほとんど見当たらなかったため、金融の安定性に対する懸念はあまりなかった。

しかし、何百万もの人々が家で時間を過ごし、政府からの援助を受け取っている間に暗号資産の出来高は急騰。低金利や融資条件の緩和も重要な役割を果たした。世界の暗号資産の時価総額は、昨年12月までのわずか1年半で20倍の3兆ドルに膨れ上がった。その後、中央銀行がインフレを抑えるために利上げをし、借り入れコストが上昇したため、6月までに1兆ドル未満に急落した。

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金融部門は一見、これら急激な動きとは無関係のようにも見えたが、将来起こりうる過熱とその後の急後退のエピソードは関係してくる可能性がある。暗号資産と従来の金融資産または負債の両方を保有する個人投資家や機関投資家を通じて、波及するかもしれない。暗号資産で大きな損失を被った場合、これらの投資家はポートフォリオの調整を余儀なくされ、金融市場の大きな変動や従来型負債のデフォルトを引き起こす可能性さえある。

アジアの投資家が暗号資産に殺到する中、同地域の株式市場とビットコインやイーサリアムなどの暗号資産のパフォーマンスの相関性が高まった。ビットコインとアジア株式市場のリターンやボラティリティの相関性は、パンデミック以前こそ低かったが、2020年以降は大幅に上昇している。

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例えば、ビットコインとインド株式市場のリターンの相関は、パンデミック前から10倍となり、暗号資産のリスク分散効果が限定的であることを示唆している。ボラティリティの相関は3倍となり、暗号資産と株式市場との間で、リスク志向が相互に影響し合う可能性があることを示唆している。

アジアでの暗号資産と株式市場の相互関連性を高める主な要因としては、株式市場や店頭取引市場で暗号資産関連のプラットフォームおよび投資商品がますます受け入れられていること、また、より一般的にはアジアの個人・機関投資家による暗号資産への投資拡大などが考えられ、彼らの多くが株式市場と暗号資産市場の両方でポジションを保有している。

1月の世界の金融安定に関する提言で発表された波及効果分析法を用いると、アジアでの暗号資産と株式の相関性の高まりに伴い、インドとベトナム、タイでは、暗号資産と株式との間でボラティリティの波及効果が急激に高まっていたことが分かる。これは、上記2種の資産間で相互連関性が高まっており、金融市場に影響を与えるようなショックが波及する可能性があることを示唆している。

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そのため、アジアの政策当局者は、暗号資産の普及が進むにつれ、同資産がもたらすリスクの高まりにますます敏感になっている。彼らは暗号資産の規制に対する取り組みを強化し、インドやベトナム、タイなど複数の国で規制枠組みの整備が行われている。

さらに、国内および国際的な規制当局が暗号資産の所有と使用、従来の金融部門との関わりについて、完全に把握することを妨げるような重要なデータギャップに対処するための十分な対策も必要である。

アジアでの暗号資産に対する規制枠組みは、各国での暗号資産の主な用途に合わせて調整すべきであり、規制対象の金融機関に関する明確なガイドラインを策定し、個人投資家への情報提供と保護に努めるべきだ。また、暗号資産への規制が十分に効果を発揮するためには、法域を越えた緊密な調整や連携が不可欠となるだろう。

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ナダ・シュエイリは、20219月から国際通貨基金(IMF)のインド・ミッション・チーフを務める。それ以前は、マレーシアとシンガポールのミッションチーフを歴任。23年間にわたるIMFでのキャリアの中で、欧州新興国や中東、アジアなど様々な国に関する業務に取り組み、副専務理事オフィスのアドバイザーも数年務めた。201415年のIMF休職中は、世界銀行のアルジェリア・リビア担当リードエコノミストを務めた。レバノン出身。ベイルート・アメリカン大学で経済学の学士号、米国ボルチモアのジョンズ・ホプキンス大学で経済学の博士号を取得。

アンマリー・グルデウルフIMFアジア太平洋局副局長。ドイツ国籍。同局において、南アジア諸国(バングラデシュ、ブータン、インド、モルディブ、ネパール、スリランカ)およびいくつかの東アジア諸国(カンボジア、ラオス、ミャンマー、タイ、ベトナム)に関する業務と優先政策課題、ならびに金融セクター問題に関する業務を統括。欧州局勤務、アフリカ局副局長を経て2019年より現職。ドイツ・テュービンゲン、米国セントルイス、ドイツ・キールにて経済学および政治学、歴史学を学び、スイス・ジュネーブ高等国際問題研究所にて国際経済学の博士号を取得。為替制度やカレンシーボード、金融安定性と開発の問題を中心に、国際経済学に関して多くの論文を執筆。

タラ・アイヤーは、IMFの通貨・金融市場局、国際金融安定性分析課のエコノミストで、国際金融安定性報告書の執筆に参加。現在の研究テーマは、投資信託、暗号資産、新興国での金融政策など。IMFに加わる前は、アジア開発銀行に勤務し、ハーバード大学の研究員も務めた。  デューク大学で経済学の理学士号、オックスフォード大学で経済学の研究修士号と博士号を取得。以前はプロテニス選手として活躍。

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