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一次産品と新型コロナ、金利上昇を要因に減速するアジアの成長

アンマリー・グルデウルフ、サンジャヤ・パンス、シャナカ・J・ピーリス 著

アジア太平洋地域の政策当局者は難しいトレードオフ(両立困難な課題)に直面しており、長期的な成長を促進する経済改革を実行しつつ、燃料・食料コストの上昇から最も脆弱な層を守る必要に迫られている。

アジア太平洋地域では、ウクライナにおける戦争とパンデミックの再燃、そして国際金融環境のタイト化という逆風を受けて、経済成長が年初の予想に比べて鈍化する見込みだ。

IMFの最新の予測によれば、同地域の今年のGDP成長率は1月時点の予測を0.5%ポイント下回る4.9%となり、昨年の6.5%から減速することになる。また、多くの国で、元々の水準が相対的に低いもののインフレ率の上昇が加速すると見られている。

成長が減速し物価が上がることで、戦争や感染拡大、金融環境のタイト化という課題と合わさって、回復の下支えとインフレおよび債務の抑制との間の政策トレードオフがより一層困難になる。

IMFの最新の予測によれば、ロシアによるウクライナ侵攻が経済成長にとって最大の課題となる。域内の先進国が欧州の需要低下による打撃を最も大きく受けるのに対し、新興市場国は世界的な一次産品価格の上昇の影響を受ける。

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最新の「世界経済見通し(WEO)」では、2022年の世界経済成長率の予測が0.8%ポイント引き下げられ3.6%となっている。これは、ユーロ圏の成長率予測が1.1%ポイント減の2.8%となったことを反映する。アジアの先進国は欧州と強いつながりがあるため、欧州で成長が鈍化すれば外需の重石となり、最終的には日本や韓国などアジア域内の主要貿易相手国の成長を圧迫することになる。

アジアの新興市場国・発展途上国の多くは石油やガス、金属の純輸入国であり、世界的な一次産品価格の上昇に対してとりわけ脆弱である。つまり、交易条件(ある国の輸入価格に対する輸出価格の比率)の悪化によって、成長が低下し、通貨が弱くなり、経常収支が悪化する可能性が高い。食料・燃料コストの高騰によって、それらが消費者支出の大部分を占める低所得国を中心に、インフレ圧力が高まる。

アジアの大半において新型コロナウイルスの感染は、オミクロン株が急拡大した時期のピークから後退しており、移動に関する指標はパンデミック前の水準に近づきつつある。最も顕著な例外が中国であり、中国では上海などのロックダウンによって経済活動が広範囲にわたり休止状態である。域内と世界のサプライチェーンにさらなる混乱をもたらす恐れがある。こうしたロックダウンが一因となって、中国の今年の成長率は4.4%に減速すると予測されており、それは貿易と需要の収縮を通じてアジアの新興市場国に影響を及ぼすことになる。

引き締めとインフレ

国際金融環境のタイト化が経済成長の重石となる。主要アジア諸国では、米連邦準備制度が米国の金利を引き上げ始めたのに伴い、国債利回りが上昇し始めている。われわれの予測は、国外における引き締めの継続と国内におけるインフレの進行によってアジアの多くの中央銀行が自らも利上げを行い、投資の足を引っ張ることになるという予想を前提としている。

経済見通しに対するリスクには、冒頭で述べた3つの主な逆風の高まりが含まれる。

ウクライナにおける戦争がエスカレートすれば、食料・エネルギー価格がさらに上昇し、脆弱な世帯にとってのストレスが高まり、社会不安がより多くの国へ拡大する恐れがある。

米国における金融政策引き締めのペースまたは規模、あるいはその両方が市場の現在の予想を大きく上回れば、アジアに大きな波及効果が及ぶことになるだろう。その結果として混乱を招くような資本流出が起きる場合には、影響を受けた国の中央銀行は全ての政策手段を一体的かつ賢明に活用することで対応しうる。資本流出による下振れリスクは、強力なバッファーが構築されている国では軽減するが、高水準の債務に加えてほかにも脆弱性がある国では増幅する。

最後に、中国経済の減速がより広範なロックダウンや、不動産部門の継続的な低迷といったその他のリスク要因によって深刻化する場合にも、アジア域内の貿易の結びつきを踏まえれば、地域全体に大きな影響が及ぶことになるだろう。

より一般的には、この数十年間にグローバル化に伴う富の増大やその他の経済的利益に支えられて繁栄してきた地域にとって、サプライチェーンの潜在的な分断と地政学的緊張の高まりが引き続き、より長期的なリスクとなる。

求められる強力な対応

成長に対する圧力に対処し、困難を伴う短期的なトレードオフを管理するためには、各国固有の状況に応じて調整された強力かつ協調的な政策対応が必要となる。域内の各当局は以下を行うべきである。

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アンマリー・グルデウルフIMFアジア太平洋局副局長。ドイツ国籍。同局において、南アジア諸国(バングラデシュ、ブータン、インド、モルディブ、ネパール、スリランカ)およびいくつかの東アジア諸国(カンボジア、ラオス、ミャンマー、タイ、ベトナム)に関する業務と優先政策課題、ならびに金融セクター問題に関する業務を統括。欧州局勤務、アフリカ局副局長を経て2019年より現職。ドイツ・テュービンゲン、米国セントルイス、ドイツ・キールにて経済学および政治学、歴史学を学び、スイス・ジュネーブ高等国際問題研究所にて国際経済学の博士号を取得。為替制度やカレンシーボード、金融安定性と開発の問題を中心に、国際経済学に関して多くの論文を執筆。

 

サンジャヤ・パンスIMFの戦略政策審査局の副局長として、IMFのサーベイランスの方針の設計と実行を主導し、さらに経済的リスクと国別の脆弱性評価に関する業務を統括している。

 

シャナカ・J・ピーリスはアジア太平洋局地域研究課の課長として地域経済見通しの出版を主導する。これまでにミャンマーのIMFミッションチーフとASEANのマクロ金融サーベイランスを担当する課長補佐を務めた。それ以前は、フィリピンの駐在代表とトンガのミッションチーフ、アジアとアフリカの広範なサーベイランス兼プログラム担当などの職務経験を積んだ。英チーヴニング奨学金を受けオックスフォード大学で経済学の博士号を取得した後、2001年にIMFエコノミスト・プログラムに参加した。包摂的な成長や金融政策とインフレ、債券市場、銀行と金融、新興国市場のマクロ経済モデルなど幅広い分野の学術論文を発表しているほか、ASEANやサブサハラアフリカについての本の共同編集を務めた。

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