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繁栄への道は国際公共財としての平和に対する国際社会の支援にかかっている。

4月に勃発したスーダン危機は、今日の統合されたグローバル経済において暴力的な紛争がもたらす広範な波及効果をまざまざと思い知らせるものだ。紛争が本格化すれば、スーダン国民が苦しむだけでなく、地域全体の不安定化につながるだろう。中央アフリカ共和国やチャド、エチオピア、リビア、南スーダンといったスーダンの隣国は、すでに紛争や社会不安、食料不安に直面している。

この10年間に、アフリカと中東の全域でそうした動向が激しさを増している。敵対勢力は様々であり、暴力的な過激派集団や地域の民兵組織のほか、ワグナー・グループのような民間の傭兵も含まれる。しかし、人々や各国の経済に及ぼす影響は等しく有害なものである。マリやブルキナファソをはじめとして、サハラ砂漠のすぐ南に位置するサヘル地域のアフリカ諸国では、2022年に死者を伴う暴力がピークに達し、260万人の人々が避難を余儀なくされた。紛争によって、何千もの学校や保健センターが閉鎖に追い込まれている。

過去のIMFの分析によると、サヘル地域では紛争や治安悪化によって最大20%経済が収縮する可能性がある。サブサハラアフリカ全体では、30%の国が紛争の影響を受けていると考えられており、最近のある研究では、平和な国に比べて年間成長率が2.5%ポイント低くなっていると試算されている。こうした傾向は、一般的に、アフリカ大陸自由貿易協定のような地域統合の取り組みが可能にしうる運輸や電力、デジタルの連結性への重要な投資を遅らせるか、阻害することになる。

ロシアのウクライナ侵攻によって世界の脆弱性と紛争をめぐる状況の悪化に拍車がかかる中にあって、スーダンは直近の引火点のひとつにすぎない。このような状況が長引けば、2030年までに世界の貧困層の60%以上が脆弱国・紛争被害国で暮らすことになる。こうした傾向に歯止めをかけるためには、安全保障上、外交上、人道上の努力が非常に重要となる。そのため、国際社会は、支援を拡大し、国際公共財としての平和と安定を支える資金調達ソリューションを開発しなければならない。国際公共財とは、複数のグループの国々に恩恵をもたらし、現在と将来の世代が対象となるような諸制度、メカニズム、成果のことをいう。

負の国際公共財

こうした現状は、紛争を悪化させかねない諸々の現象を考慮に入れると、より一層複雑になる。紛争の影響を受けている国がすべて脆弱なわけではないが、低い経済パフォーマンス、低能力の諸制度、貧弱なガバナンス、極度の貧困、限定的な公共サービスの組み合わせである国家の脆弱性は、暴力の前触れとなることが多い。脆弱国は、安全や正義、包摂的な成長に対する要求の調停を行うのにより苦労することになる。その結果、政府は、より安定した国々と比較して、社会契約を公平に実現できていない、また、信頼性と正統性を欠いていると認識される。こうした動きは、多くの場合、社会不安と暴力を誘発する。  

脆弱国は、食料価格の高騰やパンデミック、気候関連リスクといった外的ショックに対する脆弱性も高くなる。難民の流入は、短期的な財政圧力だけでなく、経済に対する長期的な影響をもたらす場合がある。政策調整のための制度的能力が不十分である場合には、労働市場の不適切な配分が長引き、各国は新規参入者によってもたらされうる利益を享受することができない。若者は創造性や民間部門の起業家精神を媒介する存在となりうる。しかし、脆弱国においては、若者は仕事に就いていなかったり教育や訓練を受けていなかったりすることが多い。これは、若い女性について特に当てはまる。若い女性はジェンダーに基づく暴力の対象にもなっている。

したがって、最も脆弱な国々は、限界に達している対処能力にさらに負荷をかけるような重複する危機に対応しなければならない。そうした国々のレジリエンスは、新たな試練に直面する中で、すでに低下している。例えば、気候変動の複雑な影響は、適応を伴わなければ、脆弱性の要因をさらに悪化させる可能性がある。

各国が失敗すれば、波及効果は広範囲に及ぶ。紛争や国家の脆弱性は、「国際公共悪(global public bads)」、つまり国際公共財の反対のものになる。複数の世代にわたって多くのグループの国々に損害を与えるからだ。

脆弱性や紛争、そしてそれに関連した波及効果は、経済学者の用語でいう「非排除的」なものに当たるとみなすことができる。すなわち、当事国では誰もがその直接的または間接的な影響を受ける。また、「非競争的」と見ることも可能だ。つまり、ある国が脆弱性に見舞われたり紛争に巻き込まれたりする場合、他の国がその後に続くことを妨げない。通常、そうした伝播が実際に起こる。

今年になって、国連は紛争や自然災害の影響を受けた世界の3億3,900万人の人々を支援するために、510億ドルの人道援助が必要になるとの試算を示した。そうした人々の命運は、より豊かな国に暮らす人々の命運と表裏一体である。流れを変えるためには、われわれは過去の教訓に学び、脆弱性と紛争をめぐる世界の動向が謙虚さとリアリズムを必要としていることを認識する必要がある。その上で、国際公共財としての平和と安定を促進するのに最も効果的な方法について考えなければならない。

平和と安定のアジェンダ

パンデミックに対するレジリエンスや環境保護、国際金融安定性の確保は、どれも国際公共財に含まれる。しかし、中心に位置するのは平和と安定である。脆弱性や紛争が蔓延する場合には、政府や国際機関、民間部門、市民は共通の目標に関して前進することができない。紛争は分断をもたらし、貿易や資本フロー、移民の逆流を引き起こし、各国間の協調を阻害する。

指導者や政府は、国家や社会が脆弱性や紛争に屈しないようにする上で第一義的な責任を負っている。人道支援や和平のアクターは、こうした文脈においてしばしば主導的な役割を果たす。しかし、紛争の予防も長期的な安定も、国際金融機関(IFI)による協力的で長期的な関与がなければ持続可能ではない。世界銀行やIMF、その他のIFIといった機関は、脆弱性や紛争の経済的側面に対処できる特異な立場にある。負の国際公共財の影響を受けない国はないため、根本的な原因に対処するには、グローバルな糾合力と鋭い分析、大規模な資金調達を組み合わせることが必要になる。根本的な原因は、経済学や政治経済学、ガバナンスに関係していることが多い。

どのような種類の介入が国際公共財としての平和に貢献しうるだろうか。今日、紛争は平均で30年続く。1990年代に比べて2倍の長さとなっている。その理由は、交渉で解決しても根本原因の解消には至らないことが多いからである。したがって、介入に際しては、諸制度や各国経済、地域社会の強化に資するような予防のプログラムやプロジェクトにまず焦点を当てる必要がある。住民の大部分が権力や経済的機会、安全へのアクセスから排除される状態が固定化している環境においては、従来型の貧困削減や開発のプログラムでは十分ではない。

政策助言や開発プロジェクトは、医療や教育のような公共サービスを遅れている地域に拡大するのに役立つものでなければならない。それは、国家への不信感を高める持続的な不満に対処することになる。ガバナンスの変化は、天然資源の管理を改善し、公的資金がエリート集団の少数のメンバーだけでなく人口の大半を利するようにすることを通じて、信頼を再構築し、国内歳入を確保する助けとなる。

紛争リスクが高い場合には、対象を絞った社会保護プログラムや、脆弱層に対する経済政策の効果が社会不安を回避する上で一定の役割を果たしうる。経済的利益は、分断と格差の政治を避け、政策当局者の信頼性を高めるために、広く共有されるべきである。これは、一国内における紛争の場合に特に当てはまる。そのような紛争においては、最初の火花が暴力に発展するまでに何年もかかることがあり、先を見据えながら対応するチャンスが存在しうる。国際金融機関には、脆弱性の根本的な原因に対処できるようプログラムを調整し、起こりつつある危機を緩和する上で、果たすべき重要な役割がある。

大規模な暴力が勃発した際には、国際金融機関は国家の崩壊を防ぎ、紛争の経済的影響を軽減するために、関与を継続すべきである。国際金融機関は、最も脆弱な人々向けの基本サービスを支援するとともに、中央銀行と決済システムが機能し続けられるよう低レベルの技術的能力開発を実施することができる。決済システムは、援助を届ける人道支援機関や、民間部門の機能にとって不可欠だが、民間部門は危機下において特に強靭性を発揮することがある。

難民など、紛争の波及効果によって影響を受ける国の場合はどうだろうか。大きな難民人口を抱えている国のうち、4分の3を低・中所得国が占めている。世界全体では、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によれば、避難を強いられた人々の数は2022年末に過去最高水準の1億800万人に達した。各国政府は、自国民のニーズに対処しつつ、新たにやって来る人々を効果的に統合するための解決策を見出さなければならない。そうすることにより、各国政府は別の形の国際公共財を提供することになる。しかし、その作業は費用がかかるため、国際的なドナー・コミュニティがコストを分担する必要がある。最近のイノベーションから得られた教訓は、支援をいかに国家や民間部門に届けることができるかを示している。社会的統合にとっては、雇用創出が最も効果的な手段のひとつとなる。

触媒的な資金

国際公共財としての平和と安定を支えるための潜在的なメカニズムは、難民に対処する中所得国を支援すべく考案された過去のイノベーションを土台にすることができるだろう。2016年に設置された「グローバル譲許的資金ファシリティ(GCFF)」がその一例である。GCFFは、シリア難民の急増に対処するヨルダンとレバノンを援助するために、カナダおよびデンマーク、ドイツ、日本、オランダ、ノルウェー、スウェーデン、英国、米国、欧州連合(EU)の支援を受けて設置されたもので、ドナーの無償資金を活用することにより、ヨルダンとレバノンの借入コストを軽減した。ドナーの無償資金1ドルにつき、7ドルの譲許的融資が可能になった。

 

グローバル譲許的資金ファシリティ(GCFF)

GCFFは、難民を受け入れる中所得国を支援するために、2016年に世界銀行と国連、イスラム開発銀行によって立ち上げられた。難民の影響に対処する開発プロジェクトを対象に、譲許的融資と連携の向上を提供している。このファシリティは、ドナーの無償資金を活用し、国際開発金融機関が実施する難民と受入コミュニティのためになるプロジェクト向け融資の金利を譲許的な水準に引き下げるものである。これまでに譲許的融資に8億ドルの資金が提供され、それを元手として、難民と受入コミュニティを支援するために約55億ドルの融資が可能になった。

各国は、難民のために借入を行ったり債務を負ったりするのを躊躇することが多い。融資コストを引き下げることは、そうした躊躇を減らすのに役立ちうる。GCFFの設置後、コロンビアとエクアドルもベネズエラからの強制移住に対応するためにその資金を活用している。また、ウクライナからの難民を受け入れたモルドバに対して即時の支援を提供する際にも、GCFFは適応力を発揮した。このメカニズムは、紛争の影響に対処する中所得国が増える中で、ますますその重要性が高まっている。脆弱性や紛争リスクの低減につながる開発プログラムや政策変更などの予防活動を賄うために、GCFFを拡充することができるだろう。

GCFFにはふたつの重要な特徴がある。国際公共財を提供する中所得国向けの譲許的融資であることと、無償資金を7倍にレバレッジして低コスト融資を行うという触媒的役割である。しかし、GCFFの他の3つの側面が、国際公共財の促進に関して重要な教訓を提供している。

第一に、GCFFは人道援助と開発援助の間の橋渡しをするものである。第二に、GCFFは受入国のレジリエンス向上と、難民に加えて受入コミュニティに対する支援を目的としている。例えば、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の参加によって、労働の権利や各種サービスへのアクセスといった政策についてより詳細な見直しを行うことが可能になっている。第三に、GCFFは欧州復興開発銀行(EBRD)やイスラム開発銀行(IsDB)といった開発銀行向けのプラットフォームを構築し、各国レベルでの連携を強化している。

革新的な資金調達メカニズムに加えて、資金調達の規模を、影響を受けている国々のニーズに見合ったものにする必要がある。イラクは2016年に、原油価格の下落と、イスラム国(ISIS)との戦いに伴う安全保障コストの上昇という二重の危機に直面した。英国とカナダからの5億ドルのドナー保証を活用することにより、世界銀行は15億ドルの融資を行うことができた。今年には、G7諸国およびEU、その他のドナーからの資金保証を活用して、ウクライナに対し、国際収支問題への対処とロシアによる侵攻を受けた対外的健全性の回復を目的とするIMF支援が提供された。こうした保証は国際公共財を提供する国を対象とする資金を拡大する有効な方法のひとつだが、脆弱国・紛争被害国に対する民間部門の投資を可能にする保証も重要である。その一例として、世界銀行の多数国間投資保証機関(MIGA)が再生可能エネルギーへの投資を促進するために2023年1月にソマリアに対して提供した保証が挙げられる。

今後に向けて:予防の強化

暴力が人間の福祉や経済的厚生に残す爪痕は、脆弱な低所得国に限ったものではない。最近の世界銀行の研究によれば、紛争が最も激しいのは中所得国、とりわけ中東と北アフリカであることがわかっている。イラク、リビア、シリアはいずれも大規模な内戦に見舞われたが、暴力が噴出する前は中所得国であった。暴力は、人命の喪失に加えて、深刻な景気後退を引き起こし、インフレを高進させ、貿易を混乱させ、財政状況を悪化させる。これらの手ごわい課題は、国内のリーダーシップと国際社会による支援強化を必要とする。多くの脆弱国は過剰債務のリスクにもさらされているのでなおさらである。国際公共財としての平和と安定を促進することは、そうした悲劇が起こる可能性を低くするのに役立つ。

国際金融機関が、それぞれのマンデートの範囲内で、以下の取り組みを促進しつつ、平和と安定を国際公共財に関するアジェンダの中核に据えることが重要である。

  • 予防に特に焦点を当てた国際社会による支援の強化。昨年、アフリカ開発銀行(AfDB)が脆弱国戦略を改訂したほか、欧州投資銀行(EIB)も独自の戦略を初めて採択した。世界銀行アジア開発銀行(ADB)2020年以降同様の措置を講じている。これらの戦略は、脆弱性や紛争に関する各国固有の症状に合わせて国際金融機関の関与や活動を調整することを目的としている。同様に、IMFの戦略では、経済の安定を達成し、レジリエンスを強化し、包摂的な成長を促進しようとする脆弱国・紛争被害国に対する支援に焦点が当てられている。こうした原則は、米国の「Global Fragility Act」のように、平和構築に関与する能力を強化し、暴力的な紛争を勃発前に予防することを目指すドナーのアプローチにとっても参考となるものである。経済改革や開発政策は、脆弱性と紛争のリスクの低減に資するよう調整されなければならない。
  • 譲許的融資の拡大。IMFはすでに、パンデミックの発生以来、24か国の脆弱国・紛争被害国に対して390億ドルの融資を約束してきた。現在は、脆弱性と紛争の影響を受けている国が多く含まれる低所得国を支援するために、貧困削減・成長トラスト(PRGT)に対する十分な資金拠出を確保すべく取り組んでいる。低所得国の支援には、予防へのインセンティブを伴う無償資金も必要である。GCFFのようなイニシアティブの教訓を生かしつつ、革新的なメカニズムをさらに拡充することができるだろう。
  • 人道支援、開発、和平のアクター間の広範な連合。この取り組みは、コロナ禍への対応や気候変動の発生への対処、強制移動への対応において結実してきた。しかし、平和と安定のための各種プログラムの連携を確実なものにすべく、そうした取り組みがこれまで以上に必要とされている。

外交上、安全保障上、人道上の援助にとどまらず、脆弱国・紛争被害国は、予防とレジリエンスのために調整された経済政策面の助言やプログラムと合わせて、支援の拡大とコストの引き下げを必要としている。将来的に極度の貧困層の大半が過度に集中することになる脆弱国・紛争被害国を支援することと、国際公共財アジェンダを前進させることは、相互に補強し合うものだ。貧困削減と成長のための永続的な基盤によって脆弱国・紛争被害国を支えることは、国際公共財そのものである。

フランク・ブスケIMF能力開発局副局長。IMFの脆弱国・紛争被害国に関する取り組みのコーディネーターを兼任。

 

記事やその他書物の見解は著者のものであり、必ずしもIMFの方針を反映しているとは限りません。