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投資が低迷し戦争が続く中、エネルギーが豊富で安価な世界からエネルギーが不足する世界へと一変した

過去10年間は、炭化水素と再生可能エネルギーの生産が急増し、エネルギーが豊富な時代が到来したようだった。これは今や遠い昔のようだ。欧州で特に言えることだ。

欧州のガス価格は2022年第3四半期に前例のない水準に達し、2019年第3四半期から約14倍に上昇した(図1参照)。同時に、米国のガス価格は3倍に上がり、世界の原油価格は約40%上昇した。

欧州のガス市場に最大打撃

2022年第3四半期以降、価格上昇はやや減速しているものの、エネルギー価格の高騰は高インフレの主要な要因のひとつであり、世界中の経済成長の大きな足かせとなっている。

世界はどのようにして、エネルギーが安価な時代から今日のエネルギー危機に、これほど速く展開したのだろうか。エネルギー市場は、ウクライナでの戦争によって混乱する前、どれほど脆弱だったのだろうか。そして、なぜ天然ガスへの影響が原油よりもはるかに大きかったのだろうか。

今世紀が始まったころから、石油・ガス投資が急増し、2014年にピークを付けた(図2参照)。

投資ブームは、新興国市場の旺盛な需要を受けた価格の高さと、技術革新を受けたフラッキング(水圧破砕法技術)による非在来型資源の掘削という米国のシェールオイル・ガス革命が促進材料だった。それは変革の時期だった。米国は炭化水素の純輸出国となり、10年以内に原油とガスの生産量が約2倍に増えた。しかし、ブームは、その後の落ち込みを招く。この場合は、米国の石油生産と、OPECが市場シェアを守るために生産を増やすことを決めたことで、エネルギー価格は2014年に暴落。結果として石油とガスの投資も世界的に大幅に減った。

投資のブームと落ち込み

これは過熱とその後の急後退という典型的なサイクルとなり得たかもしれないが、クリーンエネルギーへの移行と相互作用し、ふたつの影響があった。第1に、生産者が投資を削減し、化石燃料から急速に撤退し始めた。しかし同時に、国際エネルギー機関(IEA)によると、再生可能エネルギーへの投資が、2050年までに排出量実質ゼロという国際連合(UN)の目標を達成するのに必要な年間約1兆ドルを下回った。これらの傾向が相まって、世界のエネルギーへの投資総額が足りなくなった。

第2に、電力化が増えるにつれて、多くの国は、再生可能エネルギー(風力、水力、太陽光)の生産が中断した際の緩衝材として、また、石炭火力発電所を置き換えるために、ますます天然ガスへ目を向けるようになった。一次エネルギー総生産量に占めるガスの世界シェアは、2010年の16%から2021年には22%に増えた。IEAによると、同期間に、経済協力開発機構(OECD)加盟国の発電におけるガスの割合が23%から30%に増えた。

ウクライナでの戦争

ロシアがウクライナに侵攻する前の2021年、上記の傾向は、寒い冬と、欧州とブラジルにおける天候による再生可能エネルギー発電の低迷と合わさった。パンデミック後、世界のガス消費量が予想よりも早く回復したため、ガス市場はすでに不均衡な状態にあった。さらに、欧州が消費するガスの3分の1を供給していたロシアが、戦争が始まる前の2021年半ば頃から欧州への輸出を減らした(図3参照)。ロシアのエネルギー企業ガスプロムが、中央ヨーロッパの貯蔵施設へ供給しないことを決めた。世界の液化天然ガス(LNG)市場によって連動する傾向のある欧州とアジアのガス価格は、2019年第4四半期に100万BTU(英国熱量単位)あたり4.90ドルだったが、2021年第4四半期には33ドルと、ほぼ7倍に上がった。対照的に、2021年第4四半期の原油価格は1バレル78ドルで、8四半期前よりわずか18ドル上がったに過ぎなかった。石炭は同期間に、1トンあたり73ドルから182ドルに倍増した。

蛇口を閉める

ウクライナでの戦争の影響が波及した際、天然ガス市場はすでに深刻なストレス下にあったが、原油市場は比較的均衡が取れていた。戦争が始まって以来、ガス価格と原油価格の乖離はさらに拡大している。戦争が始まって6か月が経った2022年の第3四半期の欧州におけるガス価格はさらに75%上昇した。原油価格の上昇は、侵攻以降、わずか15%だった。

なぜガスと原油の価格はロシアからのショックにこれほどまでに異なる反応を示したのだろうか。その答えは、双方の市場の構造、そして根底にあるショックの違いにある。

分断化されたガス市場

天然ガス市場は、パイプラインに大きく依存しているため、世界的に分断化されており、地域間の裁定取引ができない。現在、世界のガス市場で統合されているのは4分の1にとどまる。欧州のパイプラインガス市場は、液化および再ガス化設備を通じてLNGの市場に繋がっている。こうした設備により、タンカーを使用してガスを横断輸送することができ、欧州のガス消費者と世界中の他のLNG輸入国(主に東アジア)の消費者を繋ぐ。

ロシアには、ガスパイプラインを通した欧州への輸出の大部分を他の場所に変えるためのパイプラインやガス液化設備が十分にない。ロシアからのガスの流れが減ったことが真の供給ショックであるのはこのためだ。これは、欧州のガス消費量の約17%と欧州以外のLNG輸入を合わせたが量が市場から消えたことに相当する。

アジアと欧州からのLNGのルート変更は、供給ショックを緩和するのに役立った。また、 EUのガス消費量が減少したほか、アルジェリアとアゼルバイジャン、ノルウェーからの供給がいくらか増えた。需要と供給の価格弾力性が低いため、こうした市場の調整を促すためには、ガス価格が数倍上がらなければならない。このため、価格シグナルを歪めることで消費者を守る政府の政策(補助金など)は役に立たない。市場の力が調整を誘発することができない場合、配給が唯一の選択肢となるが、これは経済にはるかに大きなダメージを与える。政府は、一時金やその他のメカニズムを通じて脆弱な世帯を保護することはできるが、価格シグナルは機能させ続けるべきである。

統合された原油市場

ガス市場とは対照的に、原油市場は世界的に統合されているため、ショックに対するバッファーがある。輸送・処理施設により、国境を越えた裁定取引ができる。その結果、原油市場へのショックは、依然として価格に大きな影響を与えているものの、その影響は天然ガス価格よりも一時的である。需要と供給の価格弾力性は、より大きな規模で調整できるため、高くなる。

さらに、ガス市場とは異なり、原油市場は戦争によって実際に供給ショックが起きるような事態にはなっていない。ロシアの原油輸出は2022年に安定している。制裁と、欧米諸国の企業がロシアとのビジネスを縮小したことにより、原油市場が混乱した。これらは、ブレント原油とロシア産原油価格の間のスプレッドの拡大によって部分的に吸収された。ブレント原油は上昇し、ロシア産原油は割安で売られた(図4参照)。これは、ロシア産原油をインドや中国、その他の場所に振り向けるインセンティブとなる。また、ガスとは異なり、価格急騰を抑えるために戦略的な原油埋蔵量が解放された。加えて、中国をはじめとする世界の経済活動の減速により、原油価格に下押し圧力がかかっている。

スプレッドの拡大

電力市場への影響

ウクライナでの戦争が原油市場よりも天然ガス市場に大きな打撃を与えるため、欧州の電力市場への影響は甚大である。競争が激しいいかなる市場でもそうであるように、電力価格は最高の限界生産コストによって決定される。現在、ガス発電所が最も高コストの生産者であるため、欧州における卸売電力価格はガス価格と並行して変動する。その結果、電力価格は非常に不安定であり、再生可能エネルギーと比較して発電における天然ガスのシェアが比較的低いスペインやポルトガルなどの国でさえ、最近は2021年初頭の7倍でピークに達した。

電気料金へのショックは欧州全体で感じられるが、すべての国が同じように感じているわけではない。欧州はガス市場と電力市場が統合されており、国境を越えた取引きが盛んであるにもかかわらず、インフラのボトルネックや、発電源の組み合わせの違い、補助金や価格上限に関する政策の相違がある。これらの要因により、エネルギー卸売価格に大きな乖離が生じている。

戦争が続き世界経済が鈍化する中で、今後数か月でどのような出来事がエネルギー市場に打撃を与えるかを予見するのは難しい。同時に、一方の天然ガス市場と電力市場、他方の原油市場を比較すると、分断化のリスクと、統合された市場が需給ショックを緩和するメリットが明らかになる。各国政府は、世界の天然ガスと地域の電力市場の統合を促進すべきである。再生可能エネルギーへの支援に加えて、ガス液化と貿易インフラの構築、およびより高密度の送電ネットワークを支援する必要がある。こうした対策を迅速に実行することで、ロシアのエネルギー供給の代替手段を確保するほか、再生可能エネルギーの中断に対処することに役立つ。

アンドリア・ペスカトーリはIMF調査局の一次産品部のチーフである。

Martin

マルティン・ストューマーはIMF調査局のエコノミストである。

記事やその他書物の見解は著者のものであり、必ずしもIMFの方針を反映しているとは限りません。