アジア太平洋地域経済見通し

持続可能な成長と
ディスインフレの課題

2023年10月

2023年10月 アジア太平洋地域経済見通し

概要

世界の需要がモノからサービスへ移行し、金融政策がタイト化するという逆風に直面しながらも、アジア太平洋地域が2023年の世界経済成長の原動力であることに変わりはない。同地域の成長率は、2022年の3.9%から加速し2023年は4.6%になる見込みである。しかし、2024年の成長率は4.2%に鈍化し、中期的には3.9%まで低下すると予測される。その原因は、中国の構造的な減速(第3章で詳述)、そして他の多くの国における生産性の伸び悩みで地域の潜在成長率が落ち込むためである。インフレは2024年に低下し、ほとんどの国で中央銀行の目標範囲内に落ち着く見込みであり、他の地域に比べてディスインフレのペースは速い(第2章で詳述)。見通しのリスクは6か月前に比べて均衡が取れているが、今も下振れ方向に傾いている。

中央銀行は、インフレを適切な目標で持続的に推移させるための金融政策を貫くべきである。慎重な金融監督や、現代化された破綻処理枠組みでタイトな金融政策を補完することで、金融安定性を保護すべきだ。信頼性のある中期財政枠組みと財政健全化は、財政余地や債務の持続可能性を確保することにつながるだろう。構造的措置によって、アジア全般のデリスキング戦略から生じるリスクに取り組み、一方で生産性向上、グリーン移行、そして包摂的かつ持続的な成長を確実なものとしなければならない。

アジア太平洋地域経済の成長率予測

分析章

第1章 アジア太平洋の見通し: 持続可能な成長とディスインフレの課題

世界の需要がモノからサービスへ移行し、当局が足並みを揃えて金融引き締めを進める厳しい環境のなかでも、アジア太平洋の経済活動は依然として、2023年の世界経済成長の約3分の2を占める軌道に乗っている。中国の回復が想定以上に低迷すれば、貿易相手国へのマイナスの波及効果を誘発する恐れがあり、米国あるいは地域内で急激な金融引き締めが起きれば、高いレバレッジをかけている国や部門を中心に成長が阻害される可能性がある。プラスの側面としては、ソフトランディングが現実味を帯びており、2024年に金融政策を緩和する余地を生み出すであろう。中期的な見通しは地経学的分断のリスクで不透明感が高まっており、主要経済国のデリスキング政策が成長の大きな足かせとなりうる。中国で包括的な改革が行われれば、小規模な開放経済国を中心に、中期の成長見通しを後押しするだろう。

第2章 アジア太平洋における最近のインフレ動向

アジア太平洋のインフレは2024年に落ち着き、ほとんどの国で中央銀行の目標内に収まる見込みであり、他の地域に比べてディスインフレのペースは速い。本章は、アジアのインフレが他地域より低い要因、および域内のインフレの差異について考察している。地域間の相違はインフレショックの発現方法を反映している。食料、燃料、サプライチェーンへの外的ショックは大きかったが、アジア諸国は一般的に、支配的な製品やサービスの種類、そして価格上昇を制限する直接的な政策などから、他地域と比較してこうした圧力を感じなかった。パンデミックの対応は複雑な組み合わせの需給ショックを引き起こし、ショックは時間と共に変化していった。アジア太平洋諸国ではロックダウンが全般的に長引き、需要とインフレを抑制した。パンデミック中の政策支援は地域全体で異なった。しかし、最近の財政・金融政策はインフレ率の管理・抑制に寄与している。

第3章 中国の成長トレンドは他のアジア諸国にどう影響するか

中国の将来の成長はキャッチアップ効果や人口動態といった主要な原動力が決定づける面もあるが、その道筋は、国内改革の勢いや世界の地経学的な展開など、鍵となる構造政策の推進力によって大幅に変わりうる。アジア太平洋地域における中国の重要性に鑑みれば、その道筋次第でアジアに大規模な波及効果が生じるかもしれない。本章は、中国の国内改革に関する上振れシナリオ、そして中国と経済協力開発機構(OECD)加盟国のデリスキングを勘案した下振れシナリオについて、潜在的な波及効果を評価している。中国の生産性向上の改革は、グローバル・バリューチェーンで中国と強くつながっている小規模な開放経済国を中心に、アジアの成長を後押しできるだろう。アジアの非OECD加盟国は、中国とOECD双方のフレンド・ショアリングから生じる貿易転換効果の恩恵を受けられる。しかし、フレンド・ショアリングの動向が引き起こす世界経済の減速や、デリスキング戦略がもつ「リショアリング」の側面を考慮すると、こうした恩恵もほとんど消失する。