ガバナンス上の諸課題におけるIMFの役割— ガイダンスノートの見直し—予備的考察

要約

このペーパーは国際通貨金融委員会(IMFC)の要請を受けたガバナンス課題を克服するための国際通貨基金のアプローチの見直しの第一段階となるものである。当初のガイドラインは1997年に作成されたガイダンスノートに記されている。本ペーパーは、前回2004年のガイドラインの見直し以来のその実施状況を、汚職に関する問題対処に焦点を当てながら点検する。

最初に、関連用語の定義をある程度明確にしたい。「ガバナンス」とは統治権限がそれを通じて行使される組織・制度、メカニズム、及び慣行に言及するものである。「汚職」とはより具体的な概念で、「個人の利得のために公職」を悪用することを指す。つまり、重大な汚職がなくても、ガバナンスが有効に機能していない(例えば非効率な組織・制度)国は存在する。

現在IMFの内外で、システム的な汚職が国家の持続可能な包摂的成長を国民にもたらす力を様々な形で損ない得るとの認識が高まっている。第一に、それは税徴収を弱めるとともに支出を歪めることにより財政パフォーマンスを下げることになる。次に汚職によるコストと不確実性は国内外からの投資を低下させ得る。第三に汚職(この場合は教育及び保健行政サービスの不履行)による支出のゆがみのために、不平等を拡大する可能性がある。最後に、汚職が相当システム化すると、国家に対する信頼を損ない、市民の争いや対立を招く可能性があり、それは人道的にも経済的にも壊滅的な結果となり得る。

有効性のある反汚職戦略はどれも多面的でなければならない。ガイダンスノートの採用以来、IMFは数多くのプログラムを実施し、それは特に汚職に的を絞ったものではなかったものの、その対処に重要な役割を果たしてきた。特に以下の点が挙げられる。

  • 経済規制の改革促進  官僚が規制や許認可、契約の「監視役」となると、汚職が蔓延する可能性が出てくる。このため、IMFが各種プログラムやサーベイランス、技術支援で促している適切な経済改革や規制の簡素化は経済効率性の向上だけでなく、汚職への対処にも資するものだ。
  • 財政透明性と説明責任の拡大  ガイダンスノートにある指示に沿って、IMFは例えば財政透明性コードなどを通じて財政透明性の確立に向け大きな努力を払ってきており、特に汚職に対する懸念が強い資源採掘産業における透明性向上努力を支援してきた。
  • 金融セクターサーベイランスプログラムと、基準及びコードのイニシアティブ  これらの活動は汚職に関連する主要分野における当局との政策対話がより的を得たものにすることに資する。主要分野には金融セクターのガバナンスと独立性、資金洗浄とテロ資金撲滅フレームワークの有効性が含まれる。

ペーパーはIMFのサーベイランスとプログラムで、ガイダンスノートで示された関連基準を考慮しながら、汚職がどの程度まで有効に対処されているか評価しようと試みている。つまり汚職が短期及び中期にわたりマクロ経済に大きく影響しているかどうかを評価している。また、この評価のために2005年から2016年にかけてIMFスタッフが作成した40のサンプル国の関連のある調査報告書が定性的に精査された。汚職への対処やそのマクロ経済への影響の評価が適切であるかどうかを見極めるために、各国について「期待値ベースライン」を設定する必要があった。このベースラインは、IMFではなく第三者により作成された汚職とその認識を測定する指標と、第三者が作成した関連各国の信頼性の高い研究報告書を総合して設定された。

この評価から得られた主な教訓

全体としてみると、今回の点検でガイダンスノートの実施において大きな前進があったことが確認された。多くの各国報告書での汚職に関する幅広く綿密な言及とIMFの汚職に関する調査への貢献は、汚職がマクロ経済へ大きく影響すると強く認識されており、IMFの使命に関わることを示している。例えば、汚職が最も多いと評価されたグループの半数の国で、IMFが継続的かつ集中的に関与していることが確認された。IMFの支援プログラムが実行されている国々では、今回の点検はIMFの関与の仕方がより具体的で深みを増し、細かい部分まで広がることに貢献した。

しかし今回の点検はIMFの関与をまだ強化する余地があることも示した。

IMFによる汚職への対処は全く均一というわけではなく、汚職がシステム的に進行していると評価されている場合でもマクロ経済への影響が詳細に分析されていないケースが見受けられた。汚職問題への対処は、同じような状況にある国でもIMFのサーベイランスよりIMF支援プログラムが実施されている国の方がより集中的に実施されていた。これはプログラムの場合はIMFの関与がより強くなっていることが一因だ。しかし、同じような汚職問題を抱える国々を比べても、サーベイランスか支援プログラムかに関わらず、IMFの関与度は個別のケースで相当異なっていた。また、汚職問題に関する協議は、政治的にセンシティブという意味では場合によっては適切であったとしても、しばしば婉曲的な言葉で行われるため、IMFスタッフの分析や政策提言の明確さを損なっていた可能性がある。

今回の点検結果は、よりシステム的で均一な汚職への対処には多くの分野で理事会からのより強いガイダンスが必要であるかもしれないことを示唆しており、その細かい点は、このペーパーの続編で考察されることになる。

  • 汚職度合いの評価  理事会により示されたガイダンスに沿って、スタッフ診断を第三者の指標を使って補完することが必要となる。この診断を上手く導くためには、大きな汚職の存在を的確に予想できる各国の構造的特徴を特定するさらなる分析作業が必要だ。
  • マクロ経済的影響の評価  点検により提起された主要な疑問は、マクロ経済的影響を評価する上で妥当とされる例えば3年間から5年間という時間的枠組みが、適切かということだ。この疑問は、汚職の経済に対する影響というものが長い時間をかけて起こる場合が多いという特徴を考えてのものだ。この経済的影響を評価するのに適切な時間的枠組みの問題は、IMFのカバーする他の幾つかの分野でも起きている。例えば、所得不平等や人的資本形成政策の経済に対する影響などだ。
  • 政策アドバイス  点検はまた、IMFの関与を妥当とするほど汚職が問題となっているような状況で、適切な政策アドバイスに関する具体的なガイダンスを担当チームに提供するには、有効性ある反汚職戦略の設計が相当念入りな分析を必要とすることを明らかにした。
  • 他機関との協働  その帰結として、IMFが汚職度合いの診断と反汚職戦略の政策的アプローチを策定するに際して、世界銀行など関連する専門的知見を有する他機関とのより緊密な協働が必要となる。

結論と教訓

このセクションでは、これまで示した重要な所見を一段と掘り下げ、将来IMFが汚職問題に取り組む際に教訓となり得る事項を特定する。これらの所見を適確に論述するにあたって、この領域でIMFが直面する幾つかの課題を浮き彫りにしていくことが役立つ。一連の課題は将来の活動に備えてガイドラインや原則に盛り込まれるべき内容である。

  • 最初に留意する点は、一般的に汚職行為は隠蔽(いんぺい)されているので汚職の広がりと特質を評価するのが困難だということである。作業の際に検討すべき情報については、その出所の信頼性を確認する一方で情報自体が分析や政策提言に反映できる内容かどうかの信頼性を問う必要もある。例えばスタッフの関心を引いた情報は人づてに聞いた話で総花的な内容にとどまる可能性があり、追跡調査が困難である。
  • 2つ目の課題は、汚職とマクロ経済のパフォーマンスを関連づける波及経路を理解することである。これは汚職の特質や実態に左右される可能性が高く、さらに広い視点から考慮すると、マクロ経済活動に影響を及ぼす他の短期及び中期的な要因に左右される可能性もある。汚職問題をめぐってはIMFと関係を持つことに引き続き消極的な当局も存在する。その理由としては、汚職が基本的には経済ではなく政治的な問題であると位置づけているほか、IMFスタッフとの意見交換や協議が公表されることに消極的な可能性がある(参照:補足Ⅳと補完資料、背景文書Ⅳ)。
  • ほかの課題としては、汚職は往々にして隠蔽(いんぺい)されているので政府の汚職対策やガバナンス向上策の効果を数値化するのは困難なうえ、これらの対策が最大の効果を発揮するタイミングが中期から長期に渡るという点がある。
  • 最後に優先順位という課題がある。国によって汚職は深刻な難題だが、汚職問題はIMFが管掌する他の政策課題と競合することが多々ある。IMFの限られた資源を踏まえ、サーベイランスや資金利用という位置づけの中で優先順位を検討し、マクロ経済的な影響が最も喫緊かつ予想可能な領域を優先することが多くある。このほか汚職問題の優先判断において、IMFの取り組み度合いが他の組織からの支援レベルに左右される点があり、中でも世界銀行との兼ね合いが重視されることを追記しておきたい。

上記の多くは依然として検討事項であるが、IMFとしては明確な政策フレームワークと業務に関する指針を通じてスタッフが一連の課題に対応できるように支援することが可能である。

全般的に今回のレビューでは、IMFによる汚職問題への取り組みに関してガイダンスノートの運用が大きな進展を遂げている点を確認した。汚職問題が数多くの国別レポートの中で広範かつ重層的に取り上げられており、IMFによる汚職関連の資料や出版物への貢献を鑑みると、汚職問題はマクロ経済に重要な影響を与える可能性があり、IMFの活動にとって意味のある事案だという強い認識が浮き彫りになった。いみじくもIMFによる一連の活動は汚職が最も高い水準を記録する国々で幅広く展開されている。今回のレビューは、世界各国の汚職で最上位を占める4分の1の国々のうちの半数で、IMFが幅広く継続的かつ集中的に活動を繰り広げている実態を突き止めた。IMFの支援プログラムを実施した国々においては、一連のプログラムがIMFの活動内容をさらに絞り込んでいるほか、奥行きやきめ細やかさを増すことにも貢献している。汚職問題が発生したり、プログラムの中で十分な対応がされていなかったりした場合は融資を保留する用意がある旨を認知させることが、実効性を高めるのに役立った。

しかし、下記に詳述するように、レビューは一連の活動についてさらに拡充する余地があることを明らかにした。すでに指摘したとおり、今回の検証は追加的なガイダンスが必要な可能性がある分野を突き止めるための実態確認にすぎない。理事会は今回示された教訓の中で追及したいものがあれば、フォローアップ用のボードペーパー(理事会向け報告書)として追跡調査を要請することが可能である。その中で将来を考慮した原則や、ガバナンスと汚職をめぐるIMF活動の業務指針が綿密に検討されることになる。

A. 汚職規模の把握

対象国の汚職規模を把握するためにIMFが独自の一貫した評価手法を開発することが重要とみられる。事前手続きとして、IMFスタッフが現地当局と協議することは事態の把握に重要な足場を提供することになる。こうした活動を補完するものとしては(a)第三者機関による指標 (b) 対象国の汚職レベルに影響を与えている要因の中で重要とされる一連の構造的特徴、の2点があり、これらを並行して活用することが可能である。構造的特徴としては加盟国の財政管理体制の信頼性、経済規制の規模と透明性、税務行政の効率性、司法制度の有効性などが例として挙げられる。可能性として考えられるフォローアップ用のボードペーパーでは、こうした領域で知見と経験があるIMFの機能・地域担当部署からの意見をもとに、一連の特徴を特定していくことが主要項目になると想定される。

第三者機関による指標を特定して適切な役割を持たせることが重要な課題である。上記で触れたが、こうした指標は汚職規模を把握するにあたって唯一ではないものの重要な役割を担うとみられる。汚職を評価する単一の指標が複数の国々で類似値を示していても、実際のところは汚職行為が重要な部分で異なっている可能性があり、それを正確に表していない恐れがある。それぞれの汚職にはそれぞれ特有な対策が必要である。また、国によって経済情勢や統治制度は違うので、マクロ経済への波及経路や影響度も異なってくる可能性を秘めている。こうした背景のもとスタッフは指標をさらに駆使することで、分析内容を断面的な描写にとどめず、時系列で見た指標の追跡調査やピア比較などを実施してスタッフ独自の分析に盛り込んでいくことが出来る。第三者機関による指標を使用するにあたっては、幅広く複数の指標を活用することを検討すべきである。汚職行為はさまざまな形態をとる可能性があるので、単一指標だけでは容易に評価できないからである[1]。各指標で手法や焦点が大幅に異なるため、ある国に対する各指標の評価結果が必ずしも一致しないのが実情である(詳細は補完資料、背景文書Ⅲを参照)。

折良く第三者機関による指標活用に関するスタッフガイダンスが作成されている。 これは、複数の指標のクオリティやボードペーパーに指標を活用する際に、体系的なガイダンスが存在しないことに関して一部の理事から問い合わせがあったためである。従って近く発表されるボードペーパーでは、指標活用における透明性(例えば指標の特徴明示、手法の欠点、計測の不確実性など)、ロバスト性評価の有用性(複数指標の利用や他の入力データ比較など)、関係当局や他の利害関係者の解釈が異なる場合は両方かいずれかの見解を提示することの重要性といった案件に対応することになっている。

B. マクロ経済的影響の評価―計測期間の理解

汚職行為がマクロ経済に与える影響を把握する方法については、さらなるガイダンスが必要である(補足Ⅳと補完資料、背景文書Ⅵ)。今回のレビューは、スタッフペーパーがマクロ経済的影響の度合いや特質についてほとんど考察していない実態を把握した。議論の余地はあるかも知れないが、背景には汚職問題に取り組むにあたってスタッフが暗黙のうちにそうした判断を下していたことがある。しかし、汚職の指標とマクロ経済的影響を推論的に結びつける要因は必ずしも明確ではなく、常に役立つものでもない。汚職がマクロ経済に与える影響に関する議論において、一般的な分析が受け入れられていると仮定した場合、サーベイランスと資金利用という枠組みの中で想定できるのは、把握可能な汚職行為が増えればマクロ経済に与える影響の特質の分析も期待できるようになるということである。

汚職のマクロ経済への影響を評価するガイダンスを作成するにあたり、その目的にかなった適切な計測期間について検討する必要がある。 調査結果はIMFスタッフがガイダンスノート(「統合されたサーベイランス決定」「コンディショナリティーに関するガイドライン」にも反映済み)で定められている既存基準を順守したことを示しているが、汚職による影響と一連の対策を評価するにあたって、短期及び中期の期間設定が十分かどうか再検討する必要がある。汚職が深刻な国々では、汚職によるマクロ経済への影響と経済パフォーマンスに影響を与える他の諸要因を容易に切り離すことが可能なこともある。それ以外の状況では、特に経済成長が著しい場合、とりわけ短期の時間軸の中で双方を切り離すことは容易でない可能性がある。汚職によるあらゆる影響が顕在化するのは、長期間が経過してからである。同様に、汚職対策が成果を挙げるのも長期間を必要とする。

経済的影響を評価するうえで長期の時間軸を設定する必要があるのは汚職に限ったことではない。これは格差やジェンダー問題、気候変動などを含むマクロ経済やマクロ構造政策と幅広い関連性がある問題で、そうした位置づけで問題提起されてきた。従って、この領域での追加的なガイダンスは、より広範な政策問題として調整を進める必要があるだろう。

C. サーベイランスの枠組みにおける政策助言

汚職問題の原因究明では上記で特定した問題に加え、原因究明後にサーベイランスの枠組みの中で効果的な政策助言を策定する上で改善すべき点があるように見受けられる。レビューはIMFによる汚職問題への取り組み状況がサーベイランスとプログラムで異なっていることを示している。プログラムのケースにおける汚職問題の分析と助言はサーベイランスのケースと比べて具体性が強く、奥行きがあって詳細に及ぶ傾向がある。サーベイランスではフレームワーク強化の政策助言や汚職に対する懸念への対応が包括的な性質になることが多々ある。長期にわたってサーベイランスのみだった国々では、プログラム開始とともに汚職に対するIMFの活動が顕著に増えた一方、いったんプログラムが終了すると汚職対策の活動が衰退することが多くある。汚職対策がサーベイランスの一環となっている場合、その注力姿勢が一貫性を欠くことも一般的である。このため、外部データや第三者機関による指標などの他の情報が慢性化した問題を示しているのにもかかわらず、貧弱なガバナンスは偶発的なもので常態化した問題ではないという認識につながりかねない。

すでに指摘したが、サーベイランスと資金利用(UFR)で扱うケースの対象範囲には、ある程度の違いが存在することを想定すべきである。これは、IMFの支援プログラムが必要になるほどマクロ経済のパフォーマンスが悪化した場合に、汚職対策が一層決定的な役割を担うという実態を反映していまる。さらにプログラムでは、焦点を絞り込んだ技術的支援を含め、スタッフの人的資源の提供がサーベイランスと比べてはるかに広範囲に及ぶことが一般的で、汚職問題に限らない幅広い政策課題への綿密な取り組みが可能である。その一方で、サーベイランス政策助言の枠組み形成には一層のガイダンスが必要であるという点をスタッフのフィードバックが提起している(補足Ⅳと補完資料、背景文書Ⅵ)。スタッフたちは、汚職問題に最も効果的に対処するため、IMFの政策助言の調整方法についてのアドバイスを歓迎する意向を示している。そのようなガイダンスは、汚職に対応する政策の中核要素 だけではなく、実効性のある戦略を支える一般要素を絞り込むのにも役立つ可能性がある。こうした政策立案の課題に加えて、ガイダンスは活動を効果的に推進する方法について言及することも可能である。汚職への全体的な取り組みを検討するにあたり、汚職が浸透定着したものなのかどうか評価するため加盟国の経済的特性を見極めることが重要で、それが判断情報のひとつになることに疑いの余地はない。従って、汚職レベルを評価するにあたり、公的財政管理のフレームワークの弱さが関連性を持つ状況下では、こうしたフレームワークの強化が堅固な汚職対策戦略を確立するうえで重要な要素になりうる。

D. プログラム・コンディショナリティーの実施

これまでのコンディショナリティー(制約条件)の実施には十分な正当化と合理的な位置づけがなされていたようだった。この点、IMFは2008年のケニアEPAで提示された教訓を学んだようである。ケニアEPAでIMFは、プログラムとは本質的な関連性が極めて低い統治措置によってプログラムが大きな負荷を受けていたことを明らかにした。他のEPEやEPAも同様の教訓を指摘しており、コンディショナリティーについては効率的でマクロ状況に適合し、実施能力に見合うよう調整することの重要性を強調している(補足Ⅵ)。こうした教訓はコンディショナリティー全般への適用が可能だが、汚職問題は扱いが難しく、改革反対の既得権益も存在するので、かなり困難な問題を提示している。この件についてミッションチーフ(国別経済調査団長)たちは、政策立案をめぐる助言とコンディショナリティーの一層明確なガイダンスを歓迎している(補足Ⅳと補完資料、背景文書Ⅵ)。

汚職対策は、プログラムのオーナーシップ(主体性)が極めて強い場合、汚職に関するIMFのコンディショナリティーが限定されていても優れた進展を遂げている。一例を挙げると、ジョージアでは2007年以降、汚職はIMF支援プログラムの大きな焦点ではなくなったが、2004年から日常的な汚職の削減に大きな成果を挙げ続けている。汚職が政治経済に組み込まれ、変革への抵抗が強い国々では、広範なコンディショナリティーが課せられていたとしても事態の進展が遅くなる可能性がある(アフガニスタン、コンゴ民主共和国、イラク、ウクライナ、ジンバブエなど)。このような状況下では、IMFは制度的慣行を段階的に強化することを目指し、しばしば財政ガバナンスから着手してきた。AFR-FADによるレビューは、財務健全性の機能を不全に陥らせている根本原因に焦点を当て、これに対処するよう政府当局を駆り立てるには、IMFの金融支援が保留される見通しを示したり、実際に差し止めたりしただけで十分だったという幾つかのケースを指摘している(マラウィ2013年、モザンビーク2016年など)。

サーベイランスの文脈で指摘されたのと同様に、IMFの支援プログラムの枠内で政策助言を形成する際、汚職課題への具体的な対処方法を示す優れたガイダンスが歓迎されるだろう。IMF支援のプログラムには時間的な制限があるので、ガイダンスは現実的な目標や改革の段階的な実施について言及することが可能である。また、プロセスおよび成果志向の目標を設定することや、プログラムのコンディショナリティーの目標や成果を記録することについて、それぞれの利点を比較検討することもできる。

E. IMFの活動における透明性

回りくどい言い回しは微妙な意味合いを伝えるのに役立ったかも知れないが、そうした言葉使いへの過度な依存はスタッフの分析や政策提言を曖昧にする恐れがある。 IMFの実態調査チームが他の国際機関や教育関係者、市民社会組織(CSO)、メディアといった外部情報源による調査報告や報道を比較検証したところ、IMFが水面下で暗黙のうちに汚職問題に取り組んでいる実態を明らかにすることに貢献したケースがあった[2]。ただ、これは常時可能ではなく、IMF報告を解釈するうえで必要なものでもない。スタッフレポートの「解釈」は、IMFのスタッフレポートの言葉使いや語調に精通していない「内部関係者」でないと難しいケースが少なからずある。しかし留意すべき点は、こうした符丁を使った表現は、国内の関連した訴訟手続きに影響を与えないよう勧告したガイダンスノートを順守した結果と解釈できるほか、紛争中の特定事案について言及を避けたためだったと理解することもできる。さらに符丁を使った表現は、特定のケースで微妙な問題をめぐる政府との駆け引きを強める狙いで戦略的に使われ、IMFの政策助言の受け入れに役立てるという目的に沿った可能性がある。しかし、総じてスタッフレポートは汚職関連問題を取り上げる際により直接的で明確な表現を使う余地が大いにあり、汚職関連の課題をめぐるIMFの分析説明では特にそれが当てはまる。上記でも指摘したが、提言された一連の解決策は、一段と幅広い透明性の向上とガバナンス改善という枠組みの中で適切に位置づけることが可能である。興味深い点としては、時とともに「汚職」という語句への明確な言及も変化していることを注記したい。しかし、これが直接表現に対する意識の変化によるものなのか、全体的な活動内容の変化によるものなのかどうかは明らかではない(参照:補足Ⅴ)[3]

F. IMFの活動の公平性

実態調査は、同じような状況下にある国々を同様に扱うことに関して、IMFの汚職問題への取り組みの公平性について疑問を投げかけている。扱いの統一性原則にはすべての加盟国を同等に扱わなければいけないという意味はないが、加盟国間に違いを持たせるIMFの判断については、IMFの活動目的に合致した基準の適用に基づく必要がある。汚職レベルが同等であると判断された国々でIMFの取り組み度合いに差が生じるのは、時期によって優先度(差し迫った通貨危機など)が各国で異なることから正当化される可能性がある。IMFの活動内容がサーベイランスかプログラムなのかの違いによっても取り組み度合いに差が生じることが予想され、後者の場合はIMF活動が徹底的だという面を留意すべきである。こうした点を考慮したうえで、レビューは汚職レベルが高水準の国々の間で汚職問題への取り組みに差が出ている点について、それが各国の特定状況によって明瞭に説明されていないことが通常的であると明確に指摘している。各国の扱いに違いが生じるのは、すでに指摘したように汚職の特質や広がり状況の把握、波及経路の理解、活動の優先順位づけなどスタッフが直面する課題によって大半は説明できる(参照:パラグラフ71)。上記で指摘した多くの領域において追加的ガイダンスが提供されることになれば、各国の扱いにさらなる統一性をもたらす保証が強まる。追加的ガイダンスの領域には、汚職の評価方法やマクロ経済への影響の評価方法、提供される助言の特徴などが含まれている。

サーベイランスにおけるこうした懸念への対応には、サーベイランスの公平性に関する3年毎のサーベイランス・レビューを受けて2016年に導入されたフレームワークを役立てることも可能である。このフレームワークは公平なサーベイランスの原則を明確にして「インプット」に焦点を当てたものである。一連の原則は、国々が直面する個別もしくはシステミックなリスク要因を反映する資源配分の指針となり、政策助言が対象国の状況に合致した健全で客観的な分析を反映することを強調している[4]。汚職やガバナンス課題も含めた一連の公平原則の継続的な適用は、こうした問題の一層公平な扱いを実現するのに役立つはずである。

G. 他機関とのコラボレーション

世界銀行をはじめとする他機関とのコラボレーションは、国別状況に関する情報共有や汚職リスクに取り組む政策アプローチを構築するうえで重要である。各機関による貢献はそれぞれの専門領域を反映した内容になる(参照:補完資料、背景文書Ⅱ)。2004年版レビューはプログラムの枠組みにおいて外部協力が最も強力であるという点を指摘したが、状況は現在も同じである。ただ、こうしたコラボレーションに関する明確な情報は、汚職対策が極めて活発な国々を除けば国別資料の中に盛り込まれている内容が比較的少ないので、ボードペーパーは世界銀行や他の地域開発銀行とのコラボレーションを引用することがある。全般的に見て、他の国際機関とコラボレーションをさらに進める余地があるようだ。


[1] 事例としては、一般化した測定方法を提供する指標は特定セクターの汚職問題を把握するには不十分な恐れがあるので、特定セクターに的を絞った指標や行政データによって補完することが可能です。 

[2] 実態調査チームが汚職に焦点を合わせた結果、透明性の向上や効率改善といったガバナンスに関する全般的な表現の一部も間接的に汚職を表現していると誤認された可能性があることを留意すべきです。

[3] 「汚職」語句への明確な言及に関する全体的な傾向をめぐる補足的な説明は、スタッフレポートの定性的な検証の中で主要部分を構成していないことを留意すべきです。

[4] 参照:IMF, 2016a. 対象国当局が特定懸案を報告して評価し、公平評価によって浮上した教訓や政策変更が将来の作業内容の指針となるようにIMFスタッフに広く認知されることを確実にするメカニズムも確立されました。