国際金融安定性報告書

高インフレと
地政学的リスク  

2023年4月

概要

国際金融安定性報告書(GFSR) 2023年4月

1章では、金融政策の引き締めと金融環境のタイト化が世界金融危機以降蓄積された脆弱性と交錯する際に生じる課題を分析する。インフレ圧力が予想よりも根強いことが明らかになる中、金融市場でストレスが見られ始めていることで中央銀行の政策課題が複雑化している。より小規模でリスクの大きい新興市場国は、引き続き債務持続可能性が悪化する傾向にある。第2章では、ノンバンク金融仲介機関(NBFI)と、レバレッジの上昇や流動性のミスマッチ、高い相互連関性がもたらしうる脆弱性について検討する。 NBFIのストレスがもたらす金融安定性への影響に対処するためのツールを提案する中で、ストレス時にはNBFIが中央銀行の流動性へ直接アクセスできるようにすることが必要となる可能性があると同時に、その場合は適切な防護策が欠かせないことを強調する。第3章では、地政学的緊張が金融の分断に与える影響を分析するほか、資本フローの反転やクロスボーダー決済の混乱、銀行の資金調達コスト・収益性・与信供与への影響、国際的なリスク分散機会の縮小など、分断による金融安定性への影響を掘り下げる。分析結果に基づいて、金融監督の強化とバッファーの増強、国際協力の促進を目的とした政策対応を提示する

2023年4月 国際金融安定性報告書 分析章

第1章 高インフレ高金利に試される金融システム

国際金融システムの耐性が幾度となく試されており、金融安定性リスクが急速に高まっている。銀行部門における最近の混乱は、金融政策の引き締めと金融環境のタイト化が世界金融危機以降蓄積された脆弱性と交錯する際に生じる課題を改めて強く認識させるものだ。インフレ圧力が予想よりも根強いことが明らかになる中、金融市場でストレスが見られ始めていることで中央銀行の政策課題が複雑化している。主要新興市場国はこれまでのところ負の波及効果を回避しているが、より小規模でリスクの大きい国は引き続き債務の持続可能性が悪化する傾向にある。

2章 ノンバンク金融仲介機関:金融環境がタイト化する中での脆弱性

ノンバンク金融仲介機関(NBFI)は、信用へのアクセスを拡大し経済成長を後押しすることで、世界の金融システムにおいて重要な役割を果たしている。こうした中、低金利が続いたことでNBFIの金融の脆弱性が近年に増した可能性がある。本章で示したケーススタディによると、NBFIのストレスは、レバレッジの上昇や流動性のミスマッチ、新興市場への波及を伴う高い相互連関性を有する傾向がある。インフレ率が高く金融情勢がタイト化する今の環境下で市場にストレスが発生した場合、中央銀行は、金融の安定性へのリスクの対処と、物価の安定というふたつの目標の間で、複雑で難しいトレードオフに直面する可能性がある。政策当局者は、NBFIのストレスに伴う金融の安定性への影響に対処するための適切なツールを有する必要がある。ストレス時にはNBFIが中央銀行の流動性へ直接アクセスできるようにすることが必要となるかもしれないが、その場合は適切な防護策が欠かせない。

3章 地政学と金融の分断化:マクロ金融の安定性への含意

主要国間における地政学的な緊張の高まりに伴い、世界経済と国際金融の分断化への懸念が強まっており、国際金融の安定性へ重大な影響を及ぼす可能性がある。地政学的な緊張の高まりが引き起こす金融の分断化は、国境を越えた資本移動や国際決済システム、資産価格に作用し得る。これは、銀行の資金調達コストの増加や収益性の低下、民間部門への信用供与の減少を引き起こし、マクロ金融の安定性を脅かし得る。また、金融の分断化が進むと、国際的なリスク分散の機会が損なわれ、資本フローやマクロ金融のボラティリティが大きくなる恐れがある。規制当局は、地政学的な緊張の高まりに伴う潜在的な金融安定性リスクに留意し、金融機関へのショックの影響を評価・定量化すべきだ。金融機関は、地政学的リスクの高まりがもたらす悪影響を緩和するために充分な資本・流動性バッファーを備えることを求められるかもしれない。また、各国の外貨準備や、二国間・地域内の金融協定、国際金融機関による予防的な信用供与枠などを強固にし、充実した国際金融セーフティネットを担保する必要がある。