第48回国際通貨金融委員会(IMFC)議長声明(仮訳)

2023年10月14日

我々は、最近の壊滅的な地震による悲劇的な人命の損失と広範囲に及ぶ破壊について、アフガニスタン及びモロッコ国民に対して深く弔意を示す。我々はまた、 20239月の洪水により多くの人命が失われ、甚大な被害が及んだことに関して、リビアの人々に対して深く弔意を示す。

我々は、モロッコ当局によるマラケシュでの2023年の年次総会の開催と、卓越した歓迎に感謝する。

我々は、世界中の戦争及び紛争による甚大な人的被害及び悪影響を深い懸念と共に留意する。

IMFCのプレナリー・セッションにおいて、ほとんどの加盟国がロシアのウクライナへの侵攻は甚大な人道的影響をもたらし、世界経済に有害な影響を及ぼし続けていることを認識し、強く非難した。この状況について、他の見解や異なる評価があった。

ウクライナにおける戦争に関し、バリでの議論を想起しつつ、我々は、各国の立場や国連安保理及び国連総会で採択された決議(ES-11/1及びES-11/6)を再確認し、全ての国が国連憲章の目的及び原則に全体として整合的な方法で行動しなければならないことを再確認する。国連憲章に沿って、全ての国は、いかなる国の領土一体性及び主権又は政治的独立に対しても、領土取得を追求するための武力による威嚇又は武力の行使は慎まなければならない。核兵器の使用又はその威嚇は許されない。

我々は、IMFCが地政学的及び安全保障問題を解決するためのプラットフォームではないことを認識しつつ、これらが世界経済に重大な影響を与え得ることを認識する。

我々は、ウクライナにおける戦争の人的被害や更なる悪影響、特に新型コロナウイルスのパンデミック及びSDGsに向けた進捗を逸脱させた経済的混乱からいまだ回復途上にある途上国及びLDCsといった国々の政策環境を複雑化させる、グローバルな食料及びエネルギー安全保障、サプライチェーン、マクロ金融の安定性、インフレ及び成長に関する悪影響を強調する。この状況について異なる見解及び評価があった。

我々は、世界市場へのロシア産の食品及び肥料の供給促進に関するロシア連邦と国連事務局との間の了解覚書及びウクライナの港からの穀物及び食料品の安全な輸送に関するイニシアティブ(黒海イニシアティブ)から成る、トルコ及び国連の仲介によるイスタンブール合意の取組を評価し、ロシア連邦及びウクライナからの穀物、食料品及び肥料/投入物の即時かつ妨害されない輸送を確保するために、これらの完全、適時かつ効果的な実施を求める。これは、特にアフリカにおける、途上国及び LDCsの需要を満たすために必要である。

この文脈で、食料及びエネルギー安全保障を維持することの重要性を強調し、我々は、関連のインフラに対する軍事的破壊又はその他の攻撃の停止を求める。我々はまた、紛争が市民の安全に対して悪影響を与え、それにより既存の社会経済的なもろさ及び脆弱性を悪化させ、また、効果的な人道面の対応を妨げる点について、深い懸念を表明した。

我々は、全ての国に対して、領土一体性及び主権を含む国際法の諸原則、国際人道法並びに平和と安定を守る多国間システムを堅持することを求める。紛争の平和的解決、危機に対処する取組、並びに外交及び対話が極めて重要である。我々は、世界経済に対する戦争の悪影響に対処するための取組において団結し、また、国家間の平和的かつ友好的な善隣関係の促進のため、国連憲章の全ての目的及び原則を堅持する、ウクライナにおける包括的で、公正かつ恒久的な平和を支持する全ての関連する建設的なイニシアティブを歓迎する。

今日の時代は戦争の時代であってはならない。

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1. 世界経済は強靭であり、2023年の成長見通しは春以降わずかに上方修正された。しかし、経済活動は、多くの国で依然としてパンデミック前のトレンドを大きく下回っているほか、国家間のばらつきは増大しており、回復は一様でない。中期的な世界経済の成長見通しは依然として弱い。世界の総合インフレ率は低下したが、いくつかの国では依然として目標を大幅に上回っている。コアインフレ率は予想よりも長い間高止まりしてきた。2023年初頭に金融市場の混乱を抑制するためにとられた断固たる行動により、短期のリスクはより均衡しているが、依然として下方に傾いている。ウクライナにおける戦争、債務脆弱性の高まり、金融環境のタイト化、深刻化する気候ショック、拡大する格差、難民及び避難民、食料不安、分断のリスクは引き続き世界経済の懸念であり、脆弱な国々や人々が最も悪影響を受けている。

2. この世界的な文脈において、我々の優先事項は、インフレを確実に低下させ、金融の安定を守り、最も脆弱な人々を保護しつつ、財政の持続可能性を確保し、包摂的で持続可能な長期的な成長を促進することである。中央銀行は引き続き、それぞれのマンデートと整合的に、物価の安定を達成することに強くコミットしており、各国間への負の波及効果の抑制に資するよう、政策目的について明確に意思疎通を行いつつ、データに基づいて政策を引き続き調整する。中央銀行は、銀行及びノンバンク双方のリスクをモニタリングする上で、監督・規制当局と連携している。我々は、適切な場合には、銀行及び特にノンバンク金融部門における、データ、監督及び規制のギャップに対処し、また、システミックリスクを緩和するためのマクロプルーデンス政策を実施する用意もある。我々は、最も脆弱な人々を引き続き保護し、必要な投資のための予算の余地を創出し、中期の財政計画を明確なものとしつつ、的を絞っていない財政支援を段階的に廃止することを含め、ショックに対処するための財政余力を再構築する。我々は、各国固有の状況に応じて、労働市場への参加を強化し、生産性を高め、潜在成長を支え、社会の一体性を促進し、グリーン及びデジタルへの移行を支援するために、構造改革を再活性化する。

3. 我々は、国際協力と多国間主義が世界の成長と国際通貨システムの安定に不可欠であることを認識する。我々は、為替レート、過度のグローバル・インバランスへの対処及びガバナンスに関する我々のコミットメント、並びに2021年4月になされた、ルールに基づく貿易システムに関する我々の声明を再確認し、保護主義的措置を回避するという我々のコミットメントを再確認する。我々は、IMFを中心とするグローバル金融セーフティ・ネットを強化し、国際的な債務脆弱性に対処するために協働する。我々は、各国固有の状況を考慮しつつ、適切な場合には、気候及びデジタルへの移行を支援するために共同して行動する。我々は、脆弱国が資金ニーズ及び脆弱性に対処することを継続して支援する。

4. 我々は、専務理事のグローバル政策アジェンダと、世界銀行とIMFのそれぞれのマンデートに沿った協力の強化に関する、世界銀行総裁とIMF専務理事による最近の共同声明を歓迎する。我々はまた、国際協力に係るマラケシュ原則に留意する。

5. 我々は、加盟国がマクロ経済及び金融の課題に対応することを支援し、強靭性を高め、包摂的で持続可能な成長を促進するために、各国の状況に合わせた助言を行うことに焦点を当てるIMFのサーベイランスを支持する。我々は、IMFが、貿易、波及効果、資本フロー、地経学的分断に関する取組を含む、危機に際して取られた政策と脆弱性の相互作用を調べ続けることを支持する。我々は、IMFが、マンデートに沿って、マクロ的に重要な要素に焦点を当て、他者との協働を活用しつつ、気候、デジタル、マクロ金融、ジェンダー、脆弱国・紛争被害国に対する戦略を主流化することへの支持を再確認する。我々は、小開発途上国が直面する特有の課題に関する作業を支持する。

6. 我々は、グローバル金融セーフティ・ネットの中心にあり、強固で、クォータを基礎とし、かつ、十分な資金基盤を有するIMFへの我々のコミットメントを再確認する。我々は、IMFの資金の十分性及び構成、クォータシェアの調整に関連する課題を扱った、総務会への五回目の進捗報告を歓迎する。これらの建設的な議論を基づき、我々は、2023年12月15日までに第16次クォータ一般見直しを完了するとのコミットメントを再確認する。このため、我々は、少なくともIMFの現在の資金規模を維持する、有意義なクォータ増資を支持する。これは、二国間借入取極の失効に際して、クォータを基礎とするIMFの性質を強化するための重要なステップである。我々は、理事会に対し、提案を迅速に総務会に提出するべく取り組むよう求めるとともに、国内の手続きを通じたクォータ増資の迅速な承認による、適時の実施を優先するようコミットする。クォータ増資が発効するまでの間、IMFの現在の資金規模を維持するため、我々は、理事会に対し、必要に応じ過度的な取極を提案するよう求める。我々は、最も貧しい加盟国のクォータシェアを守りつつ、加盟国の世界経済に占める相対的な地位をより良く反映させるための、クォータシェアの調整の緊急性と重要性を認識する。したがって、我々は、理事会に対し、第17次クォータ一般見直しの下で、新たなクォータ計算式を通じたものを含め、更なるクォータシェアの調整に向けた指針としての可能な複数のアプローチを2025年6月までに策定するよう取り組むことを求める。

7. 我々は、加盟国の国際収支上のニーズへの対処を支援するために、予防的なものも含めて、資金支援を提供するというIMFの重要かつ触媒的役割を支持する。我々は、IMFの予防的融資制度の最近の強化を歓迎する。これは、その強力なシグナリング機能のみならず、対外的なリスクに対処するための機動性と能力を強化するものである。我々は、第16次クォータ一般見直しの完了後、IMFに対し、一般資金勘定のアクセスリミットを見直すよう求める。我々はまた、サーチャージ・ポリシーの見直しを検討する。我々は、貧困削減・成長トラストの利子補給金と融資原資の第一段階の資金調達ギャップの解消を祝福し、更なる幅広い貢献を奨励する。我々は、貧困削減・成長トラストのアクセスリミットの来たる中間見直しを期待する。我々は、それに続き、内部資金や融資制度の改革の活用を含めた全ての方策を追求することによって、低所得国の国際収支上のニーズを満たし、貧困削減・成長トラストを持続可能なものとすることを目指し、貧困削減・成長トラスト制度及びその資金調達に関する包括的な見直しに期待する。我々は、強靭性・持続可能性ファシリティのプログラムの事例、トラストのパンデミックへの備えとしての側面の稼働を考慮しつつ、強靭性・持続可能性トラストの中間見直しの実施に期待し、その後に、特別引出権や同等の自発的な貢献の拡大を検討する。我々は、各国が対外不均衡に持続的に対処できるよう効果的に支援するための、コンディショナリティの見直しに期待する。

8. 我々は、各国が債務脆弱性に確実に取り組むことを支援するIMFの努力を支持する。我々は、G20による債務措置に係る「共通枠組」の実施を強化し、加速することを支援するためのIMFによる世界銀行との協働を支持する。我々は、ザンビアに関する合意に至ったことを歓迎する。より短いタイムラインとより円滑なプロセスへの前向きなモメンタムを基礎として、我々は、ガーナに対する債務措置の完了を求め、IMF支援プログラム下でのエチオピアに対する債務措置の進捗を奨励する。我々は、マラウイに対する債務措置の完了を求める。我々はまた、「共通枠組」の対象外の低中所得国における債務再編のためのより強固な債権国の協調を支持する。我々は、スリランカ及びスリナムに対する債務措置における進捗を歓迎し、その完了を期待する。我々は、G20及びパリクラブにおける議論を支援しうる公的債務にかかるグローバルラウンドテーブルにおける取組を歓迎し、効率的な債務再編のための主要なコンセプト及び原則に関する共通理解の更なる進捗を慫慂する。我々は、公的債務の透明性の向上に関する取組を支持する。我々は、債務再編を実施する国々を支援するIMFの能力を促進するための債務ポリシーの改革オプションの議論並びにIMF及び世界銀行の低所得国向け債務持続可能性フレームワークの今後の見直しを期待する。

9. 我々は、能力開発をサーベイランスや融資と統合し、能力開発のための適切な資金を確保するための、IMFの継続的な努力を支持する。我々は、IMFが世界銀行及び関連する他の国際機関と協調しつつ、新興国・途上国における国内資金の動員強化のための取組を支援することを求める。この観点から、公的財政に関するグローバルなイニシアティブの下、新たなIMFの能力開発ファンドの立ち上げに向けた進行中の取組を歓迎する。我々は、IMFの能力開発戦略レビューの完了に期待する。

10. 我々は、IMF理事会に対し、サブサハラ・アフリカの発言権と代表性を強化し、理事会における地域の代表性の全体的なバランスを向上させるため、サブサハラ・アフリカのため25番目の理事を設けることを求める。我々は、中期の自発的目標を策定することを含め、加盟国が、理事会におけるジェンダーの多様性を効果的に拡大する手段を備えることの重要性を強調する。我々は、IMFが、2020-2021年度多様性・包摂性レポートで特定された、その中のいくつかは長年にわたる、固有の課題に対応して、スタッフの多様性と包摂性を向上し、既存・新規の優先分野を支援するための優秀な人材を惹き付けるIMFの努力を強化するよう求める。

11. 次回IMFC会合は、2024年4月に開催される予定である。


国際通貨金融委員会

参加者一覧

2023年10月14日(土) マラケシュ(モロッコ)

議長

ナディア・カルビーニョ、第1副首相兼経済・デジタル変革大臣、スペイン

専務理事

クリスタリナ・ゲオルギエバ

委員会

ムハンマド・アルジャドアーン、財務大臣、サウジアラビア王国

ムハンマド・ビン・ハディ・アル・フッセイニ、財務大臣、アラブ首長国連邦

ミシェル・ブロック、総裁、オーストラリア準備銀行(ジム・チャーマーズ、財務大臣、オーストラリア―代理)

ロサンナ・コスタ、総裁、チリ中央銀行

アデバヨ・オラワリ・イーデン、財務大臣兼経済担当調整大臣、ナイジェリア連邦共和国

ティフ・マックレム、総裁、カナダ銀行(クリスティア・フリーランド、副首相兼財務大臣、カナダ―代理)

イニャーツィオ・ビスコ、総裁、イタリア銀行(ジャンカルロ・ジョルゲッティ、経済・財務大臣、イタリア―代理)

フェルナンド・アダジ、財務大臣、ブラジル

ロバート・ホルツマン、総裁、オーストリア国立銀行

アンドリュー・ベイリー、総裁、イングランド銀行

カリン・ケラーズッター、財務大臣、スイス連邦

クリスティアン・リントナー、財務大臣、ドイツ連邦共和国

フランソワ・ビルロワドガロー、総裁、フランス銀行(ブリュノ・ルメール、経済・財務・復興大臣、フランス共和国―代理)

アフメド・オスマン・アリ、総裁、ジブチ中央銀行

潘功勝、総裁、中国人民銀行

リーッカ・プラ、財務大臣、フィンランド

アントン・シルアノフ、財務大臣、 ロシア連邦

ニルマラ・シタラマン、財務大臣、インド共和国

鈴木俊一、財務大臣、日本

アーネスト・アディソン、総裁、ガーナ中央銀行(サラー・エディヌ・タレブ、総裁、アルジェリア中央銀行-代理)

ビンセント・バン・ペーテルゲン、副首相兼財務大臣、ベルギー

レオナルド・ビラール、総裁、コロンビア中央銀行

シン・チョン・レオン、副長官、シンガポール通貨庁

ジャネット・イエレン、財務長官、アメリカ合衆国

オブザーバー

アンドレア・メクラー、副総支配人、国際決済銀行(BIS)

ムハンマド・ビン・ハディ・アル・フッセイニ、議長、合同開発委員会兼財務大臣、アラブ首長国連邦

クリスティーヌ・ラガルド、総裁、欧州中央銀行(ECB)

ヴァルディス・ドムブロフスキス、執行副委員長、欧州委員会(EC)

クラース・クノット、議長、金融安定理事会 (FSB)兼総裁、オランダ中央銀行

リチャード・サマンズ、調査局長、国際労働機関(ILO)

アンドレアス・シャール、グローバル関係・協力局長、経済協力開発機構(OECD)

ベルーズ・バイカリザデ、原油研究部、石油輸出国機構(OPEC)

アミーナ・モハメッド、副事務総長、国際連合

リチャード・コズル=ライト、グローバル化・開発戦略部長、国連貿易開発会議 (UNCTAD)

マーシー・テンボン、副総裁 兼 官房長、世界銀行グループ(WB)

ンゴジ・オコンジョ・イウェアラ、事務局長、世界貿易機関 (WTO)

 
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