第 45回国際通貨金融委員会(IMFC)議長声明(仮訳)

2022年4月21日

IMFCは、3月2日に、国連総会が141か国の多数で、「憲章第2条4項に違反するロシア連邦によるウクライナへの侵略を最も強い言葉で非難し」、「ロシア連邦が直ちにウクライナに対する武力行使を停止するよう要求する」決議であるES-11/1「ウクライナへの侵略」 1 を採択したことを想起する35か国が投票を棄権し、5か国が決議に反対票を投じ、いくつかの国は立場を表明しなかった。

IMFCは、ウクライナに対するロシアの戦争が甚大な人道的影響をもたらし、直接的及び間接的な経路を通じて世界経済に有害な影響を及ぼすことを認識する。IMFCは、「政治的対話、交渉、調停、その他の平和的手段」 2 を含む外交経路による迅速な解決と、分断を防ぎ世界経済の統合を守るための国際協力の拡大と多国間主義の強化を要請する。

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IMFC は、マグダレーナ・アンデション首相の IMFC議長としてのリーダーシップに深い感謝を示し、ナディア・カルビーニョ副首相を新たな議長として歓迎する。

1. 世界経済の回復は続いているものの、新型コロナウイルスの新たな変異株により減速しており、現在は、ウクライナに対する戦争とその影響により、大きな後退に直面している。この後退は、既存の課題を一層困難にするだろう。結果として生じているエネルギーと食料価格の高騰はインフレ圧力を増加させている。一方で、供給の混乱はさらに悪化し、金融市場と資本フローはより大きな変動を見せている。過去に例を見ない不確実性、金利の上昇、そしてかつてない水準の世界の債務を背景に、一次産品市場、貿易、金融チャネルを通じた波及効果は、既存の脆弱性を悪化させうる。債務危機の潜在的なリスクは、避難民の流入や食料不安の高まり、不平等とともに、社会的圧力を高める可能性がある。同時に、エネルギーの安全保障、入手可能性、持続可能性といったその他の共通課題とともに、気候変動は、一層差し迫っており、緊急の注意を必要としている。

2. この文脈において、パンデミックと戦いながら、必要に応じてエネルギーや食料価格の上昇が最も脆弱なグループに与える影響を緩和しつつ、世界経済の回復を維持し、マクロ経済の安定を守るために、強力な国内政策と国際協力がかつてないほど必要とされている。我々は、専務理事が、最も脆弱な国々を支援することにより食料危機を回避するため、多国間及び二国間ドナーと協調して、食料安全保障に関する緊急の行動を要請したことを歓迎する。我々は、適切な場合には、中期的な財政の枠組の強化を含め、長期的な財政の持続可能性を維持しつつ、保健関係の支出を引き続き優先し、避難民やエネルギー及び食料価格の急騰により影響を受けた人々を含む脆弱なグループに対して、よく的を絞った支援を提供する。中央銀行は、インフレ圧力がインフレ予想に与える影響を注意深くモニタリングしており、景気回復の確保と各国間への負の波及効果の抑制に配慮しつつ、インフレ予想の安定維持を 確保するよう、データを踏まえて明確なコミュニケーションを行いながら、引き続き、金融政策の引き締めペースを適切に調整する。我々は、的を絞ったマクロプルーデンス施策、及び必要とされるときはその他補完的な政策等を通じて、金融上の脆弱性及び金融安定へのリ スクの監視を継続し、必要な場合には、それらに対処する。我々は、ワクチン、検査、治療、 途上国における国内輸送の強化を含む、包括的な新型コロナウイルス感染症のためのツール キットへの公平なアクセスを強化するための、また、ワクチンの現地生産の促進を含め、パンデミックを克服するために関連する供給や資金調達の制約を取り除くための共同の取組 を強化する。我々は、高まる債務の問題に対応するための取組を支援しながら、債務者及び公的・民間の債権者双方による債務透明性の慣行も強化しつつ、支援を必要とする国、特に現在の状況の影響を受けた国に対して、資金支援を提供するための行動をとる。

3. 現在の不確実性を背景に、我々は、多国間協力の促進に引き続き完全にコミットしつつ、より強靭かつ持続可能で、包摂的な世界経済を実現するための努力を強化する。我々は、将来の感染症に対するパンデミックの予防、備え及び対応を強化する。また我々は、各国固有の状況を考慮しながら、パリ協定に沿った気候に関する行動をさらに加速させる強いコミットメントを再確認するとともに、適応と強靱性に関する行動の強化を含む COP27へ向けた強い野心を期待する。我々は、適時で、円滑かつ公正なネットゼロへの移行は、エネルギー安全保障及び現在の不安定性と将来のショックに対する世界の強靭性の強化に向けた取組 にとって重要であると認識する。我々は、最も脆弱なグループを保護しながら、温室効果ガスの排出を削減するための効率的な政策措置を含む、財政からマーケット、規制の対応まで、あらゆる効果的な手段に基づくポリシーミックスを利用する。我々は、データ保護、データ共有、相互運用性、そして可搬性に留意しつつ、デジタル・トランスフォーメーションの進行が、我々の経済をより強靭で包摂的なものにするために重要な役割を果たすことを確保する。我々は、暗号資産に対する法及び規制の枠組の設計が、イノベーションを促進しつつ、金融の安定及び健全性のリスクをより良く予防することを確保する。我々は、2021年 4月の、為替相場、過度な世界的不均衡、及びガバナンスに対する我々のコミットメント並びにルールに基づく貿易システムについての声明を再確認する。

4. 我々は、専務理事のグローバル政策アジェンダを歓迎する。マクロ経済の状況と見通しにストレスがかかった現在の文脈において、我々は、IMF による、状況に合わせた最先端の政策助言、時宜を得た金融支援、そして国際的なパートナーと緊密かつ効果的な協力の下で行う的を絞った能力開発を通じた、迅速で不可欠な即時かつきめ細かな加盟国に対する支援に期待する。

5. 我々は、IMFのサーベイランスが、リスク分析と予見し難い状況での政策助言に対し、より焦点を当てていることを支持する。また、インフレとその要因、ポリシーミックスと国際的な波及効果、金融・対外・企業セクターの脆弱性、財政調整、パンデミックによる傷跡、そして不平等を含む緊急の政策課題におけるマルチのサーベイランス及び分析について、IMF が引き続き取組を強化していることを支持する。我々は、資本フローに関する「機関としての見解」について、IMF が最近完了した見直しを歓迎し、また、資本フローの課題に関する他の国際機関との継続的な協力と「総合的な政策枠組」に関する継続的な作業を期待する。我々は、市場アクセスを有する国々を対象とした新たな債務持続可能性フレームワーク及び、「様々な角度からのアプローチ」の取組によって、債務脆弱性及びとリスクの評価の強化についての、IMFのガイドラインを期待する。我々は、IMFのガバナンスへの関与強化のためのフレームワークに関する来たる見直しを期待する。

6. IMF は、エネルギー価格の上昇や食料不安による高いリスクにさらされている等、現下の状況によって特に影響を受けている国を含め、国際収支ニーズを抱える加盟国に対して、十分なセーフガードを備えつつ、自身のファシリティを通じて、継続的な資金支援を提供する重要な役割を有する。我々は、SDRの自発的な融通に関する進捗を歓迎し、更なる貢献を 求める。特に、我々は強靭性・持続可能性トラスト(RST)を設立するための、最近の決定を歓迎する。RST は、低所得国と適格な小国及び中所得国が、気候変動やパンデミックを含め、マクロ経済リスクをもたらし得るより長期的な構造的課題に対応する支援を目的とする。我々は、IMF が世界銀行及び関係する他の多国間機関との協働を進めつつ、本年後半の RSTの完全な稼働を可能とするため、特に強固な対外ポジションを持つ加盟国から、国内の手続に基づき、SDR又は自由利用可能通貨による幅広い自発的な貢献がなされることへの支持を再確認する。我々は、全ての IMFによる融資と整合的な形で、RSTを優先的に弁済を受ける債権者として扱うことについて、加盟国によるコミットメントを歓迎する。我々は、また、貧困削減・成長トラストの自立的な持続可能性を確保しつつ、融資原資や利子補給金として求められてきている総額を達成するために、また、更なるショックが生じた際に債務返済の猶予を提供するための大災害抑制・救済基金を補充するために、より幅広い自発的な参加等を通じて、残りの資金をカバーすることを加盟国に求める。我々は、ウクライナに対する二国間金融支援を促進するための IMF のマルチドナー管理勘定の設立を歓迎し、また、ウクライナが喫緊及び戦後復興のための対外資金需要を満たすことを支援するため、国際的 なパートナーと連携し、緊密に協働し続ける。我々は、パリクラブでも合意されている債務措置に係る共通枠組を、IMF と世界銀行の共同の支援の下、債務国に一層の確実性を与えながら、適時に、秩序だった方法で協調して実施するための取組を強化するとのG20のコミットメントを歓迎する。我々は、共通枠組の下での債務措置を要請している国の実例において、進展させる取組を奨励する。より一般的には、我々は、また、債務の持続可能性、透明性、再編に関する IMF の広範なアジェンダを支持する。我々は、また、高い水準かつ上昇している債務脆弱性への対処を支援する IMF の作業を強調する。

7. 我々は、気候、デジタルマネー並びにその政策及び国際通貨システムに対するインプリケーション、そして脆弱国・紛争被害国に対する新しい戦略で示されたとおり、IMF が、そのマンデートと整合的に、また、パートナーとの継続した効果的な連携の中で、作業を強化することを歓迎する。また、マクロ金融にかかる個別国のサーベイランス、ジェンダー問題の主流化、不平等に影響する政策課題への一層の関与についても、IMF の作業の強化を歓迎する。我々は、対話のためのフォーラムを含め、気候変動がもたらすマクロ経済及び金融上のインプリケーションと、効果的な政策対応について、ガイダンスを求める加盟国の多様なニーズに応える IMF の重要な役割を再確認する。

8. 我々は、加盟国が危機関連の対応を実施し、脆弱性に対処し、制度的能力を強化することを支援するために迅速でありつつ、サーベイランスや融資活動と能力開発との更なる統合に向けた IMFの努力を支持する。我々は、IMFの各国の状況に合わせた能力開発へのアプローチを歓迎し、IMF が適切な資金を確保することを支持する。

9. 我々は、グローバル金融セーフティーネットの中心にあり、強固で、クォータを基礎とし、かつ、十分な資金基盤を有する IMFへの我々のコミットメントを再確認する。我々は、クォータの十分性について再検討することに引き続きコミットし、2023年12月15日までに、指針としての新クォータ計算式を含め、第16次クォータ一般見直しの下で IMFのガバナンス改革のプロセスを継続していく。我々は総務会への二回目の進捗報告を歓迎し、最近の建設的な議論を基に、次の会合までに更なる進捗を得る。

10. 我々は、IMFにおいて進行中の現代化の取組を支持し、多様性に関して更なる進捗を求める。我々は、理事会におけるジェンダーの多様性の拡大を支持する。我々は、強固な組織としてのセーフガードの重要性に合意し、理事会及びマネジメントによる組織としてのセーフガードの見直しに関する成果及び次のステップに期待する。

11. 次回IMFC会合は、2022年10月13日に開催される予定である。

 
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1 国連決議ES-11/1 より引用。

2 同上。


国際通貨金融委員会

ハイブリッド 参加者

2022年4月21日(木)・ ワシントンDC

議長

ナディア・カルビーニョ、第1副首相兼経済・デジタル変革大臣、スペイン

専務理事

クリスタリナ・ゲオルギエバ

委員会

ザイナブ・アフメド、財務予算国家計画大臣、ナイジェリア

ムハンマド・アルジャドアーン、財務大臣、サウジアラビア王国

ムハンマド・ビン・ハディ・アル・フッセイニ、財務大臣、アラブ首長国連邦

ロサンナ・コスタ、総裁、チリ中央銀行

アダマ・クリバリ、経済財政大臣、コートジボワール共和国

ロスソム・ファドリ、総裁、アルジェリア中央銀行

ダニエレ・フランコ、経済・財務大臣、イタリア 共和国

クリスティア・フリーランド、副首相兼財務大臣、カナダ

パウロ・ゲデス、経済大臣、ブラジル連邦共和国

パブロ・エルナンデス・デコス、総裁、スペイン銀行

洪楠基、経済副首相兼企画財政部長官、大韓民国

シグリット・カーフ、財務大臣、オランダ王国

クリスティアン・リントナー、財務大臣、ドイツ連邦共和国

フランソワ・ビルロワドガロー、総裁、フランス銀行(ブリュノ・ルメール、経済・財務・復興大臣、フランス共和国―代理)

パタイ・ミハーイ、副総裁、ハンガリー国立銀行(マトルチ・ジェルジ、総裁、ハンガリー国立銀行―代理)

ウエリ・マウラー、財務大臣、スイス連邦

アントン・シルアノフ、財務大臣、ロシア連邦

ニルマラ・シタラマン、財務大臣、インド共和国

リシ・スナック、財務大臣、英国

鈴木俊一、財務大臣、日本

ニコライ・バンメン、財務大臣、デンマーク王国

ペリー・ワルジヨ、総裁、インドネシア銀行

ジャネット・イエレン、財務長官、アメリカ合衆国

易綱、総裁、中国人民銀行


オブザーバー

アグスティン・カルステンス、総支配人、国際決済銀行(BIS)

アズセナ・アルビレッチェ、議長、合同開発委員会(DC)兼経済財務大臣、ウルグアイ

クリスティーヌ・ラガルド、総裁、欧州中央銀行(ECB)

ヴァルディス・ドムブロフスキス、執行副委員長、欧州委員会(EC)

クラース・クノット、議長、金融安定理事会 (FSB)兼総裁、オランダ中央銀行

リチャード・サマンズ、調査局長、国際労働機関(ILO)

マティアス・コーマン、事務総長、経済協力開発機構(OECD)

ベルーズ・バイカリザデ、原油研究部、石油輸出国機構(OPEC)

アヒム・シュタイナー、国連開発計画(UNDP)総裁、国際連合

レベッカ・グリンスパン、事務局長、国連貿易開発会議 (UNCTAD)

デビッド・マルパス、総裁、世界銀行グループ(WB)

ンゴジ・オコンジョ・イウェアラ、事務局長、世界貿易機関(WTO)

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