ピーターソン国際経済研究所での開会の挨拶 国際法人課税について

2019年3月25日

皆さま、こんにちは。本日はお招き下さり、ありがとうございます。ピーターソン国際経済研究所を訪れるのは久しぶりで、懐かしい顔ぶれも、初めて拝見するお顔も見受けられ、たいへん嬉しく思います。

前回、光栄にも私をお招き頂いたのは2012年9月のことでしたが、その後ほどなくしてアダム・ポーゼン氏が研究所の所長に就任されました。

今私たちは、ピーターソン研究所のような組織をかつてないほどに必要としています。世界経済が直面する重要課題について活発に議論し、現実的な解決策を見出す必要があるからです。

ポーゼン所長、私たちが今日の水準まで知見を深めることができているのは、所長をはじめとした研究所の皆さんのご尽力のおかげです。御礼申し上げます。

信頼を取り戻す

今日の課題は国際法人課税です。かつて物理学者のアルベルト・アインシュタインは「世の中で最も理解しがたいものは所得税である」と発言しました。たしかに容易ではないかもしれませんが、より世界経済の変化に即した法人税制を構築することは可能です。

私は、この分野には新たなルールが必要だと考えています。なぜでしょうか。

「巨大多国籍企業が税金をほとんど納めていない」と一般の人たちは認識しており、こうした見方が迅速な行動を求める政治的な声につながっています。

この理由は想像に難くありません。

新しいアプローチ

なぜ新しいアプローチが早急に必要なのか、その3つの理由をお話ししましょう。

第1の理由は、多国籍企業が易々と租税回避できているように見えることや、法人税率が30年間にわたり下がり続けていることで、税制全体の公平性への信頼が損なわれていることです。

第2の理由は、現在の状況がとりわけ低所得国にとって有害だからです。低所得国の国々は、より高度な経済成長や、貧困の削減、そして2030年の持続可能な開発目標(SDGs)の達成のために大いに必要とされる歳入を奪われているのです。

先進諸国は、長きにわたり低所得国にどのような影響を与えることになるかを考慮しないままに国際的な法人税ルールを形成してきました。

IMFの 分析 では、例えば、企業が低税率の国や地域に利益移転したことによって、OECD非加盟国は毎年2,000億ドルの歳入損失、GDPいうと約1.3%の損失を被っていることが示されています。

低所得国の声も反映させていく必要があります。IMF、世界銀行、OECDおよび国連が共同で取り組む「税に関する協働のプラットフォーム」がこの面で支援を行っています。

第3の理由は、技術主導型でデジタル中心かつ収益性が非常に高いビジネスモデルの台頭が国際的な法人課税の見直しに拍車をかけているからです。

このようなビジネスモデルは、価値の査定が難しい特許やソフトウェアなどの無形資産に大きく依存しています。

またこうしたビジネスモデルは、所得や利益と物理的な拠点が紐づいているという前提が既に時代遅れだということも示しています。

こうした状況を前にして、公平性に関する懸念が生まれています。デジタルサービスのユーザーや消費者を多く抱える国は、こうしたサービスを提供する多国籍企業からの税収をほとんど得ていません。なぜでしょうか。それはこうした多国籍企業の物理的な拠点がその国にはないからです。

ですから、私たちが国際課税を抜本的に見直さなければならないことは明らかです。

しかしそれは、国境を越えた協調が必要なことを意味しています。進歩を遂げるためには、すべての国が足並みを揃え、そして正しい方向へと進んでいかなければなりません。

これは簡単なことではありませんが、可能です。

国際課税に関する取組みを多国間で調整する主な手段はOECDの包摂的枠組で、現在125か国以上が参加しています。これは国際的な取組みとしては目覚ましい進展ですが、引き続き脆弱性を抱えています。

IMFの役割

それではIMFはどうでしょうか。私はIMFにも、安定をもたらしつつ開発途上国の利益も十分に考慮した解決策を編み出すにあたって各国を支援するという役割があると思っています。

2週間前に発表されたIMFの新たな研究では、様々な選択肢を3つの主要基準に照らして分析しています。その3つの基準とは、利益移転や租税競争への対処の改善、改革に際しての法律面や行政面での障害の克服、そして新興市場国と開発途上国にとっての利害の確実かつ十分な認知です。

この論文ではまた、主要な選択肢について広範にレビューを行うとともに、現在進行中の重要な議論にとって知見となりえる実証的分析も提供しています。

この他にどのような形で支援が行われているのでしょうか。

IMFでは毎年100か国以上に対して租税に関する技術支援も実施しています。また、税制改革の経済的影響を評価するための専門知識も備えています。

そして何より、IMFには世界のほぼすべての国が加盟しているため、私たちは発展途上国が直面する特有の問題についても理解しているのです。

最後にひとつ、皆さまに対話の中でぜひ取り上げて頂きたい点をお伝えして、私の挨拶は終わりにしたいと思います。

現在の国際法人課税の仕組みは、根本的に時代遅れです。既存の制度を見直してその弱点の根本原因に対処することで、低所得国を含めすべての国が恩恵を受けることができます。

そして同時に私たちは、何年にもわたって浸食されてきた国際税制の公平性に対する信頼の回復を図ることができます。大いに必要とされている信頼を、取り戻すことができるのです。

ご清聴ありがとうございました。

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