腐敗に「明瞭さ」で立ち向かう

2017年9月18日

はじめに

ただいまノーマン・アイゼン氏より、過分なご紹介に預かりたいへん恐縮しております。まず、アイゼン氏が本フォーラムの開催にご尽力されてきたことに御礼申し上げます。また、本イベントの主催者であるブルッキングス研究所、国際金融公社 (IFC)、そしてPartnership for Transparency Fundの皆さま、とりわけフランク・ヴォーグル氏にも感謝を申し上げたいと思います。

Partnership for Transparency Fundのクリック・ポートマン理事、ンゴジ・オコンジョ・イウェアラ元世界銀行副総裁、ハンス・ピーター・ランケスIFC副総裁、これからの対話を楽しみにしております。

このイベントが重要であると申し上げました。なぜでしょうか。その理由は、腐敗に立ち向かうには、問題をありのまま認識し、その影響を可能な限り正確に測定する必要があるからです。ですから、本日ここに政策立案者、ビジネス界のリーダー、市民社会の専門家がお集まりになっているのは、正しい方向に進む第一歩なのです。

腐敗について話をするときはいつも、映画「カサブランカ」の有名なシーンが私の頭に思い浮かびます。リックが経営するカフェ・アメリカンのカジノをルノー署長が閉鎖する場面です。ルノー署長は「ショックだ!ショックだよ。ここでカジノが開かれていることが分かったのだ」と驚きを見せますが、もちろん署長は自分の勝ち分をちゃっかりポケットに入れて立ち去るのでした。

この会場にいる私たちの誰もショックを受けてはいません。私たちは腐敗が問題だと認識し、何か対策をとろうとしています。ですから、この朝、この場に集まっているのです。

まず始めに、IMFと腐敗撲滅の文脈で頻繁に耳にする3つの問いにお応えすることから始めたいと思います。1つ目ですが、IMFが腐敗をどのように定義しているか。2つ目は、なぜIMFが腐敗の防止に取り組むのか。そして3つ目ですが、腐敗と戦う加盟国をIMFがさらにどのように支援していけるかです。

1. 腐敗の定義

IMFは他の国際機関と軌を一にして、公職者の腐敗を「私利私欲のために公職を濫用する」ことと定義しています。

しかし、これは実際には何を意味するのでしょうか。私たちは皆、腐敗が複雑な問題で、暗闇に隠れて活動する主体が複数、しばしば関わっていることを認識しています。

ひとつだけ、事例を思い浮かべてみてください。資源採掘産業での賄賂を例にしましょう。

地元の役人が賄賂を要求したかもしれませんし、中央政府の役所が見て見ぬふりをしたのかもしれませんが、お金を差し出した企業についてはどうでしょうか。もちろん、その企業も不法な取引に参加しています。

結局のところ、賄賂が受け取られるには、賄賂が差し出されなければなりません。

こうした理由から、我々は公職者による腐敗撲滅に取り組む加盟国を支援する一方で、公職者に影響を与える国際的な民間主体にもしっかりと目配りするようにしています。民間主体も、賄賂のような直接的な手段によって腐敗を引き起こせる他、資金洗浄や脱税など間接的な手段によって腐敗を支援することもできます。

直近の「パナマ文書」の例は、こうした腐敗の支援者の重要性に光をあてました。また、腐敗が静かに国境を越えて広がる有害なあり様もくっきりと示したのです。

ですから、効果的であるためには、我々は問題の実態を現実的に認識した上で、腐敗の様々な側面を見分けられるようなアプローチを取るべきなのです。

2. IMF が関与する理由。そして、なぜ今なのか

この点を踏まえて、2つ目の問いに移りましょう。なぜIMFが腐敗撲滅のためにさらなる取り組みを行うよう求められるようになったのか。そし、なぜ今なのか。その答えですが、多くの国々において腐敗がマクロ経済にも重要な意味を持つ問題だという共通認識が加盟国間で高まってきているからです。

本日、会場にお越しになっている何人かの方々のご尽力によって、腐敗が制度に根づいてしまうと、国家が包摂的な成長を実現し、人々を貧困から脱出させる能力が損なわれることがはっきりとしました。構造化された腐敗は腐食的な力を持ち、企業の活力を削ぎ、国の潜在的な成長力を抑えこんでしまいます。

贈収賄は腐敗の一形態にすぎませんが、その年間コストは1.5兆ドルから2兆ドルにのぼると試算されています。これは世界GDPの約2%にあたります [1] 。こうしたコストは氷山の一角に過ぎません。長期的にはさらに多大な影響が生じます。

政府が華やかなコンベンションセンターを不必要にもかかわらず新しく建設し、その背景にリベートを得るという目的が隠されていたとしましょう。

建設開始の1年後に、社会福祉の財源がなぜか足りなくなり、当初の支給対象だった人々への支給が困難になります。

長期的には、教育や医療に費やされるはずだったお金が流用されてしまうと、格差が固定化され、より高収入の仕事に就き、より良い生活をおくる可能性が狭まってしまいます。

こうした腐敗が制度的に根付いてしまうと、政府への信頼が失墜し、国家が海外から直接投資を誘致する能力が損なわれてしまいます。

その結果、負のスパイラルに陥り、抜け出すことが難しくなってしまうのです。

ミレニアル世代はこの実態をはっきりと感じ取っています。世界の若者を対象にした直近の調査によると、若者たちは雇用ではなく、教育の欠如でもなく、腐敗を自分たちの国が直面する最重要課題だと認識していることがわかっています [2]

若者たちのこうした捉え方には英知があります。というのも、若者たちが日々経験する経済的な不平等の多くは腐敗が根本原因となっているからです。

若者たちはまた別の真実も理解しています。腐敗はある種の国や経済に限られたものではなく、どの国にも影響を与えるものだと彼らはわかっているのです。腐敗の魔の触手は、その温床となる環境に応じて、公金の横領から、公職への身内の登用やテロ資金供与に至るまで様々な形態をとりえます。

それでは、最後の問いに話を移しましょう。この問いかけが私たちの議論の出発点となります。その問いとは、あらゆる類の腐敗に抵抗しようとする加盟国を支援するためにIMFが何を行ってきたのか、そして、さらに何ができるかです。

3. IMF にできる支援

腐敗との戦いは長年、IMFの業務の一部であり続けてきました。先月、IMF理事会はIMFの取り組みの進捗状況を確認し、この問題に立ち向かうために今後はより直接的に関与していくことを誓いました [3]

理事会は、より詳細な政策助言を行うこと、また、腐敗の経済的影響について率直で公平な評価を行うことで、加盟国政府の役に立てるだろうと意見をひとつにしました。

この目的を達成するためには、問題の定量化や分析を行ううえでさらに優れた新手法が必要になります。ですから、ブルッキングス研究所とIFCならびにそのパートナーが先頭に立って進められる新しい腐敗防止調査の取り組みが2つ、本日この場で立ち上げられることを喜ばしく思っております。

IMFが皆さんの取り組みから恩恵を受けるだろうと私にはわかっています。また我々の経験も皆さんに役立つだろうとも信じています。どのような経験をしてきたか手短に紹介させてください。

私たちは、皆さん同様に、透明性と説明責任を高める ところから取り組みを始めました。米国最高裁判所のルイス・ブランダイス判事が言われたように「日光は最高の消毒剤」なのです。

例えば、IMF職員との協議後、ガボン政府は翌年の予算に盛り込んだ主要な公共投資についてデータを公表すると固く約束しました。2020 年までに、予算法には公営企業各社に関連する金融リスクの概要が記載される予定で、資源採掘産業も対象となります。

こうした取り組みと密接な関係にあるのが、規制を改革し、司法機関を強化するための活動です。

規制の改革は必ずしも規制緩和を意味するものではありません。許認可や政府の手数料、契約を担当する「監督者」の数を減らすために、無駄な贅肉を取り除くことでもあります。

司法の側面では、警察や検察、裁判所など法を執行する役割を担う機関で腐敗が起こることが頻繁にあります。

例えば、ウクライナ政府は国内の腐敗について包括的な調査を行うためにIMFの手を借りました。調査後に出された報告書は国立腐敗防止局の設立など一連の改革に結びつきました。

しかし、こうした改革は初めの一歩にすぎません。腐敗の容疑者を追及できるよう調査担当者の権限を強化する必要があり、検察官は反腐敗裁判所で訴訟を行う力を与えられなければなりません。

ウクライナの状況は、我々が直面するより広い課題を明確に示しています。変化が持続するためには、国際機関や市民社会、政治指導者が力を合わせる必要があります。また、変化を起こすスピードについても現実的であるべきです。風土や慣習は、良いものであれ、悪いものであれ、一晩で変わることはありません。

腐敗はしばしば秘密裏に進行し、その測定が困難であるため、新しい政策の効果があらわれるまで何年もの時間がかかることがあります。一方で、各国の中には、この問題に取り組もうとすることにさえ消極的な政府も存在します。というのも、こうした政府は腐敗を政治的な問題だと捉え、経済的な問題だと認識していないためです。しかし、これは前へと進まない理由にはなりません。

IMFがその使命に対し忠実であるためには、腐敗について明確に発言し、加盟国に対して提供できるツールを用いて支援を行う必要があります。IMFはさらなる取り組みを行うことができ、実際に取り組みを強化していくことを、本日この場で皆様にお約束させていただきます。

終わりに

では、映画「カサブランカ」に話を戻して締めくくりたいと思います。ただ、フランス国歌「ラ・マルセイエーズ」を熱狂的に合唱するよう皆さんを仕向けたりはしません。そうしたくなる誘惑にかられはしますが。

本日、このご挨拶の冒頭で、本日のイベントが重要であると申し上げました。主催者の皆様へただのリップサービスとして申し上げたのではありません。世界が手を携え腐敗の撲滅に取り組むことで、この世の中にさらなる繁栄をもたらし、市民ひとりひとりの生活をより良くしていくことができるのです。

カサブランカ主演のハンフリー・ボガートの台詞を言い換えるならば、「これが美しい対話の始まり」かと存じます。

ありがとうございました。



[1] IMF職員ディスカッションノート「腐敗:コストと緩和策 ( Corruption: Costs and Mitigating Strategies )」(2016年5月)

[2] WEFグローバルシェーパーズ2017年調査 ( WEF Global Shapers Annual Survey 2017 )

$commdept