成長を加速させることは国際交易の両輪に潤滑油を与える一助となり、それが国境を超えた生産性と
成長のさらなる向上を促す。 (写真: ILYA NAYMUSHIN/ロイター/ニューズコム)

貿易の両輪を回し続ける

2016年9月28日

  • 2012年以来の世界貿易量の拡大ペースの劇的な減速の約4分の3は、投資を中心とした低調な経済活動が原因
  • 貿易自由化の停滞、最近の保護主義の大きな高まり、国境を超えた生産拠点分散の鈍化も貿易を抑制しているが、その抑制度合いはまだ小さい。
  • 成長と投資が上向かねば貿易量は抑制され続けそう
  • 一層の貿易改革と損失を受ける人々への救済策が貿易を再活性化し、テクノロジーとノウハウの伝播を支援

2012年以後、世界の財とサービスの貿易の伸びは低調で約3%にとどまり、過去30年間の伸びの半分にも届いていない。世界貿易の伸びは世界のGDPの伸びにかろうじて追いついているペースで、その減速は広範にわたっている(パネル2の図表を参照)。

この貿易の弱さの理由は依然明確に解明されていない。低い成長と投資が貿易を抑制しているのであろうか。それとも貿易抑制的な政策が、貿易の両輪に砂をかませているのであろうか。2016年10月 世界経済見通しでの一つの調査研究はこれらの問題を複数の補完的アプローチと製品別の貿易量の新しい詳細なデータ群を使って究明を試みている。

貿易装置の成長歯車

調査研究は、貿易の減速はほとんどの場合低調な経済回復の一つの兆候であることを経験的に発見した。2003年から2007年に比べて2012年以来の実質貿易の伸びの不足の4分の3は世界的な成長の弱まり、特に投資の低調さに起因している可能性がある。経済モデルに基づく試算でも同様の結果となった。

経済成長の水準とその構成の変化以外に他の要因が貿易の伸びの重しとなっており、それらでまとめて2012年以来世界の輸入の実質的成長を毎年1.75パーセントポイント分押し下げている。これらの要因のうち、保護主義的政策が一因となった貿易コストと、その国の世界サプライチェーンへの関与の度合いが押し下げの原因の半分を占める。

弱い経済成長に比べて貿易コスト増の貿易減速への下押し度合いは限定的であるが、このコストを低めるための新たな世界的政策イニシアティブの欠乏は、世界金融危機以後の非関税障壁の段階的増加と相まって貿易へのさらなるリスクとなり得る。国境を超えた生産拠点の再配置のペースが落ちているとみられ、これも貿易にブレーキをかけているが、現在存在するサプライチェーンを活用する機会が使い尽くされてしまったのか、あるいは貿易をゆがめる政策によって関連するイニシアティブが妨げられているのかを見極めるのは難しいことである。

これは世界貿易の今後の見通しに何を意味するのであろうか。調査研究は貿易と経済成長が密接に連関していることを示唆している。成長の加速は通常貿易の拡大が伴う。今後5年間に世界経済活動が上向くことがわずかしか期待できない中で、世界貿易の軟調さは継続しそうだ。

そして世界経済にやがて勢いが出てきても、世界貿易が金融危機以前に見られたような成長を達成できそうもない。当時は中国や他の多くの新興市場国での投資が尋常でない伸びとなり、貿易コストも政策協調と技術革新で低下、そして世界的バリューチェーンが急速に発達していたからだ。

両輪に潤滑油を与えると

成長の制約要因に対処することが、政策対応の中心とならなければならない。それは世界経済活動全体を底上げするだけでなく、世界貿易の両輪に潤滑油を与える支援となり、貿易がさらに国境を超えた生産性と成長をさらに刺激する好循環を作り出すことになる。

しかし、低調な経済見通しがすでに貿易の重しとなっているため、貿易政策(例えば自由貿易協定)自体が影響を持つものであり、保護貿易主義のいかなる形態も排除すべきである。それと同時に、新たな世界的サプライチェーン構築ラウンドを勢いづかせることなどにより依然残る貿易障壁を取り除くことは、貿易が今大変必要とする支援となるであろう。

貿易コストをさらに低下させる余地は相当あり、それらの策には次のものが含ま
れる。

  • 高止まりしている関税の引き下げ
  • 貿易円滑化協定で定められた各項目の批准と完全な施行
  • ドーハラウンド後の課題を進めるロードマップ設定

今後の貿易改革はまた、地域の現代世界経済へ最も関連する事象、例えば規制協調、サービス分野での貿易障壁削減、そして国境を超えた投資と貿易の補完性の利用に焦点を当てるべきだ。

すべての人に(より)公正な貿易を

貿易統合への人々からの支持の強化とその恩恵を保護するために、政策担当者は海外からのより激しい競争への対応に苦労する労働者と産業の懸念に応え、その移行の困難を和らげる措置を講じなければならない。それらの政策には、十分に広範な社会セーフティネットや労働者の再訓練、技術習得、職業的、地理的移動を可能にするプログラムが含まれる。