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歴史的に貿易は、アジアにおける経済成長と貧困削減の強力な推進要因となってきたが、ここ数年は貿易障壁を引き下げる勢いが鈍化している。

アジアにおける貿易の関税障壁は全体的に低いものの、非関税障壁の新たな指標は、アジアの新興市場国や発展途上国の多くで依然として非関税障壁が高いことを示唆している。関税とは異なり、非関税障壁は許認可要件のほか、貿易や支払い、 外国通貨の両替に関する制約など、摩擦を生むような政策を含む。

IMF「アジア太平洋地域経済見通し(REO)」で詳述されている最近の研究によれば、非関税障壁の緩和は、国内総生産を約1.6%押し上げ、パンデミックが残すと思われる傷跡の4分の1ほどを回復させる可能性がある。IMFの予測では、アジアの新興市場国や発展途上国の2024年のGDPは危機前のトレンドを6%下回ることが示唆されており、これは年間約1兆ドルの損失に相当する。それを考えると、上記の研究結果はより重要な意味を持つ。

貿易障壁

アジア地域の国境を超えた活動の歴史を考えてみると、より理解しやすい。過去数十年間にわたって、アジアにおける力強いGDP成長は、モノやサービスの貿易がGDPに占める割合などの貿易開放性指標の上昇や、グローバルバリューチェーンへの参加の増加を伴っていた。しかしこの開放性は近年勢いを失っており、パンデミック発生前からアジアの従来の成長エンジンが減速していたことがうかがえる。

それと同時に改革の速度も落ちた。アジアにおける平均関税率は、1970年代の50%超から2000年代初頭には1桁台へと大幅に下がり、それ以上の改善の余地はほとんどなくなっていた。しかし課税がすべてではない。データに制限があるために具体的な分析は困難となってきたが、非関税障壁が貿易の大きな妨げになっていると長い間考えられてきた。

 IMF

この制約を克服するため、 近日発表されるIMFのワーキングペーパーでは、1949年まで遡って159か国の貿易制限の包括的指標をまとめている。この指標では、IMF「為替制度および為替制限に関する年次報告書」の詳細な貿易障壁データを用いている。ここでは、許認可要件や、外国通貨をリリースするための書類作成のハードルなどさまざまな阻害要因がとらえられている。

この指標を見ると、過去半世紀の間に関税が大幅に下がったのとは対照的に、非関税障壁の低下幅は小さく、比較的高いままとなっていることがわかる。アジアの水準は、最も高かった1960年代のおよそ20から、1995年までには15くらいにまで下がったものの、それ以降はほぼ変わっていない。

開かれた貿易の利点

このスコアはネパール、バングラデシュ、ミャンマーなどの低所得国で特に高いが、中国やインドのような大規模新興市場国にも改革の余地がある。アジアの新興市場国や発展途上国の平均スコアも、他の地域の新興市場国や発展途上国に比べて顕著に高くなっている。

実証的分析は、非関税障壁の引き下げが大きな経済的利益をもたらしうることを示唆している。1990年代初頭にスリランカが実施した輸出許認可や融資、書類作成の要件撤廃のような、IMFの指標上大幅な障壁削減があった場合、短期的にGDPが約1%押し上げられる可能性がある。5年後にはそうした成長の率は約1.6%にまで上昇する。

 IMF

注目すべきは、改善は純輸出の増加によって直接もたらされるのではなく、投資強化や生産性向上によってもたらされるということだ。これは、貿易自由化による進歩が、専門化によるメリットや、技術移転、より生産性の高い企業への資源再配分など、複数の経路で起こるということを浮き彫りにしている。

ワクチン接種によってパンデミックからの回復が促進されるにつれ政策当局者は、経済改革を優先して成長を下支えし、今般の危機が残す傷跡を最小限にとどめなければならない。新興市場国や発展途上国ではなおさらだ。パンデミックが引き起こした後退した労働者教育の後退や技能レベルの低下からの回復を目指した政策や、労働市場や製品市場の改革がそれに含まれうる。

IMFの研究は、国際貿易障壁の引き下げがどのように寄与しうるかを説明している。

モノに対する障壁の引き下げ:アジア諸国の多くでは、輸出入には許認可が必要で、外国通貨をリリースするには膨大な書類作成が求められ、外国為替の使用が制限されている。そうした阻害要因を取り除けば、事務的な遅延を緩和し、国際取引のコストを削減することができる。

サービスに対する制約の緩和:物品にとどまらず、1980年代にオーストラリアが行ったように、旅行や、輸送、コンサルティング、国際送金などの分野でも取引に対する制約緩和の大きな余地がある。そのような改革は、サービス貿易がより急成長していく今後、大きな利益をもたらす可能性が高い。

貿易障壁の引き下げは、中期的にGDPを押し上げうる一方で、配分面で打撃があるおそれもある。改革に伴う再配分は勝者と敗者を生み、すでにより豊かな者がより大きな利益を得る。そのため、貿易改革と併せて格差の影響を軽減する政策も不可欠だ。最も深刻な打撃を受けた層を支援する資金的支援や、労働者が新しい職に就くのを助ける再訓練制度などがそれに含まれる。

各国が何年にもわたるパンデミックの余波に直面するにあたり、貿易の開放性を改めて積極的に取り入れることは、模索すべき有望な道だ。パンデミックの傷跡を癒すことは優先事項であり、IMFの研究は、貿易障壁の削減によりアジアにおける成長の原動力を再び活性化できることを示している。

上述の貿易制限指標は、近日発表のワーキングペーパー「A Contribution to the Measurement of Aggregate Trade Restrictions and Their Economic Effects」(ジュリア・エステファニア・フローレス、ダビデ・フルチェリ、スワーナリ・A.・ハナン、ジョナサン・D・オストリー、アンドリュー・K.・ローズ著)に含まれている。

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プラギャン・デブIMFアジア太平洋局地域監視課のエコノミストで、ミャンマー担当エコノミスト。現職の前には、戦略政策審査局でIMFの融資や監視の方針、新興市場国関連の問題、マクロ金融波及効果、外的ショックに対応するための政策枠組みを担当。また以前には、IMFのモンゴル向け融資取極担当チームに参加したり、中国、エストニア、フィンランド、ラトビア、サウジアラビアなどさまざまな国のサーベイランス業務を行った経験もある。国際金融安定性報告書や地域経済見通しにおける分析を通して多国間政策監視に貢献した。IMFでの勤務前には、イングランド銀行でマクロプルーデンス政策と銀行規制業務に従事した。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで金融学博士号を取得。

ジュリア・エステファニア・フローレスは、IMFアジア太平洋局のリサーチアナリストで、以前は調査局に所属。主な担当分野は、貿易制限のマクロ経済的影響、予測精度の定量化、金融政策の分配効果。IMFでの勤務前には、スペイン銀行でリサーチアシスタントを務め、欧州中央銀行の国際関係委員会のIMF関連課題に関するタスクフォースにも参加した。ポンティフィシア・コミージャス大学で国際関係学(専門は国際経済学)で修士号を取得。マドリード・カルロス3世大学では政治学と社会学の両分野で学位を取得。研究関心分野は、国際貿易、開発、経済成長、政治経済学など。

シッダート・コタリIMFアジア太平洋局のエコノミストで、オーストラリアを担当している。また、地域研究課の業務の一環として域内の動向も広く見ている。マクロ経済学と開発を主な研究分野としている。スタンフォード大学で経済学博士号を取得。

ノア・タウクIMFアジア太平洋局のエコノミストで、地域研究課で地域開発を担当し、地域経済見通しの作成に携わっている。マレーシア担当エコノミストも務めている。現職の前には金融資本市場局のエコノミストとして国際金融安定性報告書の作成に従事し、イタリアと日本を対象とした金融セクター評価プログラムにも参加した。研究関心分野は、資本の流れに対する新興市場国の政策対応、非伝統的な金融政策からの波及効果、二国間の為替相場におけるシステミックな変動など。慶応義塾大学で経済学修士号と博士号を取得。