いくつかの要因が低所得国の景気回復の妨げとなっている。第一に、低所得国ではワクチンへのアクセスが均等ではない。大半の低所得国は、多国間の仕組みであるCOVAXファシリティにほぼ完全に依存している。これは、国際機関のコンソーシアムが主導し、ワクチンへの公平なアクセスを目的とする世界的なイニシアティブである。しかし、現在のところ、COVAXは低所得人口の20%にしかワクチンを供給する準備ができていない。
第二に、低所得国では危機対応のための政策余地が限られており、とりわけ追加支出のための財源が不足している(図を参照)。
第三に、低所得国の間では多くの国で見られる高水準の公的債務や、一部諸国における全要素生産性の低さ(マイナスの場合もある)など、以前から存在する脆弱性が引き続き成長の足かせとなっている。
資金調達ニーズ
私たちのペーパーでは、低所得国がパンデミックを脱却し強靭な回復を実現する際に、IMF「世界経済見通し」のベースラインですでに想定されている分を上回って今後5年間に必要となる資金調達額の推定を行っている。
まず、私たちは低所得国がワクチンを含む新型コロナ対応支出を拡大し準備資産を回復・維持する上で必要となる額を推定している。私たちの分析は、こうした目的のために約2,000億ドルが必要になると示唆している。
続いて、私たちは低所得国が先進国との所得格差縮小を加速させる上で必要となる資金調達額を推定した。その場合、さらに2,500億ドルが必要になることがわかった。悪化シナリオで特定されているリスクが顕在化する場合には、支出ニーズがさらに1,000億ドル上乗せされることになる。
多くの低所得国における債務水準を踏まえれば、借入で賄えるのはこうした支出のうちごく一部にすぎない。しかし、上記のニーズに沿って資金調達を拡大できれば、低所得国は2025年までにコロナ禍以前に見られた先進国との格差解消の軌道を回復できることになるだろう。
多面的な対応
こうした追加的な資金調達ニーズを満たすには、3本柱からなる多面的な対応が求められることになる。まず、低所得国の完全な景気回復を実現するには、国際社会による大規模な支援が必要となる。世界全体で十分なワクチンの生産を確保し、手頃な価格であまねく確実に供給することが決定的に重要となる。
くわえて、グラント(無償資金援助)や譲許的融資、さらに必要な場合には債務救済を含む包括的な資金供給パッケージを展開することも不可欠だ。IMFや国際開発金融機関はこのパッケージにおいて重要な役割を果たすことになるだろう。
第二に、競争力と潜在成長率を高める上での低所得国による野心的な国内改革アジェンダが必要である。それには、ガバナンスとビジネス環境を改善し、国内における歳入確保を強化し、国内金融市場を発展させ、経済・金融の運営を向上させることなどが含まれる。
こうした改革は結果的に、多面的な対応の第三の柱である、国内民間部門の育成や国外からの民間資本の導入を刺激することになるだろう。
IMFは、こうした多面的な対応に全面的に参画することになる。また、以下のとおり低所得加盟国向けにいくつかの支援措置をすでに開始している。
- 「貧困削減・成長トラスト(PRGT)」の下で緊急融資をはじめとする譲許的資金へのアクセスを拡大。2020年3月から2021年3月にかけて、50以上の低所得国を対象に約130億ドルが承認されている。IMFでは現在、一時的な融資限度額の引き上げを超えた、低所得国向けの融資枠組みの見直しも行っている。
- 特別引出権(SDR)の新規配分に関する提案。6,500億ドル相当のSDR配分の可能性について、IMF加盟国の間で支持が広まってきている。SDRの配分は、準備資産に対する世界の長期的なニーズに対応する上で役立ち、すべての加盟国に相当規模の流動性支援を提供するものとなるだろう。
- 「大災害抑制・救済基金」を通じた適格国29か国に対する債務救済。2021年4月から10月までを対象とする第3次トランシュが最近承認され、それによって2020年4月からの債務救済の総額は7億4,000万ドルに上ることになる。こうした債務救済は、貧困国がパンデミック下で優先分野への支出を拡大する余地をもたらしている。
- G20の債務支払猶予イニシアティブ(DSSI)を2021年12月末までさらに延長することへの支持。DSSIによって、2020年には43か国を対象に57億ドルの債務救済が実施され、2021年6月までにさらに45か国を対象に最大で73億ドルの債務救済が行われると期待されている。
貧困国が今後5年間に直面するニーズは甚大である。しかし、それは充足不可能なものではない。強力かつ協調的で包括的なパッケージが求められている。それがあれば、迅速な景気回復とグリーンかつデジタルで包摂的な成長への転換を実現し、低所得国と先進国の格差解消を加速させることができるだろう。
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ギヨーム・シャベールは1970年生まれで、フランスを代表する工学の高等教育機関エコール・サントラル・パリ、パリ政治学院、フランス国立行政学院(ENA)の卒業生。キャリアの最初に、2000年にフランス内務省の地方自治体部門での業務を経験。2004年から財務省に勤務。2010年にG20担当プロジェクトマネージャーに就任し、フランスがG20(およびG7、G8)の議長国となった2011年の調整業務を担う財務省チームのリーダーを務めた。地域経済局における北欧経済(スウェーデン、デンマーク、ノルウェー、アイスランド)担当をストックホルムにて2年間にわたり担当した後、2013年より経済・金融・企業に関するフランス首相付の補佐官業務に従事した。2014年にはフランス財務大臣の首席補佐官代理に任命された。2015年4月に国際問題、貿易、開発政策を担当する次官補となり、パリクラブの共同議長、フランスのG20およびG7の財務サブシェルパの訳を担った。2021年1月に現職であるIMFの戦略政策審査局副局長に就任した。
ロバート・グレゴリーは、IMF戦略政策審査局の副室長で融資方針を担当。現職の前には欧州局でアイスランドを担当した。その前にはモロッコとナイジェリアの業務を担った。キャリアをアクセンチュアで開始した後、イギリス財務省とバークレイズ銀行でも勤務した。イギリス政府への出向で貿易政策業務に従事した後、IMFに先日帰任した。
ガエル・ピエールはIMF戦略政策審査局のエコノミスト。2013年にIMFでの勤務を開始してから、紛争や難民危機のマクロ経済的な影響や、公務員賃金、成長と包摂性の向上、包摂的な成長を支えるための経済ガバナンスについてなど、中東・中央アジアに関する諸問題について論文を発表してきた。現在はモザンビーク担当。過去にはアルジェリア、イラン、シリアの業務を担った。IMFの前には、世界銀行のシニアエコノミストとして働き、発展途上国における労働市場や社会的保護の問題に重点的に取り組んだ。査読付きの学術誌、旗艦刊行物、書籍を通じて論文を発表している。ウォーリック大学で経済学博士号、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで経済学修士号を取得。