アジア太平洋地域経済見通し

新たな変異株の波への取り組み

パンデミック復活が回復を遅らせる

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概要

アジア太平洋局「2021年地域経済見通し」

世界の一部地域では新型コロナウイルスのパンデミックが悪化しており、世界経済の成長率は2021年に5.8%2022年は4.9%になると予測されている(2021年については今年7月の「世界経済見通し(WEO)改訂見通し」から0.2%ポイント下方改定されている)。主にワクチンへのアクセスが世界各国の回復状況を分断している。すなわち、ワクチンにアクセスできるか否かで、経済活動のさらなる正常化が期待できる国(主に先進国)と、感染再拡大のために入院者数と死者数の増加に直面している国に分かれている。2022年より先は、世界経済の成長率が中期的に[3.5%]付近にまで減速すると予測されている。不確実性は引き続き高いものの、現下の物価上昇は一過性のものであると見られている。

アジアについては、パンデミックのサイクルが新たにピークを迎えたことから、2021年の見通しが今年4月の「世界経済見通し(WEO)」から[1%ポイント超下方改定されて[6.5%]となっている。ワクチンの接種ペースが加速するのに応じて、2022年には成長率がこれまでの予想を若干上回ると見込まれている。アジア太平洋地域は今も世界で最も高い成長を遂げている地域であることに変わりはないが、ワクチン接種の普及や政策支援を反映してアジアの先進国と新興市場国・発展途上国の間では経済回復状況がますます乖離しつつあり、新興市場国・発展途上国では総生産水準は中期的にパンデミック前の成長トレンドを下回ったままであろうとみられている。不透明なパンデミックの動向、変異株に対するワクチンの有効性、サプライチェーンの混乱、そして金融脆弱性を国内に抱える中で米国の金融正常化に伴う国際金融上のスピルオーバー効果の可能性を主な理由として、リスクは下方に傾いている。

経済成長予測

新たな変異株の波への取り組み-パンデミック復活が回復を遅らせる

政策はこうした状況の変化に対応するものでなければならず、ワクチン接種加速のための取り組みを強化し、(政策余地がある場合には)政策ターゲットを改善しつつマクロ経済支援を継続し、成長の新たな原動力を育成するための改革を加速する必要がある。ワクチン接種の遅れやワクチンアクセスの不平等が回復をさらに遅らせる要因となるため、ワクチンを広く行き渡らせることが最優先の課題である。さらに、世界的な一次産品価格の持ち直しと、長引くグローバル・バリューチェーン(GVC)の混乱がインフレに拍車をかけ、成長見通しの重しとなっている。回復の勢いが弱まる場合には、緩和政策の長期化が必要となり、それに伴って金融安定性を維持するため警戒感を持った金融規制も必要となるだろう。財政政策は引き続き回復を下支えするものでなければならないが、信頼性を維持するために中期的な財政枠組みの範囲内である必要がある。中央銀行は、回復が予想よりも早く勢いを増したりインフレ期待が上昇したりする場合に迅速に行動する準備を整えておく必要がある。生産性を高め、パンデミックで打撃を受けた労働者や学齢期の子どもに公平な機会を提供するため、社会政策や構造改革、そしてデジタル部門とグリーン部門への投資を後押しすることが必要である。

新型コロナウイルスワクチンが生み出す機会を生かす―アジアの早期事例

今回の「地域経済見通し(REO)」は、力強く持続的な回復に必要不可欠なものに焦点を当てた2つの研究を参考にしている。第3章では、新型コロナワクチンの普及を左右する要因について検証し、ワクチン接種が健康面や経済面での成果に与える影響を定量化している。その研究では、ワクチンの展開が主に2020年のパンデミックの深刻さ、調達戦略、現地生産の規模、ワクチンの受容性、医療インフラの質によって左右されることが示されている。本章では、迅速かつ広範囲にワクチン接種を行うことによって経済活動を大きく後押しすることができ、その効果が時間の経過とともに、そしてワクチン接種完了者の割合が増えるのに伴い、増大するという新たな経験的証拠を提供している。ワクチン接種による健康上の利益は、深刻な流行のさなかにあり感染拡大防止措置がとられている国の場合に、より一層顕著になる。本章で定量化されたワクチンの波及効果は、あらゆる国でワクチンへの広範なアクセスが可能になるまでいずれの国も完全に回復することはできないことを示唆している。

貿易自由化でアジアの成長の原動力を再生する

4章では、貿易自由化によっていかに生産性と潜在産出量を押し上げ、パンデミックによる域内の後遺症を抑えることができるかを分析している。貿易は歴史的にアジアにおける成長と貧困削減の強力な原動力となってきたが、GVC貿易も含めてその勢いは停滞している。依然厳しい貿易制限がある中で、1990年代半ば以降自由化の動きが失速したことがその一因である。本章の分析では、包摂的な繁栄を加速するために、非関税障壁(アジアでは他地域よりも著しく高い)を削減し、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)や地域的な包括的経済連携(RCEP)などの地域協定を通じた進展をさらに推し進める余地があることを強調している。