IMF理事会、2024年の対日4条協議を終了
2024年5月13日
ワシントン DC: 国際通貨基金(IMF)理事会は2024年5月6日に対日条協議[1]を終了した。対日4条協議には、日本を対象とした金融セクター評価プログラム(FSAP)の調査結果に関する議論も含まれた。[2]
日本経済は引き続きパンデミックから回復しており、物価は、30年にわたる低インフレの後、幅広い形で上昇している。2023年第2四半期の実質GDPは2019年第3四半期のピークを上回り、需給ギャップは解消したと推計される。しかしながら、回復には引き続きばらつきがある。財・サービスの輸出はパンデミック前のピークを上回ったが、個人消費と投資は依然として下回っている。総合インフレ率は2022年4月以降、前年同月比で2%を超えている。基調的なインフレ率を捕捉するための指標によると、目標を上回る現在のインフレは、過去30年間で初めて、製品とサービス全体に幅広く及んでいる。インフレから賃金へのパススルーは上昇し始めた。2023年の経常収支黒字は対GDP比3.4%へと拡大し、2023年の対外ポジションは中期的なファンダメンタルズおよび望ましい政策が示唆する水準と概ね一致すると評価される。
成長は続く見通しで、今年後半には消費が持ち直すとみられる。訪日観光客の急増を含め、2023年の成長を支えた一過性の要因が薄れることで、2024年は成長が0.9%に鈍化する見通しである。2024年春闘の結果を受けた名目賃金の上昇と、総合インフレ率の鈍化に伴う実質賃金の上昇の組み合わせによって、2024年後半から2025年にかけて消費が持ち直すとみられる。コアインフレ率は、輸入物価上昇の影響が弱まるにつれて、徐々に低下すると見込まれるものの、2025年後半までは目標の2%を上回る水準で推移すると予測される。基礎的財政赤字は、直近の財政刺激パッケージの影響を反映して、2024年も6.4%と高水準にとどまるだろう。経常収支の黒字は、輸出に支えられ、3.5%へと微増すると予想される。引き続き、高齢化と人口減少が中長期的にマクロ経済の主要な課題となる。
成長とインフレに対するリスクは概ね均衡している。成長面の下振れリスクは、世界経済の減速や地経学的分断の悪化、食料・エネルギー価格のボラティリティの高まりなどである。国内の主要な下振れリスクは、実質賃金の低下に伴う消費の低迷、経済活動の制約となり得る労働力不足の深刻化、インフレのない環境への回帰である。上振れ面については、訪日観光のさらなる回復とより力強い世界経済が、成長を下支えし得るだろう。インフレについては、過去を振り返って形成されるインフレ期待と、春の賃金交渉後の予想を大幅に上回る賃上げが上振れリスクとなる。インフレの下振れリスクは、世界的な財・輸入物価の下落の加速によって生じ得る。
日本の金融システムは、一連のショックに耐えてきたが、いくつかの課題に直面している。現時点におけるマクロ金融の安定性に対する主要なリスクは、脆弱性の3つの主要因に由来する。金融機関が時価会計ベースで大量の有価証券を保有していること、いくつかの銀行の外貨エクスポージャーが顕著であること、不動産市場の一部が過熱化の兆候を見せていることである。FSAPの一環として実施されたシステミックリスク分析は、金融システムがさまざまなマクロ金融の負のショックに対して概ね強靭であることを示唆しているが、いくつかの分野は注意と緊密なモニタリングが必要である。また、気候変動のほか、サイバーリスクを含むデジタル化の進展によるリスクも注意深くモニタリングしなければならない。近年、金融セクターの政策は強化されているが、リスク環境が進展する中で金融の安定性を維持するためには、さらなる措置が妥当である。
理事会による評価[3]
理事らは、日本経済が、消費の持ち直しに支えられ、成長し続ける見込みであること、また、30年にわたる低インフレの後、幅広い形で物価が上昇していることを歓迎した。理事らは、成長とインフレに対するリスクが概ね均衡している点に留意しつつも、人口の高齢化と労働市場の硬直性に起因する生産性の伸びの低迷という長期的な課題に対して、着実に政策を実施する必要があると強調した。
理事らは、財政バッファーを再構築し、債務の持続性を確保するためには、歳入と歳出双方の措置で下支えされた財政再建が必要であると指摘した。こうした中、需給ギャップが縮小したことと債務が高水準にあることを踏まえ、新たな支出は、歳入増や他分野での節減で相殺されるべきこと、また、成長に配慮した財政再建は、強化され一層規律づけられた中期財政フレームワークによって支えられるべきであることを強調した。
理事らは、インフレにかかるリスクが均衡しており、最近のデータに様々なシグナルが混在していることから、短期政策金利の追加利上げは段階的なペースで進められるべきであること、またデータに依拠すべきであることについて一致した。理事らは、日銀による状況に応じた国債の買い入れは、歴史的な政策転換期において、マクロ金融安定を弱体化させ得る利回りの過度な変動を緩和する上で役立つだろうとの認識で一致した。またより広い意味で、理事らは、政策金利引き上げのペースの背後にある要因を継続的に示す、明確かつ効果的なコミュニケーション戦略が鍵となることを強調した。理事らは、日本の長年にわたる変動相場制へのコミットメントが、ショックを吸収し、金融政策が物価安定に焦点を当てることを助けるだろうと強調した。
理事らは、2024年金融セクター評価プログラムの主要な調査結果と政策提言を支持した。理事らは、金融システムが概ね強靭であることを歓迎する一方で、金融機関の市場リスクを注意深くモニタリングする必要があり、不動産セクターの一部における潜在的な脆弱性がマクロプルーデンスの対応を要することに留意した。理事らは、進展する困難なリスク環境が、金融セクターの監督と危機管理の枠組みにおいて残りのギャップを埋める必要性を強調しているとの意見で一致した。理事らは、金融機関の監督と破綻処理を強化するため、人員を大幅に増やす必要があるという点でも一致した。
理事らは、こどもの出生、女性のリーダー、スタートアップ、グリーン経済を支援するためにさらなる構造政策が必要であり、中でも労働市場改革が最優先との見解で一致した。理事らは、これらの改革には、保育施設のさらなる拡充、働き方改革の進展、労働市場の二重構造の是正、企業のダイナミズムの促進が含まれるべきとの点でも一致した。
表1日本:主な経済指標(2020ー2025)
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[1] IMF協定第4条の規定に基づき、IMFは加盟国と、通常毎年、協議を行う。IMF職員の代表団が協議相手国を訪問し、経済や金融の情報を収集するとともに、その国の経済状況や経済政策について政府当局と協議する。本部に戻った後、代表団のメンバーは理事会での議論の土台となる報告書を作成する。
[2] IMFはFSAPの下、個々の機関ではなく金融システムの安定性を評価する。FSAPは、システミックリスクの主要な発生源を特定する助けとなり、ショックや波及に対するレジリエンスを高めるための政策を提案するものである。IMFがシステム上重要な金融セクターを有すると判断した国では、4条協議の国別サーベイランスの一部として義務付けられており、日本の場合は5年ごとに行われることになっている。前回のFSAPは2017年に実施された。
[3] 議長である専務理事は、審議終了時に理事会の見解を要約し、その要約が各国の政府当局に提出される。総括で使用される修飾語句の定義については以下リンクを参照。
http://0-www-IMF-org.library.svsu.edu/external/np/sec/misc/qualifiers.htm.
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