2023年対日4条協議終了にあたっての声明に関する記者会見の記録

2023年1月26日

参加者:ギータ・ゴピナート筆頭副専務理事、ラニル・サルガド日本ミッションチーフ

モデレーター:ジェニファー・ベックマン、IMFシニアコミュニケーションオフィサー

ベックマン氏:こんばんは。2023年日本IMF4条協議ミッション終了にあたっての記者会見にようこそいらっしゃいました。IMFコミュニケーション局のジェニファー・ベックマンです。本日は、IMF筆頭副専務理事のギータ・ゴピナートと日本ミッションチーフのラニル・サルガドが参加しております。ギータ・ゴピナートの話から始め、次に皆さまからのご質問に移りたいと思います。

ゴピナート氏:ありがとうございます。皆さま、こんばんは。日本経済に関する今年の年次審査、いわゆるIMF4条協議の一環として日本政府と行った協議では、三つのテーマを取り上げました。

一つ目は、経済回復の進展に関するものです。2023年の日本の成長率は1.8%と予測されており、世界経済見通し10月版での予測1.6%からわずかに引き上げられています。政府は新型コロナウイルスに関連する制限を緩和して国境を再開し、ペントアップ需要とサプライチェーンの改善、政策支援に支えられ、成長が押し上げられました。

二つ目に、2%の物価上昇目標を達成するための政策について協議を行いました。協議では、2%の物価上昇目標を、大幅にオーバーシュートさせない形で持続的に達成するための政策の組み合わせに焦点を当てました。

三つ目として、財政の脆弱性を低減させる必要性について協議を行いました。信頼できる中期的な財政再建計画を策定することにより、動的かつ強靱で包摂的な経済への移行が促進されることになります。

これら三つのテーマについて、経済見通しから順に具体的にお話しいたします。

日本は、パンデミックとウクライナでのロシアの戦争による影響からの回復の最中にあります。政府は新型コロナウイルスに関連する制限を徐々に解除し、10月には制限を非常に限定的なものとした形で、国境を再開しました。コア物価上昇率は、ここ数か月で加速し、より広範な物価上昇が見られ、40年ぶりの高水準となる4%を付けました。

経済回復は短期的に続く見通しであり、需給ギャップは2023年に解消することが見込まれます。サービス消費は、パンデミック中に蓄積された貯蓄によって支えられると思われます。輸出は、受注残が解消され、供給側の制約が緩和されるにつれ増加し、円安による企業利益の増加や事業計画の後ずれは、企業投資を支えることになると考えられます。

経済見通しに対するリスクは均衡が取れているものの、物価見通しの不透明感は非常に高く、上振れリスクと下振れリスクの両方があります。

賃金上昇が大幅に加速しない限り、日本の物価上昇率は2024年末までに2%の目標を再び下回ることが予測されます。従って、総じて緩和的な金融政策が引き続き適切です。物価上昇に関する不確実性の高まりを踏まえたリスク管理強化のため、更に柔軟な長期金利の変動を検討すべきと思われます。先を見据えると、物価目標が持続的に達成されたとのより強い証拠が得られた際に、中立的な金融スタンスへの移行をより円滑化することにつながる可能性があります。短期金利を引き続き低い水準に維持する必要があり、金融政策の設定に関する変更については、十分なコミュニケーションが行われるべきです。

基礎的財政赤字は、2022年10月の財政政策パッケージの導入を受け、2023年においても引き続き高水準であることが見込まれます。経済回復が続き、物価が上昇し、労働市場が引き締まり、需給ギャップが縮まる中、財政支援策はより迅速に縮小されて、新たな政策は脆弱な世帯に対象を絞った限定的な措置であるべきです。政府支出の圧力が高まり続けるにつれ、いかなる追加的支出策も的を絞り、また、歳入を増やす手段を伴うべきです。

中期的には、公的債務を下降軌道に乗せ、財政バッファーを再構築するために、経済の状況を考慮に入れ、成長に配慮した形の信頼できる財政再建が必要です。金融支援策の対象は存続可能な企業に限定されなければなりません。潜在成長率を押し上げ、男女格差を解消し、財政再建による重しを相殺するために、労働市場と財政の改革が必要となります。グリーン計画やデジタル分野への投資は、気候変動関連の目標を達成し、デジタル経済の恩恵を受けることの助けとなり得ます。

最後になりますが、日本政府、日本銀行、民間部門の関係者の皆さまには、闊達で実りある協議に応じてくださったことに感謝を申し上げたく思います。大いなる学びがありました。また、多国間での協力促進における日本の継続的なリーダーシップ、およびIMFの財源や能力開発活動などを含むIMFへの日本のご支援に対し、IMFとして深く感謝の意を表したく思います。ありがとうございました。

ベックマン氏: ありがとうございました。それでは、声明についての皆さまからのご質問に移りたいと思います。最初に会場内からいくつかのご質問を受け、次にZoomでのご質問に移ります。Zoomで質問をなさりたい場合、「手を挙げる」機能を利用するか、チャットに書き込みをしていただければ、私がご指名します。マイクを持っているスタッフがおりますので、会場内で質問をなさりたい方にはマイクをお渡しいたします。

質問者: 金融政策に関する質問があります。金融政策の柔軟性を許容するシナリオについてかなり詳細な叙述がなされており、また多くの論拠が示されていることは少し珍しいように感じます。そのような対処をする理由は何か知りたく思います。そういった措置を講じるためにはどのくらいの時間軸を想定していますか?

ゴピナート氏: 私たちが考えるところでは、日本の物価上昇率は転換点に来ている可能性があり、これは朗報です。物価上昇率が持続的に 物価目標 に向かっているかもしれないからです。現在のところは、2%の物価上昇率が持続的に達成できるという十分に強い証拠はないと考えています。もちろんのこと、今現在4%の物価上昇率は過去数十年と比べて遙かに高い水準にあります。しかし、物価上昇率が持続的に2%であるためには、賃金上昇率がもっと大幅に高まることで、2%の物価上昇が維持されることが必要です。私たちの予測では、物価上昇率は今年の第1四半期にピークを迎え、その後に低下して、2024年末までに物価目標を若干下回ると見込んでいます。従って、物価上昇率を巡っては大きな不確実性があります。日本は、大きな上振れリスクだけでなく大きな下振れリスクの両方があるという意味において独特と言えます。状況が独特であり、慎重に練られた政策過程が必要だと言っているのは、このためです。物価上昇率に関する双方向のリスクを踏まえると、長期金利の一層の柔軟化は然るべき時期に役立つものと考えています。

ベックマン氏: ありがとうございました。Zoomでのご質問に移る前に、会場からあと一つご質問をお受けします。繰り返しますが、どうぞ挙手をお願いします。ご質問できるようスタッフがマイクをお持ちいたします。

質問者: 世界経済についてどのような見解をお持ちかお伺いできますか?世界経済の減速と日本および世界全体への悪影響についてどのような見方をしていますか?おそらく今年あるいは来年には深刻な影響が及ぶことになるのでしょうか?

ゴピナート氏: 世界の経済成長率は、2022年に比べて2023年には減速すると見込んでいます。しかしながら、強靭さの兆しが見られてきています。昨年10月の予測と比較して、米国と欧州ではそれよりも力強い成長が見られ、また中国が突如として経済活動を再開したことが予測に影響を及ぼしています。従って、世界の成長率は今年底打ちし、その後年末に向けて一定の上昇が見られ、2024年には更に上昇すると予想しています。

世界各国への影響に関しては、世界的な需要の低迷が、特に輸出に依存する国々への外需を減少させています。一方で世界的な需要の減少により、また欧州では懸念されていたよりも冬が穏やかな気温である事実も加わり、多くの国でエネルギー価格が下落することにつながりました。

日本の場合については、中国の経済活動再開を受け、それが貿易と観光の点で中国と強い結びつきを持つ日本にプラスの波及効果をもたらすということを踏まえて、1.6%から1.8%へと予測を引き上げました。繰り返しになりますが、全体的な成長率は今年底打ちし、2024年にかけて回復に向かうと予想されます。

ベックマン氏: ありがとうございました。さて、Zoomで参加なさっている方々について、もし日本語で質問をなさりたい場合は、通訳がご質問を訳します。会場内の皆さまについても、もちろん同様です。Zoomで質問をなさりたい方があれば、挙手をするか、チャットボックスに書き込みをお願いします。今のところ、Zoomでのご質問はありませんので、会場内に戻ります。会場内でどなたか質問なさりたい方はいらっしゃいますか?

質問者: 昨年、日本政府は防衛支出の増額を決定しました。どのようにお考えですか?

ゴピナート氏: 日本政府には支出圧力が生じるものと予想します。支出の性質について具体的に言及することは控えます。しかし、いかなる歳出の増加も歳入の増加に見合うものでなければならないというのが全体としてのメッセージです。日本では債務の対GDP比がかなりの高水準にあることを踏まえれば、これは重要であり、従って漸進的な財政再建が必要です。再建は成長に配慮して行われるべきですが、必ず行うことが重要です。そして歳出の増加は歳入の増加に見合うものでなければならないということです。ラニル、何か付け加えたいことはありますか?

サルガド氏: まさにギータの発言にあったように、新型コロナウイルスからの力強い回復を受けて日本経済は転換点にあり、財政赤字が削減される時だと私たちは考えています。ギータが述べたとおり、日本は公的債務がたいへん高水準にあり、多くの支出のニーズがあります。長期的には、高齢化があります。

短期的には、グリーントランスフォーメーションやデジタルトランスフォーメーションへの重要な投資が必要とされています。すなわちニーズはありますが、赤字が下降に向かうよう、それらのニーズは財政収入と整合しなければなりません。現在、新型コロナウイルスに関連する措置が解除されたことにより、一定の赤字は自動的に下降しますが、今後数年にわたり更なる赤字の削減が必要であると考えています。

ベックマン氏: ありがとうございました。さて、繰り返しますが、オンラインでの参加者の中でご質問があれば、挙手をお願いいたします。今、質問を受けました。カメラをオンにしてミュートも解除、またはミュートだけ解除して、質問をお願いします。

質問者: どうも、ありがとうございます。聞こえますか?

ベックマン氏: 良く聞こえます。

質問者: ありがとうございます。歳出の増加を歳入の増加と見合うものとする必要性に関しての補足的な質問です。つまりは、防衛支出あるいは、その他いかなるものであれ支出が大幅に上昇することになれば、日本が実質的に増税することを提案しますか?日本では多くの議員たちが、日本の経済回復が未だ脆弱であるとの懸念から、税率の引き上げという手段に訴えるよりも、更に一層の国債増発を選好する可能性があると思えるため、ご質問します。この点を明確にしていただければありがたく思います。よろしくお願いします。

ゴピナート氏: ありがとうございます。これに関してはラニルに話してもらいたいと思います。

サルガド氏: 分かりました。ギータが既に触れていますが、回復は、ギータが冒頭の話で語っているところの多くの理由を背景に順調に進んでいると私たちは考えています。従って、日本経済には良好なモメンタムがあると思います。もちろんのこと、一定の下振れリスクがあり、政策はどのような下振れリスクについても適応しなければなりません。しかしながら、私たちのベースラインでは、経済は基本的に年内は潜在GDPの水準にあります。日本銀行も同じような予測をしています。従ってこの文脈において、日本政府は中期的に必要とされることに焦点を当てるべきだと考えます。そして中期的に求められることについては、日本には既に対GDP比でおよそ250%というかなり高水準の公的債務があります。これが、私たちが財政再建が必要であると述べている文脈です。つまり、税収またはその他の財政収入を引き上げる一方で継続的な財政収入が新規の支出に関する取組の埋め合わせをするという財政再建です。これが私たちが実際に推奨することです。

ベックマン氏: ありがとうございました。さて、おそらくあと二つほど質問を受ける時間があります。今時点で、Zoomでのご質問はありませんので、会場内に戻り、会場からのご質問を受けたいと思います。もしZoomで質問をなさりたい方があれば、Zoomからの質問もお受けします。はい。今のところ、Zoomからも会場内からもご質問はありません。ご質問がないようでしたら、2023年対日4条協議終了にあたっての声明に関する記者会見をこれで終了したいと思います。皆さま、本日はご参加いただきありがとうございました。

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