日本とIMF:強靭性に向けた提携

2022年7月20日

講演用原稿

はじめに:強靭性の大切さ

鈴木大臣神田財務官、ご来賓、ご列席の皆さま、おはようございます。鷲見所長、ご丁寧な紹介を賜り、ありがとうございます。

まず、日本国民の悲劇的な犠牲に対し、深い哀悼の意を表します。安倍元首相の驚くべき献身的な活動における業績は、ここで挙げるにはあまりにもたくさんあります。しかし、ひとつ私にとって印象的 な数字を挙げます。元首相が訪れた国の数、176 か国です 。元首相の多国間主義への取り組み、すなわち世界を結集させて大きな課題に立ち向かうグローバルな日本への取り組みは、比類のないものでした。また個人的には、前回の訪問の際に(官邸で) お出迎えいただき、大変光栄でした。元首相は暖かく魅力的な主催者であり、IMFの強力な支持者でした。

日本の損失は世界の損失です。IMFの職員は日本の国民の皆さまと共に悼んでいます。

安倍元首相の功績を称え、日本とIMFが共に世界で取り組んでいる活動を続けていきます。その多くはIMFアジア太平洋地域事務所(OAP)を通して進めています。

OAPのチームの皆さま、このイベントを開催して下さりありがとうございます。そして 創設 25周年おめでとうございます。一緒にお祝いできて光栄です!

この記念日は、日本とIMF、そしてIMFとアジア太平洋地域の加盟国との25 年間の提携 を表しています。この提携は、我々がアジア太平洋地域とその国民のために学び、適応し、協力し、進化する能力を反映します。そしてそれは、過去の教訓から学び、より強靱な未来を共に築くという、私たちの深い決意を示しています。

私たちは今日、ますます打撃を受けやすい世界にいます。複数の危機 に直面する世界です。パンデミックによる影響が続き、債務の増加とインフレなど世界経済へ深刻な影響を与えているウクライナでの戦争が長引き、地経学ブロックへの 分断 リスクが高まっています。こうしたショックがある中、強靭性の構築に注目することは、かつてないほど重要であり、喫緊の課題です。

だからこそ、何年にもわたって多くのショックを乗り越えてきた日本でこのお話をすることは理に適っています。日本は私たち全員に勇気を与えてくれます。

11年前の東日本大­­震災の光景、そしてそれが日本の人たちに与えた衝撃を私は決して忘れません。また、日本人の団結力と、素晴らしい回復力で以前より強く復興する力も忘れられません。

その困難な時期にしばしば脚光を浴びた、日本のよく知られた回復力の象徴、だるまを思い起こします。

最近知ったのですが、だるまは農家の人たちが収穫の縁起物として使ったのが始まりでした。また、当初は別の用途もありました。天然痘ウイルスの感染拡大を防ぎ、発症者の回復を助けることです。

だるまは、私たちが今日直面している課題と、それに立ち向かうために構築する必要がある回復力の偉大な象徴です。

強い基盤

まず強靭性を構築するには強い基盤が必要です。

誰かがだるまを倒そうとすると、だるまは傾きます。しかし、だるまは常に元の位置に戻ります。これが、回復力についての有名な日本のことわざの起源です。 七転八起

だるまはなぜこうなるのでしょうか。 人形の土台にしっかりとした重しがついていて、倒れずにいられるからです。

だるまのように、強固な基盤があれば、経済はショックに直面してもすぐに立ち直る可能性が高いのです。 健全な経済政策と制度の基盤です。

これは日本の歴史の中で何度も目にしてきたことです。過去2年間でも再び目にしました。

パンデミック前、そしてパンデミック中の日本の強力な政策行動 が、強靭性を構築し回復を促したのです。日本には、パンデミックに対処するための封鎖措置やその他の対策を実施する財政・金融政策の余力があったのです。その結果、過去2年間、日本は他のほとんどの先進国と比べて、 新型コロナウイルス関連の感染率と死亡率が低かったのです。

また、強力な財政・金融政策支援に、信用供給を促進するための規制緩和が相まったことも、 日本の銀行システムの回復力に貢献しました。日本の銀行システムは潤沢な資本と流動性を保っています。

日本は、OAPへの支援を含め、地域全体の経済の強靱性を実現するため、強固な基盤構築に取り組んできました。

例えば、OAPはサモア中央銀行と協力して金融安定に関する会議を開催したり、 ベトナム当局と公共投資管理に関するワークショップを開催したりしました。

しかし、だるまは単に転んで起き上がることを象徴するものではないことを知りました。

より良い未来の展望

だるまは 、より良い未来の展望を形成することの大切さも示します。

だるまを作る際、ひとつだけ塗装しない部分があります。目です。なぜでしょうか。目の塗装はあなた次第だからです。展望 を示すのはあなた次第です。このことから、だるまは未来の目標を設定 し、それを見通すという行為を象徴します。

長期的な強靭性を構築するには、より良い未来を築くために必要な大胆な変革を追求する展望が必要です。

一例が、より環境に優しい低炭素経済 への移行です。2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするという日本のコミットメントを歓迎します。他の国と同様に、これにはグリーン技術への投資と何らかの形のカーボンプライシングを含む大きな政策の後押しが必要となります。

デジタル変革 も、各国経済に利益をもたらします。日本では、技術革新やデジタル化が非常に進んでいます。例えば、日本はすでに 産業用ロボットの普及率が最も高い 国のひとつです。デジタル化の一層の進展や人的資本への投資、経済における女性の役割の向上は、日本の生産性を向上させ、気候変動や高齢化などの課題に対してより効果的に取り組む助けとなります。

OAP はこの地域で 、各国がより良い未来を築くことをさまざまな方法で支援しています。OAPのプログラムは、各国が持続可能な開発目標(SDGs)を達成するための政策を策定・実施し、気候関連の金融リスクに対処することを支援しています。

強靭性 の構築に向けた協力

私たちは、他と協力することで、強靭性を構築 する様子を幾度となく 見てきました。

協力を拡大することは、だるまの土台を広げてより安定させるようなものです。そして複数の危機に直面している今、私たちは 総力をあげなければなりません

日本ほど多くの具体的かつ強力な方法で地域協力や世界協力を支援している国はなかなかありません。

日本は長期にわたり、IMFの主要メンバーであり、最貧国を支援するための譲許的資金供与制度を含め、IMFのさまざまな財源への 最大の拠出国です。

また、非常に多くの国と人にとって重要なIMF能力開発 活動について、日本は1990年以来の最大の拠出国でもあります。

日本の貢献によりIMFは、幅広い重要な経済問題について加盟国を支援することができました。最近の例としては、デジタルマネーと中央銀行のデジタル通貨に関する取り組みや、IMFの 新型コロナウイルス危機能力開発イニシアティブに対する支援が挙げられます。

特に日本-IMFアジア奨学金プログラム(JISPA)や、ここ東京に拠点を置くOAPへの寛大な資金提供に感謝申し上げます。JISPAの卒業生は母国で指導的な役割を担っています。今日、現在の奨学生の多くがこの部屋にいらっしゃることも嬉しく思います。

彼らはアジアの未来を象徴しています。私たちは彼らを支援できることをとても誇りに思っています。

次の 25 年間

まとめさせていただきます。だるまの偉大な伝統では、必ず願いを込めます。達成に向けて尽力する目標を掲げるのです。

私からの願いは、今後25年間で、社会を前進させる復興を遂げることです。より環境に優しく、スマートで、平等、公平、そしてもちろん、より強靭性のある世界に向かって。

また、このより良い、より強靱な世界を実現するために、OAPとIMFが引き続き重要な役割を果たすことを願っています。日本の多大な支援と加盟国の継続的なパートナーシップがあれば、私たちは間違いなくそれを成し遂げることができます。

ご清聴、誠にありがとうございました。

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