IMFアジア太平洋地域事務所(OAP)・東京大学共催コンファレンス 「コロナ時代に世界金融危機の教訓を学ぶ」における ゲオルギエバ専務理事のオープニング・スピーチ
2020年11月23日
日本の皆さま、こんばんは。そして、日本国外から参加くださっている皆さまにもご挨拶申し上げます。
まず、五神総長をはじめとする東京大学の皆さまに厚く御礼申し上げます。今回、とても大切なコンファレンスを共催するにあたり、東大の皆さまと協力できたことを、ありがたく感じております。
また、世界を舞台に日本がリーダーシップをとられ続けていることを心の底から称えたいと思います。国際通貨基金(IMF)への支援においても日本はリーダーシップを発揮されており、IMFの諸財源、また、譲許的融資制度に最大額の貢献を行ってくださっている国のひとつです。また、発展途上国において能力や制度を構築できるようにするために、IMFの能力開発活動を長年にわたり一貫して支援してくださっています。
このコンファレンスで皆さんとお会いするにあたり、偉大な科学者であるアルベルト・アインシュタイン博士のことを思い出しました。アインシュタイン博士は「過去から学び、今日を生き、明日に希望を持とう」というアドバイスを私たちに残しています。
今日のテーマである世界金融危機の教訓ですが、私たちが未曾有の危機への対策に注力している今においても、過去から学んだことで以前よりも進歩できている点を思い出させてくれます。そして、これが明日への希望となるのです。
世界金融危機がひとつの理由となって、私たちの誰もが銀行システムの強靭性を強化する必要性を認識したのです。そして、その改革に向けて私たちは取り組み、素晴らしい恩恵を現在受けています。大恐慌以降で最も深刻な景気後退の最中にあっても、金融の安定性は概ね維持されています。
この金融の強靭性は世界金融危機以降、私たちが構築してきたものです。この強靭性に加えて、各国政府は約12兆ドルに及ぶ財政政策支援を講じ、また、中央銀行による大規模な流動性の注入が行われました。これら2種類の対応が世界経済のさらなる悪化を阻止する力となったのです。
多くの政府の借り手にとって、世界の金融環境は緩和してきています。これまでに、ファンダメンタルズが強固な一部新興市場国が国際資本市場に再び参加できるようになり、比較的低コストで資金を調達できています。こうした状況から何がわかるでしょうか。
第一に、危機において政策支援を維持することの重要性です。これまでに、人々や企業がパンデミックを切り抜けられるよう支援する上で、財政政策・金融政策における異例の措置が大きく貢献してきました。そして、政策枠組みのファンダメンタルズの強さが行動を起こす上での国の能力を高めます。今後は、各国における支援の終了が時期尚早とならないようにすること、そして重要な点ですが、最も弱い立場の人々を支援できるように政策措置の対象をしっかりと設定し続けることが肝要になるでしょう。
第二に、強靭性を強化する規制改革が有益だということです。世界金融危機後に講じられた措置が一因となって、銀行は以前よりも資本と流動性がはるかに強固な状態で今般の危機を迎えることになりました。パンデミック後の世界を見据えるにあたり、強靭性をさらに高めた上で次の危機、特に迫り来る気候危機に臨むために何ができるか私たちは検討すべきでしょう。この強靭性の考え方を広げて、3種類の強靭性に重点を置く必要があります。まず、教育を受け、健康で、強力な社会保護を享受しうるという「人々の強靭性」です。2つ目は、将来世代のために、私たちが暮らす惑星を守り、気候変動のリスクを減らすという「地球の強靭性」です。そして、「金融の強靭性」もあります。私たちは引き続き、銀行部門において実現できた成果をノンバンク金融機関にも拡大していきます。
第三に、こうした点のすべてにおいて国際協調が不可欠です。世界金融危機後に改革を非常に迅速かつ効果的に導入できた背景には、ひとつ大きな理由があります。私たちは一緒に取り組んだのです。G20を通じて、過去10年間にわたり制度を強化してきた金融規制改革を私たちは支援してきました。
今回の危機においても同様に、力を合わせることで、有効性を大きく高めることができます。
現在の危機は、過去から教訓を学ぶこと、そして、教訓を具体的な方策によって実行することに大きな価値があると示しています。そうすることで、強靭性を高めた状態で未来のショックに立ち向かえるのです。
そして今、私たちが直面している問いは「パンデミック後のより素晴らしい世界を目指して、2021年を前進するための行動の年にできるだろうか」です。危機が終結した時に、私たちは再び強靭性を向上できているでしょうか。
今日、過去から学べると私は信じています。明日のための希望を築くことができるでしょう。一緒に手を携えて、取り組みましょう。ご清聴ありがとうございました。
IMFコミュニケーション局
メディア・リレーションズ
プレスオフィサー:
電話:+1 202 623-7100Eメール: MEDIA@IMF.org