IMF理事会、2019年の対日4条協議を終了

2020年2月10日

年1月30日に国際通貨基金(IMF)理事会は対日4条協議 [1] を完了させた。

日本経済は、外的環境が相当に弱体化した中でも、潜在成長率の試算値を上回るペースで成長している。弱まった外的環境に応じる形で輸出と輸出志向の投資が弱含んだ一方で、2019年第1四半期から第3四半期にかけて民間消費と公的支出が成長を支えた。2019年10月に消費税率が2%ポイント引き上げられたが、部分的には政府による対策の効果もあり、影響は2014年の前回引き上げ時と比べると小さかったように思える。2019年の実質GDP成長率は潜在成長率を上回る1.0%だったと試算されている。GDPギャップは縮小しつつあり、労働市場は引き締まった状態が続いている一方で、全体的な賃金の伸びとインフレ期待は依然として低迷している。ここ数か月で消費者物価指数(CPI)総合指数と日本銀行のコアコアインフレ率(生鮮食品とエネルギーを除く)が上昇しているが、日銀の物価目標である2%には及んでいない。

日本の経常収支黒字は、悪化した対外環境が原因となって財貿易収支が縮小したことを反映して、2019年に対GDP比で約3.3%まで縮小したと試算されている。日本の所得収支黒字は、巨額の対外純資産と純リターンの高さから生じており、これが現在の経常黒字の大部分を占めている。過去40年、経常収支黒字は比較的安定しており、企業貯蓄の増加が公的部門と家計のマイナス貯蓄によって相殺される形になっている。実質実効為替レートを見ると、2019年11月までに2018年末比で2.5%の円高となった。ただし、世界的なリスク回避と主要な中央銀行の金融政策スタンスの変化を反映して市場は変動が激しい状態が続いている。2019年の対外ポジションは、2019年の「対外セクター報告書」と同様に、中期的なファンダメンタルズと望ましい政策と概ね整合的な水準にあると暫定的に評価されている。

財政及び金融政策に支えられ、堅調な成長基調が維持されると見込まれており、短期的な物価上昇率は1%前後に達するだろう。人口動態による逆風が強まるにつれて、マクロ経済的な課題も増えることになる。短期的な財政政策の下支えと継続される金融緩和は、成長の勢いを持続させたり、リフレーションを支えたりすることに貢献するだろう。一方で、高齢化関連の支出が急増していることを踏まえると、財政の漸進的な調整と健全化が必要である。構造改革は長期的な成長率を押し上げ、リフレーションを支えるだろう。また、強化された金融セクター政策はシステミックなリスクの蓄積を抑制する力となる。中期的には成長のペースが潜在成長率に向けて緩やかに減速し、GDPギャップの解消が徐々に進むと見込まれている。総合インフレ率は少しずつゆっくりと上昇すると見込まれるが、日銀の目標である2%を下回り続けるだろう。

理事会による評価 [2]

理事らは、外的な逆風にもかかわらず日本経済が堅調に成長していることを歓迎し、物価上昇率が物価目標を下回っている点、また、不利な人口動態や世界経済成長の鈍化など下振れリスクが見通しにとって重荷となっている点に言及した。高齢化と人口減少は日本のマクロ経済政策と成果にとって最重要となっており、その進行が続く中、理事らは高成長の継続、持続的なリフレーション、公的債務の持続可能性を実現するために、アベノミクスの相互に高めあう政策を強化する必要性、また、改革を加速させる必要性を強調した。

理事らは、金融刺激策の持続可能性を強化するため、また、金融安定性へのリスクを緩和させるために、金融セクター政策との連携を改善しつつ、緩和的な金融政策が今後も維持されるべきだとの意見で一致した。また、市場に向けた政策ガイダンスのコミュニケーションを明確に行うことの重要性を強調した。理事らは、現状において、現行の金融政策枠組みはしっかりと機能しているが、政策の柔軟性と信頼性をさらに改善するために、時間をかけて枠組みを強化するために取りうる選択肢を模索する余地があるかもしれないと考えた。

理事らは、長引く低金利と高まる人口動態圧力に関連する課題に言及し、銀行部門の耐性を先手を打つ形で強化する必要性を強調した。当局に対してマクロプルーデンス政策のタイト化を検討すること、また、カウンターシクリカル資本バッファーを発動できる態勢を整えることを奨励した。また、金融セクターの監督と規制、リスク評価プロセス、マクロプルーデンス政策ツールキットをさらに改善する努力の継続を推奨した。理事らは、2017年金融セクター評価プログラム(FSAP)の勧告の実施に関し前進があったことに勇気づけられた。地域金融機関が事業モデルを適応させるのを支援するために政府当局が密接に関与していることを歓迎した。

理事らは、直近の財政刺激策を歓迎し、短期的には概ね中立的なスタンスが適切だとの意見で一致した。しっかりと具体化され現実的な前提に基づく中期的な財政枠組みが財政の持続可能性を確保したり、政策の不確実性を低減させたり、投資家や消費者の信頼を高めたりする上で役立つだろうと言及した。税制の再分配効果をさらに強化するため、エネルギー消費削減のインセンティブを強化するため、消費税率引き上げの最も脆弱な人々に対する影響を緩和するために、選択肢を検討することが推奨された。また、理事らは、歳出の効率性、年金の持続可能性、世代間の公平性を改善するために、医療と公的社会保障制度を改革する必要性を明示した。

理事らは、リフレーション、生産性、労働力供給、成長を支えることを目的とした構造改革の野心的なアジェンダを歓迎した。とりわけ 2018年の働き方改革を改善する施策、また、女性・高齢者・外国人の労働参加を高める施策など労働市場改革が優先事項だと考えた。理事らは、財部門とサービス部門の規制緩和、企業統治改革の深化、中小企業にとっての代替資金調達の円滑化を進める努力の継続を推奨した。政府当局が気候変動の意識啓発と緩和策・適応策の推進を行っている点を称賛した。

理事らは、日本の2019年の対外ポジションがファンダメンタルズと望ましい政策と概ね整合的な水準にあるというスタッフの暫定的な評価に留意した。理事らは、対外バランスを維持するためには、財政健全化の中期計画に加えて、内需を支えるさらに大胆な構造改革が必要であると言及した。また、理事らは日本政府当局が多国間主義の更なる推進にコミットしていることを称賛した。

理事らは、国境を越えた腐敗について供給サイドの撲滅推進に進歩があったことを歓迎し、海外贈収賄の事例について法執行を改善するための追加措置を推奨した。



日本の主な経済指標( 2017 2021 年)

名目GDP:4兆9,540億米ドル(2018年)

1人あたりGDP:3万9,166米ドル(2018年)

人口:1億2,600万人(2018年)

クォータ:308億SDR(2018年)

2017

2018

2019

2020

2021

推計

予測

(%変化)

成長率・伸び率

実質GDP

2.2

0.3

1.0

0.7

0.5

国内需要

1.6

0.3

1.1

1.0

0.6

民間消費

1.3

0.0

0.5

-0.1

0.6

企業投資

4.0

2.1

1.7

1.0

3.0

住宅投資

1.7

-6.7

2.4

-1.7

0.1

政府支出

0.2

0.9

2.1

2.8

0.4

公共投資

0.5

0.3

2.7

5.5

-6.1

在庫投資

0.1

0.0

0.1

-0.1

0.0

純輸出

0.5

0.0

-0.2

-0.2

-0.2

財・サービスの輸出

6.8

3.4

-1.8

-0.4

2.0

財・サービスの輸入

3.4

3.4

-0.6

0.6

2.8

GDPギャップ

-0.3

-0.7

-0.3

-0.2

-0.3

(年平均)

物価上昇率

消費者物価指数(CPI)総合指数

0.5

1.0

0.6

1.1

1.2

GDPデフレーター

-0.2

-0.1

0.6

1.0

0.5

(対GDP比)

政府

一般政府

歳入

34.2

33.8

34.0

34.6

34.6

歳出

37.3

37.4

37.6

38.0

37.4

財政収支

-3.1

-3.6

-3.6

-3.5

-2.8

基礎的財政収支

-2.7

-3.3

-3.4

-3.5

-2.9

構造的基礎的財政収支

-2.9

-3.1

-3.3

-3.4

-2.8

公的債務(グロス)

234.6

237.9

239.0

239.8

241.1

(%変化、期末)

マクロ金融

ベースマネー

9.7

5.0

6.6

6.1

5.2

ブロードマネー

3.5

2.4

2.8

2.0

2.2

民間部門への信用供与

4.0

1.5

2.9

2.5

2.5

非金融機関債務(対GDP比)

138.5

141.2

142.5

143.4

144.8

(%)

金利

無担保コールレート翌日物(期末)

-0.1

-0.1

CD3か月物金利(年平均)

0.0

0.0

公定歩合(期末)

0.3

0.3

0.3

0.3

0.3

10年物国債利回り(期末)

0.1

0.1

-0.1

0.0

0.1

(10億米ドル)

国際収支

経常収支

202.0

175.3

170.4

180.6

184.8

(対GDP比、%)

4.1

3.5

3.3

3.4

3.4

貿易収支

44.1

11.6

2.5

-4.3

-10.1

(対GDP比、%)

0.9

0.2

0.0

-0.1

-0.2

財輸出(FOB)

688.9

735.9

701.3

681.5

693.5

財輸入(FOB)

644.9

724.3

698.7

685.9

703.6

エネルギー輸入

117.8

148.5

130.7

124.1

117.3

(対GDP比)

対内直接投資(純額)

3.2

2.7

2.8

2.9

2.9

証券投資

-1.0

1.8

1.4

1.2

1.1

(10億米ドル)

外貨準備高の変化

23.6

24.0

11.0

11.5

11.5

外貨準備高(金を除く)

1232.4

1239.4

(年平均)

為替相場

円・ドル

112.2

110.4

円・ユーロ

126.7

130.5

実質実効為替相場(2010年を100とするULCベース)

78.7

77.6

実質実効為替相場(2010年を100とするCPIベース)

75.0

74.4

(%)

人口動態指標

人口増加率

-0.2

-0.2

-0.2

-0.3

-0.4

老年人口指数

46.0

46.9

47.6

48.4

49.0

出所:Haver Analytics、経済開発協力機構(OECD)、日本政府当局、IMF職員の試算と予測。



[1] 国際通貨基金協定第4条の規定に基づき、IMFは加盟国との二者間協議を通常は毎年行う。IMF職員の代表団が協議相手国を訪問し、経済や金融の情報を収集するとともに、その国の経済状況や経済政策について政府当局と協議する。本部に戻った後、代表団のメンバーは理事会での議論の土台となる報告書を作成する。

[2] IMF理事会の議長である専務理事は、議論終了時に結論を理事会の見解として要約し、その要約が当該国の政府当局に提出される。専務理事による総括で使用される修飾語句の定義については次のリンクを参照: http://0-www-imf-org.library.svsu.edu/external/np/sec/misc/qualifiers.htm

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