フィンテック分野の国際協力における次のステップ
2019年6月8日
(開会の挨拶用原稿)
ご来場の皆さま、こんにちは。
デジタル時代における私たちの未来という重要なテーマに焦点をあてる本セミナーに参加する機会を頂戴しましたことを、日本の金融庁の皆さまに御礼申し上げます。
金融イノベーションにおける機会とリスク
本テーマに関する議論を始める上で、福岡市はうってつけの場所ですが、これはなぜでしょうか。福岡市が日本の「スタートアップ都市」だからです。過去3年、どの年についても、会社の立ち上げ数で福岡は日本の他都市をほぼすべて凌いでいました。
そして、ここ日本、そして広くはアジアにおいて、フィンテックの危険と将来性の両方が顕在化しています。
電子的な決済や認証のシステムにおけるイノベーションが最初に主流化したのはアジアです。
しかし、フィンテックの闇の部分を私たちが最初に目にしたのもまたアジアなのです。消費者保護やプライバシーに関する懸念が、何年も前に表面化しています。
世界の他地域と同様にアジアも、今後を決定づける局面を迎えています。イノベーションを阻害せずにフィンテックのリスクに対処するにはどうすれば良いのでしょうか。急速に進むフィンテックのイノベーションに遅れずついていきつつ、消費者や投資家が安心して投資できるようにするにはどうすれば良いのでしょうか。
テクノロジーは常に金融におけるイノベーションの進展を促してきましたし、今後もそれは変わらないでしょう。問題は、こうしたイノベーションから誰もが恩恵を得られるのか、それとも選ばれし少数の人だけが得をするのかという点です。フィンテックを適切に扱えば、金融ツールの利用コストを削減でき、何百万人もの人々がより良い生活を築くという願望をかなえられるようになります。
だからこそ私は、犯罪に濫用されないように保護された、安全かつ健全で、持続可能で、包摂的な金融システムを創ることが私たちに共通の責任だと信じているのです。
バリ・フィンテック・アジェンダ
このように課題は途方もなく大きなものですが、国際通貨基金(IMF)が行える支援はどのようなものでしょうか。昨年IMFと世界銀行は、加盟国からの要請を受けて「バリ・フィンテック・アジェンダ」を策定しました。このアジェンダでは、フィンテック分野で世界各国とその他の国際機関が注力すべき12の優先事項が特定されています。
その後、こうした事項について私たちは加盟国対象のアンケート調査を行い、96か国から回答を得ました。
その調査結果は、IMFと世界銀行の共同ペーパーにて今月発表予定ですが、本日はその中から、予告編とでも言いましょうか、いくつか重要な点をお伝えしたいと思います。
第1に、フィンテックは金融包摂を大きく変える力を持つという見方が国々の間で圧倒的になっています。経済成長を促進する点、コスト低減を通じて貧しい地方社会に門戸を開く点、女性の公式経済参画を推進する点で、包摂が重要な役割を果たすことが国々の間で認識されているのです。
実際、IMFの研究が示すように、いくつかの国で包摂面での男女格差縮小にフィンテックが貢献してきていますが、世界全体にこうした格差の縮小が見られたわけではありません。
この説明のひとつとしては、テクノロジーへのアクセスの格差がありますが、テクノロジーが平等に利用しやすい場合においても、女性のほうがテクノロジー使用度が低いようなのです。例えば、エジプト、エチオピア、インドでは、自分用の電話の所有率は男性が女性よりも20%ポイント高く、バングラデシュでは、男性のモバイルマネー・アカウント保有率が女性よりも22%ポイント高くなっています。
少なくとも一部の国では、女性のデジタルサービス利用が男性よりも少ない傾向にあります。この理由はおそらく社会的規範によるものか、費用負担や金融リテラシーに関する問題です。こうした理由から、どの国においても金融リテラシーの向上が男女の平等参画を推し進める上で大きな役割を果たすと私たちは考えているのです。
第2に、各国はフィンテック分野での一層の国際協力を求めています。
- 自国の最優先課題として、80%近くがサイバーセキュリティを挙げ、
- 約60%がマネーロンダリング防止のための法規制面の枠組整備を挙げ、
- 別の40%が国際的なものを含む決済システムを挙げています。
これらの課題は、IMF職員が参加する国際的議論の様々な場で既に話し合われている点を述べておくべきかと思いますが、より迅速な進展が国々の間で望まれています。
例えば、暗号資産が使われるようになって何年も経ちますが、G20諸国の間でさえも規制をどう進めていくか、合意が形成されていません。
IMFのレビューで議論されている別の課題である市場集中度についても同様です。
金融環境の大きな混乱のひとつは、巨大な顧客基盤と潤沢な資金を利用して、ビッグデータとAI(人工知能)に基づく金融商品を提供することになる大手テクノロジー企業に起因する可能性が高いのです。
こうした進展により、包摂の加速や金融市場の現代化が期待できる一方で、プライバシーの問題に加えて、競争や市場集中度に関する懸念も高まっています。競争と市場集中度のいずれに問題が生じても金融システムの脆弱性につながりかねません。
中国のテクノロジー産業は、恩恵と課題の間の困難な関係性を示す好例です。過去5年間、中国におけるテクノロジーの伸びは絶好調で、何百万人もの人々が新たに金融市場に参加して、金融商品へのアクセスや質の高い雇用の創出という恩恵を享受できました。しかし、同時に、モバイル決済市場の90%超が企業2社によって支配されている状況にもつながっているのです。
こうした点を踏まえると、金融の安定性と効率性に対して、独特かつシステム全体に及ぶ課題が提起されており、この課題について今回のG20で取り上げ、協調的かつ一貫性あるかたちで対処できることを私は期待しています。
終わりに
それでは、結論を申し上げます。ここにお集まりの皆さまも、世界各地の多くの人も、フィンテックについて国際的な対話を継続していくことが極めて重要だと認識しています。これは、一見そう思えるほど容易なことではありません。
フィンテックの潜在力を活かして金融の包摂性を高め、一層の発展を実現しようとするならば、暗号資産、ノンバンクのフィンテック仲介機関、データ・ガバナンスの面で、国ごとに異なるアプローチを調和させることが非常に重要です。その一方で、金融の安定性と健全性を保ち、消費者を保護し、金融リテラシーを向上させていく方法も見つけなくてはなりません。
ここで、日本の有名なことわざに学ぶことができます。「石橋を叩いて渡れ」です。フィンテックの未来に向かって、私たちは一緒に橋を渡っていきます。ただし、渡るのは橋が本当に安全だと確信できてからです。
本セミナーのようなイベントは、このプロセスの一部として不可欠です。主催者の皆さまと日本政府がこの重要なイニシアチブに取り組まれていることを称えます。IMFは皆さま方のパートナーであることを誇らしく思っております。
ご清聴、ありがとうございました。
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