IMF 理事会、2018 年の対日 4 条協議を終了

2018年11月28日

2018 年 11 月 21 日に国際通貨基金(IMF)理事会は対日 4 条協議 [1]を完了させた。

日本経済は潜在成長率を上回るペースで成長を続けている。年初に一時的な減速が見られたものの、内需は第2四半期には回復した。2018年の実質GDP成長率は、外需に支えられ、最近の自然災害にもかかわらずトレンドを上回る1.1%となることが予測されている。エネルギー価格の上昇を受けて、総合インフレ率とコアインフレ率はともにここ数か月で上昇の勢いを見せているが、日本銀行の2%目標を大きく下回る状態に変わりはない。

経常黒字は、所得収支黒字の拡大によって2017年に若干増加したが、財貿易収支と所得収支の黒字が縮小することで、2018年末にかけて減少することが予測されている。2017年末と比較すると、2018年1月から9月にかけて実質実効為替レートはわずかに増価した。予測される2018年の経常収支は2017年の対外部門評価と同様に中期的なファンダメンタルズ及び望ましい政策と概ね整合的な水準にあると暫定的に評価されている。

2019年10月に消費税率引き上げが予定されているものの、経済成長の基調は堅調を維持すると見込まれている。しかしながら、財政面での影響緩和策がなければ、消費税率引き上げは民間消費や民間投資の急な変動につながりかねない。一方で、金融政策は引き続き緩和的であることが見込まれ、良好な金融環境を下支えするだろう。中期的には成長のペースは緩やかになり、需給ギャップは縮小すると予測されている。物価上昇率は、消費税率引き上げに伴って2020年に大きく増加した後、中期的に上昇基調で推移するものの、日銀の目標を下回る水準にとどまるものと見込まれる。

理事会による評価 [2]

理事会はスタッフの評価の要点に概ね同意した。理事会は、とりわけ一人当たりでみると日本経済の成長率が顕著なパフォーマンスを遂げてきたこと、短期的には引き続き潜在成長率を上回る成長が見込まれることを歓迎した。その一方で、理事会は、物価上昇率が引き続き目標を下回っていること、また、特に予定されている消費税率引き上げと世界経済の環境の悪化にともなうもの等、成長の下振れリスクが増加していることに留意した。更に、人口動態による強まる逆風は引き続き課題を提起している。理事会は、持続的な高成長、耐久性のあるリフレーション及び公的債務の持続性確保を実現するため、アベノミクスの政策を更に強化する必要があることを強調した。

殆どの理事は、短期的な成長とリフレーションを支えるために中立的な財政スタンスを維持することの重要性を強調した。また、当局が予定される消費税率引き上げによる負の影響を緩和するために臨時の施策を実施し、明確な対外コミュニケーションを行う予定であることを理事会は歓迎した。中期的には、政策の不確実性を減らし、債務持続性を確保するための漸進的な健全化の道筋を定め、人口動態による課題に対処するため、現実的な見通しに依拠した、しっかりと具体化された財政枠組みを策定することに理事会は利点があると考えた。独立財政機関はこの点で有用かもしれないが、数名の理事はこうした目的は既存の組織枠組みで実現しうると考えた。

理事会は、潜在成長率を引き上げることを目的とした当局の野心的な構造改革のアジェンダを歓迎した。理事会は相互に支えあう改革に向けた政府の強いコミットメントが重要であり、女性、高齢者、外国人労働者を含む労働供給増加のために労働市場改革が優先課題であると強調した。理事会は、常勤や正規雇用で就労する意欲を損なうような税制・社会保障制度上の障害の撤廃、男女間賃金格差の縮小、保育施設や介護施設の利用可能性拡大に向けた更なる努力を提言した。理事会はまた、当局に対して製品・サービス市場の更なる規制緩和、企業の参入・撤退の円滑化、中小企業の振興、コーポレート・ガバナンス改革の深化も促した。

理事会は、金融政策は、経済のリフレを成功させるために、引き続き、場合によっては当分の間、緩和的であるべきだが、一方で副作用を注意深く監視し軽減するべきであるという意見で一致した。理事会はまた、効果的なコミュニケーションとフォワードガイダンスが市場のボラティリティを抑え、インフレ期待を導く上で有用であると強調した。

理事会は、とりわけ人口動態による圧力と低金利にともなう、金融部門が直面する課題を認識した。理事会は、新しいよりフォワードルッキングな監督枠組みをはじめとして、2017年金融セクター評価プログラムの勧告実施における進展を歓迎した。理事会は、リスク管理、金融監督及びマクロプルーデンス枠組みの強化の重要性を強調した。人口動態にあわせて事業モデルを転換することを支援するため、当局が地域金融機関に密接に関与していることを理事会は歓迎した。理事会は、金融機関のフィンテック活用に向けた支援とクリプト・アセットの監視強化も優先課題であると考えた。

理事会は、日本の2018年の対外ポジションと実質為替レートがファンダメンタルズ及び望ましい政策と概ね整合的な水準になると予測されるというスタッフの評価に留意した。理事会は、中期的に対外バランスを維持するためには、信頼に足る財政健全化計画とより大胆な構造改革が必要であるとの意見で一致した。理事会はまた、多国間主義の推進が貿易をめぐる緊張関係の悪化による国内への波及効果の緩和に役立つだろうと言及し、日本のこの分野におけるリーダーシップに感謝した。

理事会は、当局が対日4条協議において、腐敗の供給サイドへの対応に向けた取り組みを評価するIMFのイニシアチブに自発的に参加したことを称賛した。理事会は海外贈賄法制の施行における継続的な進展を期待した。

表 日本の主な経済指標(2012 ~ 2019年)

名目GDP: 4兆8,730億ドル (2017年)

1人当たりのGDP: 3万8,444米ドル (2017年)

人口: 1億2,700万人 (2017年)

クォータ: 308 億SDR (2017年)

2012年

2013年

2014年

2015年

2016年

2017年

2018年

2019年

予測

(%変化)

成長率(注1)

実質GDP

1.5

2.0

0.4

1.4

1.0

1.7

1.1

0.9

国内需要

2.3

2.4

0.4

1.0

0.4

1.2

0.9

1.1

民間消費

2.0

2.4

-0.9

0.0

0.1

1.0

0.6

0.8

企業投資

4.1

3.7

5.4

3.4

0.6

2.9

4.7

3.4

住宅投資

2.5

8.0

-4.3

-1.0

5.7

2.7

-6.7

0.9

政府支出

1.7

1.5

0.5

1.5

1.3

0.4

0.5

1.1

公共投資

2.7

6.7

0.7

-1.7

-0.1

1.2

-1.8

-5.9

在庫投資(注2)

0.0

-0.4

0.1

0.3

-0.2

-0.1

0.1

0.0

純輸出(注2)

-0.8

-0.4

0.0

0.3

0.6

0.5

0.1

0.0

財・サービスの輸出(注3)

-0.1

0.8

9.3

2.9

1.7

6.7

3.9

2.1

財・サービスの輸入(注3)

5.4

3.3

8.3

0.8

-1.6

3.4

3.2

2.3

GDPギャップ

-3.7

-2.2

-2.6

-2.0

-1.8

-0.7

-0.3

0.1

(年平均)

物価上昇率

CPI (注4)

-0.1

0.3

2.8

0.8

-0.1

0.5

1.2

1.3

CPI(VATを除く)

-0.1

0.3

1.2

0.3

-0.1

0.5

1.2

1.1

コアコアCPI(VATを除く)(注5)

-0.4

-0.2

0.7

0.9

0.6

0.1

GDPデフレーター

-0.8

-0.3

1.7

2.1

0.3

-0.2

0.8

1.5

失業率

4.3

4.0

3.6

3.4

3.1

2.9

2.9

2.9

(対GDP比)

政府

一般政府

歳入

30.8

31.6

33.3

34.2

34.1

33.2

33.2

33.3

歳出

39.4

39.5

38.9

38.0

37.8

37.5

36.9

36.0

財政収支

-8.6

-7.9

-5.6

-3.8

-3.7

-4.3

-3.7

-2.8

基礎的財政収支

-7.5

-7.0

-4.9

-3.2

-2.9

-3.8

-3.3

-2.6

構造的基礎的財政収支

-6.3

-6.4

-4.6

-3.6

-3.4

-3.7

-3.3

-2.6

公的債務(グロス)

229.0

232.5

236.1

231.3

235.6

237.6

238.2

236.6

(%変化、期末)

マクロ金融

ベースマネー

10.7

45.8

36.7

29.1

22.8

9.7

10.6

9.3

ブロードマネー

2.2

3.5

2.9

3.0

3.9

3.5

3.6

3.1

民間部門への信用供与

2.2

4.1

2.0

1.9

2.4

4.4

3.5

3.0

非金融機関債務(対GDP比)

143.1

142.0

143.0

137.9

136.9

139.7

146.7

147.0

家計債務(可処分所得比)

98.3

100.2

100.8

100.5

100.8

101.7

101.1

101.0

(%)

金利

無担保コールレート翌日物 (期末)

0.1

0.1

0.1

0.0

-0.1

-0.1

CD3か月物金利(年平均)

0.3

0.2

0.2

0.2

0.1

0.0

公定歩合(期末)

0.3

0.3

0.3

0.3

0.3

0.3

0.3

0.3

10年物国債利回り(期末)

0.9

0.7

0.6

0.4

0.0

0.1

0.1

0.2

(10億米ドル)

国際収支

経常収支

59.7

45.9

36.8

136.4

194.9

196.1

183.7

196.2

対GDP比

1.0

0.9

0.8

3.1

3.9

4.0

3.6

3.8

貿易収支

-53.9

-90.0

-99.9

-7.4

51.4

44.5

34.7

43.0

対GDP比

-0.9

-1.7

-2.1

-0.2

1.0

0.9

0.7

0.8

財輸出(FOB)

776.0

695.0

699.7

622.1

636.3

689.2

750.0

766.6

財輸入(FOB)

829.9

784.9

799.7

629.5

585.0

644.8

715.3

723.7

エネルギー輸入

272.2

257.4

241.8

133.8

94.9

117.8

153.5

150.9

(対GDP比)

FDI(ネット)

1.9

2.8

2.4

3.0

2.7

3.1

2.6

2.8

証券投資

0.5

-5.4

-0.9

3.0

5.6

-1.1

-0.9

-0.8

(10億米ドル)

外貨準備高の変化

-37.9

38.7

8.5

5.1

-5.7

23.6

10.5

11.0

外貨準備高(金を除く)

1227.2

1237.3

1231.0

1207.1

1188.4

1232.4

(年平均)

為替相場

円・ドル

79.8

97.6

105.9

121.0

108.8

112.2

109.8

109.3

円・ユーロ

102.6

129.6

140.8

134.3

120.4

126.7

130.3

127.9

実質実効為替相場(2010年を100とするULCベース)

106.5

86.3

78.2

75.3

85.1

78.3

実質実効為替相場(2010年を100とするCPIベース)

100.6

80.4

75.2

70.2

79.6

75.6

(%)

人口動態指標

人口増加率

-0.2

-0.2

-0.2

-0.1

0.0

-0.2

-0.2

-0.3

老年人口指数

37.8

39.8

41.8

43.5

44.8

46.0

46.9

47.8

出所: IMF、 Competitiveness Indicators System、OECD、2018年10月の「世界経済見通し(WEO)」時点でのIMF職員による試算と予測

(注1) 年成長率と寄与度は季節調整済みデータから算出

(注2) GDP成長率寄与度

(注3) 2014年に関しては、国際収支統計作成方法に変更があり(BPM6へ移行)、時系列的に断絶があるために、輸出と輸入の成長率は高くなっている

(注4) 2014年、2015年、2019年については消費税率の引き上げの影響を含む

(注5) 日本銀行の生鮮食品とエネルギーを除いた基調インフレ率

                                                                                                                                                                                                                                                                                            


[1] 国際通貨基金協定第 4 条の規定に基づき、IMF は加盟国との二者間協議を通常は毎年行う。IMF 代表 団が協議相手国を訪問し、経済や金融の情報を収集するとともに、その国の経済状況や政策について 政府当局者等と協議する。本部に戻った後、代表団のメンバーは理事会での議論の土台となる報告書 を作成する。

[2] IMF 理事会の議長である専務理事は、議論終了時に結論を理事会の見解として要約し、その要約が各 国の政府当局に提出される。専務理事による総括で使用される修飾語句の定義については以下リンク を参照。 http://0-www-imf-org.library.svsu.edu/external/np/sec/misc/qualifiers.htm

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