IMF サーベイ・マガジン : よろめく世界経済-余りにも長期にわたる余りにも緩慢な成長
2016年4月12日
- 今年の世界経済の成長率は、3.2%、2017年には3.5%に改善する見込み
- 顕著な金融リスク、これに地政学的ショックと政治的不和が重なる
- 構造、財政、金融措置という3本柱のアプローチが必要
国際通貨基金(IMF)は、最新の「世界経済見通し(WEO)」で、世界経済の成長は続いているが、そのペースは緩慢で世界経済は様々なリスクに一段とさらされていると述べた。
世界経済見通し
WEOは、2016年、2017年の世界経済の成長率2016年1月の改訂見通しからそれぞれ0.2%、0.1%下方修正し、3.2%、3.5%と予測している。(表)
先のスピーチで、IMFのクリスティーヌ・ラガルド専務理事は、回復は余りにも緩慢かつ脆弱で、長引く低成長が、多くの国の社会構造・政治構造に大きなダメージをもたらすリスクをはらんでいると警告した。
モーリス・オブストフェルド経済顧問兼調査局長は、「低成長は、間違える余地が少ないことを意味する」と述べた。 「緩慢な成長の長期化は、長期間残る傷跡を残す。これにより潜在GDPが低下し、さらにこの結果、需要と投資が減少する可能性がある」
同氏は、この見通しの低下は、積極的な対応が早急に必要であることを示していると続けた。さらに、オブストフェルド氏は、世界経済の成長を支えるためには、より強力な政策ミックス、すなわち構造、財政、金融の各政策からなる3本柱の政策アプローチが必要だと強調した。
「各国の政策担当者が、直面している共通のリスクを明確に認識しその準備に向け協働するならば、世界の信認へのプラスの効果は相当大きくなる可能性がある」
先進国・地域の控えめな回復
WEOによると、先進国・地域の成長は約2%と引き続き控えめになると予測される。人口動態の不利なトレンドや生産性の低い伸び、危機の遺産が依然として残っていることも理由に需要が押さえつけられており、こうした弱い需要により回復が阻まれている。
米国の今年の経済成長率は去年と変わらず2.4%、その後2017年に僅かながらも上昇するだろう。バランスシートが強化され、フィスカルドラッグ(財政障害)もこれ以上は起こらず、住宅市場が改善することにより、内需は支えられるだろう。こうした要因は、ドルの上昇と製造の弱まりによる純輸出にかかる障害を相殺すると考えられる。
ユーロ圏では、低投資、高失業率、及び弱いバランスシートが成長の重石となり、今年の成長率は1.5%、翌年は1.6%と引き続き控えめとなるだろう。
日本では、特に民需の急激な落ち込みを反映し成長もインフレも見込みより弱くなっている。2016年の成長率は0.5%にとどまり、その後2017年には、予定されている消費税率の引き上げが行われるなか、マイナス0.1%と僅かにマイナス成長となる見込みである。
一段と減速する新興市場及び途上国・地域
2016年の世界経済の成長の大半を、引き続き新興市場及び途上国・地域の成長が占めるが、その一方で、これらの国々の見通しにはばらつきがあり、これまで20年間と比べると総じて弱い。
WEOは、今年の成長率は4.1%と2015年から僅かに上昇するにとどまり、その後来年は4.6%になると予測している。
この予測は様々な要因を反映している。
• 原油輸出国・地域の原油価格の下落にともなう成長の減速、ラテンアメリカを含む原油以外の一次産品輸出国・地域の依然弱い見通し。
• 製造と投資からサービスと消費へと成長シフトが続く、中国の若干の減速。
• 深刻な景気後退局面にあるブラジルとロシア。一部のラテンアメリカ諸国及び中東の国々の(特に原油価格の下落と紛争の激化や安全に関するリスクの上昇で大きな打撃を受けた国々)弱い成長。
• 不利な世界環境による多くのアフリカ諸国・低所得国の成長見通しの低下。
プラスの面を見ると、インドは引き続き輝ける場所となっている。成長は力強く実質所得も上昇している。インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、及びベトナムからなるASEAN-5 のパフォーマンスも良好である。また、メキシコ、中米、カリブ諸国は、米国の回復、そして大半のケースで原油価格安の恩恵を受けている。
上昇するリスク
弱い成長という現下の環境において、見通しにかかるリスクは一段と顕著になっている。リスクは以下を含む。
• 金融の混乱が再燃し信認を毀損する。たとえば、新興市場国・地域で通貨安が一段と進めば、企業のバランスシートがさらに悪化し、資本流入の急減が内需の急速な圧縮を強いるかもしれない。
• 原油価格安の長期化が、原油輸出国の見通しを一段と不安定化させるかもしれない。
• 中国が現見通しより急速に減速した場合、貿易、一次産品価格、そして信認を通し国際的に大きな波及的影響をもたらし、世界経済の減速が一段と広がりかねない。
• 地政学的紛争、政治的不和、テロ、難民の流入、あるいは世界的な伝染病などに関連した経済以外を理由とするショックが、一部の国や地域にのしかかっている。これに対応しなければ、世界の経済活動に大きな波及的影響を及ぼすかもしれない。
上振れリスクとしては、最近の原油価格の下落が、消費者が価格がより長期にわたりより低くとどまると認識する可能性などから、原油輸入国の需要を現在想定している以上に力強く押しあげるかもしれない。
成長の促進が引き続き最優先事項
需要と供給の可能性を高めるより積極的な政策措置が、短期・長期的に一段と力強い成長を促すかもしれない。
WEOは、相互補強的な(1)構造改革、(2)財政支援-成長を促す歳入と支出内容、そして必要に応じ余力を備えている国や地域では財政刺激、(3)金融政策措置、といった3本柱からなるアプローチを強調している。
構造改革を一段と進める余地も必要性も大いにある。WEOの分析によると、先進国・地域の労働市場・製品市場の改革が、中期的~長期的に成長見通しを力強く押し上げることができる。改革の慎重な優先付け・順位付けも、その短期的効果を促進するために不可欠である。
労働にかかる非効率な税の削減や研究開発や労働市場の活性化のための政策(職業訓練プログラムなど失業者の就職をささえるための改革)へ公共支出を増やすなど、財政刺激を伴う改革が現局面で最も有意だろう。製品市場の改革(企業間競争の強化や、起業を容易にする、或いは投資をひきつけるなど)も、強力に推進すべきである。というのは、こうした措置が、マクロ経済環境が弱くても、財政に負担をかけることなく生産を押し上げるからである。可能なところでは、失業給付の縮小や雇用保護の緩和は、脆弱層へのその短期的なコストを相殺する他の政策を伴うべきだ。
多くの先進国・地域では、経済活動を支えインフレ予想を引き上げるために、緩和的金融政策が引き続き不可欠である。多くの新興市場国・地域では、金融政策で、通貨下落のインフレ及び民間部門のバランスシートへの影響に対応しなければならない。可能なところでは、為替相場の柔軟性も、交易条件ショックの緩和のために利用すべきだろう。
最後に、金融、財政、構造の各政策が最大限に効果を発揮できるような環境を作り出すにためには、金融部門の更なる強化が不可欠である。
WEOは、下振れリスクが現実になる場合に備え危機管理計画及び共同措置を策定する必要があると警告している。また、国際金融セーフティネット及び国際的な規制制度の強化での協力は、強靭な国際通貨金融制度の中核をなす。