アジア太平洋地域セミナー

より公平な回復を目指し財政対応を工夫する
最新の財政モニター 『公平な機会』より発表

いかにして各国政府の財政政策を適応させ、パンデミックに先んじた対応を取るとともに、よりグリーンで公平かつ持続的な回復への準備を整えるべきか。IMFアジア太平洋地域事務所では、2021年4月号の財政モニターをもとに、コロナへの財政対応に関するオンライン・セミナーを開催しました。IMF財政局から財政モニターの執筆者を招き、各国政府の財政対応がパンデミックを封じ込みかつ力強い回復を可能とするため、どのような工夫が各国の実情に応じて必要とされるかについて発表しました。さらに、財政政策はどのように格差問題、とりわけ基本的な公共サービスへのアクセスに係る問題に取り組むことができるかについて議論しました。

議題 2021615
11:00-11:05 am 冒頭挨拶 
11:05-11:25 am  発表1:  財政モニター第1章『財政対応を工夫する』
講演者:
ラファエル・ラム  シニアエコノミスト
講演資料
11:25-11:45 am 発表2: 財政モニター第2章『公平な機会』
講演者:
デビッド・アマグロベリ 課長補佐
ジャン-マルク・フルニエ エコノミスト
講演資料
11:45-12:10 pm 質疑応答
12:10-12:15 pm  閉会及びアンケート

講演者略歴:

  • David Amaglobeliデビッド・アマグロベリDavid Amaglobeli)は、IMF財政局の課長補佐。以前は、財政局の補佐官を務めた。集中的なサベーランスや、ウクライナ等の危機国へのIMF支援プログラムの設計・レビューに取り組む。 2009年11月にIMFに着任する以前は、出生地のジョージアで、ジョージア国立銀行の総裁代理や財務副大臣等の役職を歴任。債権者のパリクラブとの債務再編協定を交渉や、インフレターゲット制度の導入を行う。
  • Jean-Marc Fournierジャン-マルク・フルニエJean-Marc Fournier)は、IMF財政局のエコノミスト。以前は、OECD経済総局、INSEEの予測局、ENSAEの非常勤教授として勤務。財政政策、所得不平等、EU単一市場、財政、コロナ危機などの様々なトピックに取り組む。マクロ経済学、世界金融危機、所得不平等、計量経済学に関する著書を出版。エコール・ポリテクニーク、ENSAE、EHESSを卒業。
  • Raphael Lamラファエル・ラム(Raphael Lam)は、IMF財政局のシニアエコノミスト。以前は、アジア太平洋局で中国と日本の担当や、世界金融危機の際にはアイスランドへのIMFの貸付プログラムに参加する。財政・金融セクターの問題に対する研究も行う。カリフォルニア大学で経済学博士号を取得。

「財政モニター」2021年4月号の要約:公平な機会

第1章 財政対応を工夫する
この章では各国の財政対応を概観し、いかにして各国政府の政策を適応させ、パンデミックに先んじた対応を取るとともに、脆弱な家計や存続できる企業を保護し、よりグリーンで公平かつ持続的な回復への準備を整えるべきかについて議論している。全ての国に対し、手の届く価格でワクチンが生産・分配されるよう、グローバルな協力を強化しなければならない。パンデミックが世界的に制御できるようになるまでの間、財政政策は柔軟な姿勢と支援を継続するとともに、各国の実情への適合度を高めなければならない。債務残高の増加に伴うリスクと時期尚早な財政支援の打ち切りから生じるリスクとの間にバランスをもたらすため、政策当局は信頼性のある中期的な財政枠組みを策定することが必要である。財政政策ルールの改善や将来の税制改革の事前承認により、こうした努力を支えることも可能である。財政政策はまた、ポスト・コロナの世界において、経済のグリーン化やデジタル化、インクルーシブな経済への移行を可能とするものとなるべきである。

第2章 公平な機会
この章では、格差問題、とりわけ基本的な公共サービスへのアクセスに対する財政政策の対応について議論している。危機以前から存在した格差は、新型コロナウイルスの影響を増大させた一方、危機によってこうした格差は一層深刻化した。格差の連鎖を断ち切るためには、所得再分配の前後の双方にわたる包括的なアプローチが必要である。教育や医療・保健、早期の幼児教育、社会的なセーフティネットの強化は、基本的なサービスへのアクセス、ひいては生涯にわたる機会の改善に対して強力な効果を及ぼすことが可能である。こうした政策に必要な資金は、税の累進性や全体的な課税能力の強化により調達することが可能である。課税の強化を通じた基礎的なサービスへのアクセスの改善に対する人々の支持が高まってきたこと、また、パンデミックを機に更に高まると考えられることを踏まえ、各国政府は中期的な財政枠組みに組み込まれた包括的な政策パッケージを公表し、全ての人々に公平な機会を与えるとともに、政府に対する信頼を強化することが必要である。そのような改革により、インクルーシブな成長の促進と信頼の強化、社会の結束の構築が可能となる。