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進む回復の二極化 求められる緊急の行動

国際通貨基金 専務理事 クリスタリナ・ゲオルギエバ

今週、イタリア・ベネチアでG20財務大臣・中央銀行総裁会議が開催されますが、出席者はこの街が持つ不屈の精神から学ぶことができるでしょう。

世界最初の国際金融センターであったベネチアは、何世紀にもわたり予測のつかない変動に直面してきました。そして、現在では気候変動の影響を真正面から受けています。政策担当者が未曾有の難題に直面する中で、こうした類まれな強靭性がこれまで以上に必要となっています。

幸い、世界経済は今年の成長率を6%とする国際通貨基金(IMF)の4月の予測に概ね沿う形で回復が進んでいます。他に類を見ない危機を経た後で、一部の国では他に類を見ない回復が見られつつあります。財政および金融政策による強力な支援と、迅速なワクチン接種との組み合わせがその原動力となっています。

例えば、米国では今年の成長率が1984年以来最高となる7%に達すると私たちは予測しています。中国やユーロ圏、その他少数の先進国・新興市場国でも、同様に回復の勢いが高まりつつあります。

しかし、集まってくるデータからは経済的な運命の分岐が進んでいることも確認でき、多くの国がますます後れをとる結果になっています。

世界は、ワクチン普及度や感染率、そして政策支援の実施能力における劇的な格差を要因とする、回復二極化の深刻化 に直面しています。重大な局面を迎えており、G20と世界中の政策当局による緊急の行動 が必要となっています。

私たちがG20会合に提出した見解書で指摘しているとおり、スピードが最も重要です。高リスクの人々に対するワクチン接種が早まれば、今後半年間だけで 50万人以上の命を救える可能性があると私たちは試算しています。

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分岐の危険

ワクチン接種率の低さは、貧しい国ほどウイルスとその変異株のリスクにさらされていることを意味しています。G20諸国を含め世界各地でデルタ株に対する懸念が高まっていますが、現在、デルタ株によって サブサハラアフリカ で感染が急拡大しています。先進国では平均で成人の30%以上がワクチン接種を完了しているのに対し、サブサハラアフリカではその割合が1%未満にとどまっています。ワクチン接種を受けていない人々は居住地がどこであっても致死率が一層高い変異株の出現リスクを高めます。そして、あらゆる場所における前進を阻害し、世界経済にさらなる危害を与えることになります。

財政資源が減少すれば、貧しい国々がワクチン接種を加速し経済を支えることはますます困難となるでしょう。そうなれば、何百万人もの人々が無防備に放置され、貧困の増大や住居の喪失、飢えの危険にさらされることになります。今般の危機によってすでに食料不安が高まっており、現在、多くの国でさらなる食料価格インフレの進行に対する懸念が募りつつあります。

世界は、特に米国で最近の物価上昇率が高まりを見せている点にも目を光らせています。米国で復興が加速すれば、貿易の拡大を通じて多くの国に恩恵がもたらされることがわかっており、インフレ期待は今のところ安定的に推移しています。しかしながら、物価上昇率やインフレ期待がより持続的に高まるリスクがあり、そうなれば米国の金融政策を予想以上に早く引き締める必要性が生じるかもしれません。他の国々も、一次産品価格や食料価格の上昇によって同様の課題に直面しています。

米国における金利上昇は、国際金融環境の急激なタイト化や、新興市場国・発展途上国からの大規模な資本流出 につながる恐れがあります。それは、特に対外資金調達ニーズが大きい国や債務水準が高い国にとって、重大な課題を突きつけることになるでしょう。

繰り返し述べますが、今は世界にとって重大な局面なのです。この深刻化する回復の二極化に対処しようとするのであれば、今まさに緊急の政策行動をとる必要があります。

第一に、パンデミックに終止符を打つための国際協調を強化しなければなりません。

それによる経済的利益は非常に大きなものとなると考えられ、また、今後数か月間のうちに数十万人の命を救える可能性があるというのは道徳上の義務でもあります。そのコストは比較的小さいものです。

IMF職員は最近、より早期のワクチン普及と回復の加速によって何兆ドルもの利益を生む可能性がある500億ドルの計画の概要を提示しました。これは、私たちの命に対する最善の公共投資となり、 世界の流れを大きく変えることになるでしょう。

この計画に示された行動の実施を加速するために、IMFと世界銀行、世界保健機関(WHO)、世界貿易機関(WTO)は「 作戦指令室 」を立ち上げました。先週、世界銀行の主催でその第1回会合が開催され、発展途上国に対する重要な医療ツールの供給を把握、調整、前進させる上で貢献し、また、主たる障害を取り除くべく政策担当者からの協力を取り付けるために手を携えることで意見が一致しました。

G20諸国をはじめとする国々からの支援ですが、2021年末までにすべての国で人口の40%以上に、2022年前半までに同60%以上にワクチンを接種するという目標に賛同することで、大きな変化を生み出せます。

こうした目標を達成するための重要な行動としては、発展途上国に対するワクチン分配を強化すること、ワクチン生産の増強・分散化や国内輸送、診断法、治療法の補強に向けた無償資金と譲許的融資を支援すること、ワクチンの原材料と最終製品の輸出に係るあらゆる障壁やサプライチェーン取引に係るその他の障壁を撤廃することなどが考えられます。

サブサハラアフリカにおける感染拡大のような状況変化に迅速に適応することも非常に重要です。サブサハラアフリカなど影響を受けている地域の発展途上国に対して、酸素や検査用品、個人防護具、治療薬等の緊急パッケージを速やかに供給することも命を守る上で鍵となります。

第二に、回復を確実にするための取り組みを強化すべきです。

G20諸国が率先する形で世界は約16兆ドルに上る財政措置を含め、異例の措置を一斉に講じました。今こそ、そうした取り組みを土台として、各国のパンデミック・リスクと政策余地に応じた対策を講じるべきです。

感染が急拡大している国では、医療と脆弱な世帯・企業 が引き続き支援を受けられることが重要です。そのためには、信頼性のある中期的枠組みの範囲内で、対象を絞った財政措置が必要となります。

医療指標の改善に伴って経済活動の正常化が可能となった際には、各国政府は支援プログラムを徐々に縮小させるとともに、労働者に対する影響を緩和するために社会支出や訓練プログラムを拡大する必要があります。それは、若者や女性、低技能労働者に特に大きな打撃を与えているコロナ禍の傷跡を癒すことにつながるでしょう。

回復を確実なものとするには、大半の国で金融緩和を継続することも必要となります。その場合、同時に物価上昇率と金融安定性リスクを注意深く監視しなければなりません。米国など回復が加速している国では、物価上昇率の一時的な高まりに対して 過剰反応しないことが非常に重要となります。

インフレ期待がしっかりと安定している 状態を維持するために、主要中央銀行は自らの政策意図について慎重なコミュニケーションを行う必要があります。それは、国内外で金融市場の過度なボラティリティを防ぐ上でも役に立つでしょう。重要なのは、今年これまでに見られた種類の波及効果を阻止することです。

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第三に、脆弱国への支援を強化すべきです。

貧しい国々は破壊的な二重の打撃 に見舞われています。ひとつには、ウイルスとの競争に負ける恐れがありますし、また、グリーンでデジタルな基礎の上に新たなグローバル経済が構築されようとする中、この歴史的転換に参加する機会を逃しかねない状況に置かれています。

私たちは、低所得国 ではパンデミックに対応するだけでも今後5年間で2,000億ドル近い資金が必要になると推定しています。そして、所得水準を高める上での遅れを取り戻せるよう、抜本的改革のための財政余地を得るにはさらに2,500億ドルが必要となります。低所得国は自力ではその一部しか捻出できません。したがって、豊かな国々がとりわけ譲許的融資や債務問題への対応に関して取り組みを強化することが不可欠となります。

G20の債務支払猶予イニシアティブによって、財政に一時的なゆとりがもたらされています。しかし、恒久的な債務救済を提供する必要性に鑑みて、新しい 共通枠組み を完全に運用可能なものにする必要があります。例えばチャドは、G20構成国である二国間債権国から資金調達の保証を得ており、今度は民間債権者から同等の条件で迅速に約束を取り付けることが求められています。

私たちは、エチオピアが要請している債務処理の実施を可能にすべく債権者委員会を迅速に立ち上げることも強く奨励しています。共通枠組みの最初の事例が成功することは、持続不可能な債務負担や持続的な資金調達ニーズを抱える他の国々にとって非常に重要です。 こうした国々は、債務の再編や返済期限延長に向けて早期の行動を模索することも必要となります。

IMF の役割

IMFとしては、85か国を対象とした総額1,140億ドルの新規融資や、最も貧しい加盟国に対する債務救済を通じて、前例のない形で対応を強化してきました。IMFは融資限度額を引き上げるための支援を受けており、ゼロ金利での融資を行う能力を強化できています。さらに、緊急融資制度の下で 新たな「ワクチン枠」を設けられないか 模索しています。これは、必要となった場合に各国のワクチン接種プログラムに資金を提供するものです。

IMF加盟国は、IMF史上最大の配分となる6,500億ドル相当の特別引出権(SDR の新規配分も支持しています。これによって準備資産が補充されるとともに、最も脆弱な国をはじめとする全加盟国がワクチンを含む緊急ニーズに対処する上での支援を提供できることになります。この提案については先般IMF理事会で議論され、8月末までには配分プロセスが完了する見込みです。

さらに、私たちはSDR新規配分の効果を増強するためにも取り組んでいます。具体的には、最も脆弱な国々を対象とした世界合計1,000億ドルという意欲的な目標を達成できるように、予算融資と合わせて自主的にSDRの一部を振り向けることを奨励しています。それを実現する方法については、貧困削減・成長トラスト(PRGT)の活用や、新規の 強靭性・持続可能性トラスト(RST の可能性も含めて、加盟国と検討を行っています。

今週のG20会合は、RSTを新規設置する計画を前進させる 機会となります。RSTは低所得国の他にパンデミックによって破壊的な被害を受けた貧しく脆弱な中所得国を支援するものです。RSTはこうした国々が気候関連課題への対処を含む構造転換を進めるのを後押しすることになるでしょう。

気候変動に関する行動をさらに強化するために、IMF職員は最近、炭素価格の国際的な下限についての提案を行いました。このような下限は、今後10年間に低炭素成長への移行を加速させる上で役に立つと考えられ、私たちは今週のG20ベネチア気候会議でその導入を強く提唱する所存です。

税制に関しては、OECD/G20の「包摂的枠組み」の文脈でなされた130 か国による歴史的合意 を心から歓迎します。この合意の下で、最低法人税率が設定され、高収益企業があらゆる場所で応分の税を確実に負担することになります。IMFが行った 研究 からは、最低課税制度があることで各国が自国の法人課税ベースを維持し歳入を確保しやすくなることがわかっています。これは現在、かつてないほど重要となっています。

数十年にわたる租税競争によって底辺への競争に拍車がかかり、多くの国では医療や教育、インフラ、社会政策への不可欠な投資に必要な財源が不足しています。コロナ禍において財政政策はさらに厳しい状況に置かれており、グリーンかつデジタルな転換への投資は一層難しくなっています。ですので、21世紀にふさわしい、より公正で効果的な国際税制を構築するために、この重要な機会を活かしましょう。

将来世代が今この時代を振り返った時に、私たちのパートナーシップの中にベネチアの不屈の精神を見出してくれることを私は願っています。私たちは、断固とした行動をとり、一致団結して動くことで、パンデミックを終わらせ、現下の二極化する回復を足並みの揃った持続可能な成長へと変えることができるのです。

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