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現地通貨建て債券市場 安全性と安定性のある資金調達

トビアス・エイドリアン   ソルドゥル・ヨーナソン   アイハン・コーゼ アンダーソン・シルバ 著

教員給与、病院の新しい機材、社会扶助の各種制度、その他の公的支出は、どれも政府が資金を供給できるかに大きく左右される。新興市場国や発展途上国の場合に顕著だが、政府はこうした目的や他の製品・サービスのために資金を必要としており、多くの場合、国債を購入しようとしている投資家と接触することになる債券市場に目を向ける。

しかし、国際債券市場を通じて外貨での借り入れを行うと、こうした国々は変動の激しい為替相場のリスクにさらされることになる。為替変動リスクを避けるために、多くの国々が現地通貨建ての国債市場の発展に向けて多額の投資を行ってきた。

こうした債券市場には様々な利点が存在しうる。例えば、経済成長、また、貯蓄の生産的な利用と配分を支えるための強固な金融システムの土台となることができる。また、インフレを招かずに財政赤字を埋める資金源を持つ上で一助となりうる。さらには、経済的な困難の中で減税を促進したり、その他の景気変動抑制的な財政政策の活用を支えたりすることができる。そして、外国資本フローの突然の動きに対する経済の耐性を高めることにも貢献しうる。

くわえて、現地通貨建ての債券市場は金融政策の実効性を促進し、政策担当者にとって貴重な情報源にもなる。リスクフリーのベンチマーク金利を提示することで国内金融市場発展の基盤にもなる。債券市場が発展すると、さらに安定度が高くリスクが小さい資金調達源をさらに活用できることになる。これは債務の持続可能性を高める重要な要素だ。

IMF

ひとつずつ市場を発展させる

近年、多くの新興市場国と発展途上国で現地通貨建ての債券市場が発展してきている。ただし、これらの市場をさらに深化できる可能性がまだ存在している。残念なことに、国ごとに必要なものが異なるため、現地通貨建ての債券市場を発展させる上で適用できる明確に定義された方法論はないが、共通の原則は存在する。

国内債券市場を設立し発展させるプロセスは長く複雑なものであり、相互に依存する複数の政策措置を必要とする。その過程で、マクロ経済や金融安定性の面での利益とリスクに対処する必要がある。

こうした状況の中、新しく発表された「現地通貨建ての債券市場を発展させるためのガイダンスノート(Guidance Note for Developing Local Currency Bond Markets)」は包括的、体系的、実践的な解決策を提示することで上記の政策課題に対処している。このガイダンスノートはIMFと世界銀行の職員が共同で策定したもので、金融システムの様々な要素を強化しようとする協働的なパートナーシップである「金融セクター改革強化イニシアティブ(FIRST」の支援を受けている。

これは新興市場国・発展途上国の現地通貨建て債券市場について分析を行う政策担当者のために、体系的なロードマップを提示するものだ。ガイダンスノート内では、発展のための重要になる(1)短期金融市場(2)発行市場(3)投資家ベース(4)流通市場(5)金融市場インフラ(6)法・規制の枠組み、という6本柱が特定されている。また、市場の発展を「可能にする条件」も記載している。

その他、このガイダンスノートは、次のような貢献を行っている。

この枠組みを用いることで、様々な観点から各国における現地通貨建て債券市場の発展の成功度を測定できる。今後の対策の参考とするために市場の発展にとってのギャップと優先事項を容易に特定し、同じような国々との間で比較を行うことができる。

債券が数多く存在することに伴う市場の細分化など大半の問題には、過去に発行された債券のリオープンによるベンチマーク債券の発行など、すでに十分確立した対策がある。

このガイダンスノートでは、政治経済的な問題であったり、諸改革の間に生じる相互作用の問題(例えば中央銀行業務運営の自律性や債務管理当局との調整の取り決め)であったりを検討している。

能力開発業務への反映

このガイダンスノートの診断枠組みは、市場の発展度を評価したり、問題を発見したり、政策実施に伴う進歩をモニタリングしたりする上で各国が活用できるシンプルかつ体系的なアプローチを提供するものだ。同時に、枠組み適用によって得られた情報は、関連する能力開発業務を当該の国々で実施する上で参考となる。

各国政府当局や他の国際金融機関との協力の下、金融セクター改革強化イニシアティブの取り組みを踏まえて金融セクターの開発戦略を策定・更新したり、新興市場国や発展途上国の政府職員間における知識共有や能力構築を目的としたIMFと世界銀行の業務の中にこうした戦略を組み入れたりすることが可能である。

市場開発と政策助言の統合

このガイダンスノートはまた、財政政策、金融政策、金融の安定性、資本市場の開発、外国資本フロー管理、景気循環、経済成長などIMFや世界銀行の中核業務分野における政策提言を改善するための参考情報としても有用になりうる。

多くの場合、現地通貨建て債券市場の発展を促進するためには多岐にわたる改革が必要となる。そして、改革について最適な順番と時期を決定するためには慎重な検討がしばしば求められる。IMFと世界銀行は、経済や金融の環境を定期的にモニタリングしたり、財政当局や金融政策当局との対話を継続的に行ったりすることで、改革の調整を支援する触媒としての役割を果たす態勢を整えている。

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トビアス・エイドリアンIMF金融顧問兼金融資本市場局長。IMFによる金融部門のサーベイランスや能力開発、金融政策・マクロプルーデンス政策、金融規制、債務管理、資本市場に関する業務を統括。ニューヨーク連銀上級副総裁と調査統計グループ副グループ長を経て現職。プリンストン大学およびニューヨーク大学で教鞭をとった経験があるほか、「American Economic Review」「Journal of Finance」等の経済学・金融の学術誌に論文を発表してきた。資本市場動向の総合的な影響に研究上の重点を置いている。マサチューセッツ工科大学博士、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス修士、フランクフルト大学ディプロマ、パリ・ドフィーヌ大学修士。

ソルドゥル・ヨーナソンは、IMF金融資本市場局債券資本市場課の課長補佐。IMFでの勤務を始める前には、世界銀行で国債市場・社債市場の発展に関連する業務に従事し、金融セクター評価プログラムに参加した。これまでに世界主要地域の約60か国に対する能力開発、政策監視、融資プログラムの業務をIMFと世界銀行で担当してきた。過去には、アイスランド政府債務管理局に務め、局長を含めて様々な職務を歴任した。民間部門でも地方自治体や国有企業に対する債務管理、財務、国際的な資金調達に関するアドバイザーとしての役職に就いていた。資本市場の発展、債務関連の諸問題、国の資産と負債の管理について幅広く論文を発表してきている。

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