写真:Carlos Tischler/Polaris/Newscom 写真:Carlos Tischler/Polaris/Newscom

各国がワクチン接種を急ぐ中でも政府支援は重要

ヴィトール・ガスパール   林衛基   パオロ・マウロ   メディ・ライシ

新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)は多くの国で加速しており、不確実性は非常に高まっている。迅速かつ広範なワクチンの普及、最も脆弱な家計や本来健全な企業の保護、持続性と包摂性のある回復の実現には、政府の断固たる行動が必要だ。

感染が再拡大し、再び規制が実施されるなか、多くの国が国民や企業への支援を継続しつつ、経済状況の変化に合わせて対応を修正している。20211月の「財政モニター・アップデート」では、各国の取り組みを俯瞰するとともに、よりグリーンで公平で、持続性のある回復を実現するために、政府がさらに取り組むべきことの概要を示した。

政府支援は国民と企業を支えてきた

世界全体の財政支援は202012月末時点で14兆ドル近くに達した。202010月以降、約2.2兆ドル増加したことになる。内訳は追加支出あるいは(規模はそれより少ないが)歳入の見送りが7.8兆ドル、政府保証、融資、資本注入が6兆ドルを占める(各国の詳細はこちら)。

財政支援の内容には、各国におけるパンデミック関連ショックの影響度と、政府の借入能力によって差が生じている。先進国・地域の財政措置は多年度にわたり実施される(2021年以降もGDP4%を超える)。対照的に新興市場国や発展途上国の政府支援は初期対応に偏り、対策の大部分が期限を迎えつつある。経済の収縮に伴う歳入減少と相まって、こうした政府支援は政府債務と財政赤字の増加につながっている。政府債務の世界平均は、2020年末で対GDP98%近くに達する。パンデミック以前の同時期の予測値は同84%だった。

IMF

先進国・地域では支出の増大と歳入減少を反映して、財政赤字と政府債務が最も大きく伸びた。新興市場国では景気後退による税収の落ち込みが、財政赤字拡大の主な原因となった。低所得国では資金調達が制約され、また福祉制度が未成熟であるために、財政政策による対応はより限られていた。このため、こうした国々では貧困増加や栄養不良などパンデミックの影響が長引くおそれがある。

IMF

政府支援は回復が本格化するまで継続する必要がある

治療薬やワクチンを製造し、あらゆる国に低コストで幅広く普及させるための国際協調はきわめて重要だ。ワクチン接種は人命を救い、最終的にはあらゆる国で納税者が納めたお金を節約することにつながる世界的な公共利益だ。世界的なパンデミックの収束が早まるほど、経済の正常化が早まり、国民が必要とする政府支援も減っていくだろう。

不確実性がきわめて高いことから、政策は経済とパンデミックの状況変化に柔軟に対応し、必要に応じて、また適切に変化させていくべきだ。予算の制約が一段と厳しくなっていることから、ほとんどの国がより少ない資金でより多くを実行しなければならなくなる。これは最も大きな影響を被り、最も脆弱な層に政策を集中させることを意味しており、対象には貧困層、女性、インフォーマル労働者、そして危機後も存続できる企業、あるいは経済にとってシステム上重要な企業などが含まれる。

低所得国の多くは打つべき手を打ったとしても、厳しい状況に直面する見込みだ。こうした国々ではグラント(無償資金)、譲許的融資、債務支払猶予イニシアティブ(DSSI)の延長、あるいは一部のケースでは債務再編などの追加的支援が必要になるだろう。債務処理のための共通枠組みの迅速な運用開始と、適格債務国の拡大が不可欠だ。

財政政策はポストコロナの環境下で、グリーン、デジタル、包摂的な経済への転換を実現すべきだ。優先事項には以下の対策が含まれる。

  • 医療制度(ワクチン接種を含む)、教育、インフラへの投資。財政余地のある国々が協力して環境配慮型の公共投資を強化することで、世界的成長を促進できる。プロジェクト(民間セクターも参画することが理想的だ)は気候変動の緩和とデジタル化促進を目指すべきだ。
  • 採用への補助金、職業研修や求職プログラムの改善を通じて、国民の再就職、必要な場合には職種の転換を支援する。
  • 格差と貧困を抑制するため、社会的保護制度を強化する。
  • 公平性を高め、環境保護のインセンティブを付与するよう税制を見直す。
  • 財政支援の恩恵を最大限引き出すため、無駄な支出を削減し、歳出プログラムの透明性を高め、ガバナンスの実践方法を改善する。

政策当局者は着実な景気回復を実現するために短期的支援を拡充することと、長期的に債務を管理可能な水準に維持することのバランスを取らなければならない。とりわけ債務水準が高く、資金調達が厳しい国々では、歳入と歳出に関する信頼性のある多年度財政枠組み(中期的な財政ポジションを強化する方略を含む)を策定することがきわめて重要だ。

要するに各国政府は、ワクチン普及をめぐる時間との闘いに勝利し、経済状況の変化に柔軟に対応し、よりグリーンで公平で持続性のある回復に向けた準備を進める必要がある。

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ヴィトール・ガスパールは、ポルトガル国籍でIMF財政局長。IMFで勤務する前には、ポルトガル銀行で特別顧問など政策関連の要職を歴任。20112013年にはポルトガル政府の財務大臣。20072010年に欧州委員会の欧州政策顧問局長、19982004年に欧州中央銀行の調査局長を務めた。ノーバ・デ・リスボン大学で経済学博士号とポスト・ドクター学位を取得。また、ポルトガル・カトリカ大学でも学んだ。

林衛基は財政局のシニアエコノミスト。格差、政府間関係、財政ルールに関連する財政問題に現在は研究の焦点を当てている。過去にはアジア太平洋局の中国担当と日本担当のチームでそれぞれ勤務した。また、世界金融危機の際にはアイスランドに対するIMF融資プログラムに参加した。また、過去の研究では、財政や金融セクターの問題を取り上げた。カリフォルニア大学で経済学博士号を取得。

パオロ・マウロは、IMF財政局副局長。現職以前はIMFのアフリカ局、財政局、調査局で様々な管理職を歴任。ピーターソン国際経済研究所でシニアフェローを務め、20142016年にはジョンズ・ホプキンス大学ケアリー・ビジネススクールの客員教授。「Quarterly Journal of Economics」「Journal of Monetary Economics」「Journal of Public Economics」などの学術誌にて論文を発表し、学術界や主要メディアで多数引用されている。共著に『World on the Move: Consumption Patterns in a More Equal Global Economy』、『Emerging Markets and Financial Globalization』、『Chipping Away at Public Debt』の3冊がある。

メディ・ライシIMF財政局のシニアエコノミスト。2010年からIMFで勤務を開始し、多国間サーベイランス(政策監視)の複数の問題について、また、イタリア、インド、メキシコなど一連の国々を対象に業務を行ってきた。ケンブリッジ大学で経済学博士号を取得。研究分野はマクロ計量経済モデル、マクロ経済と財政のつながり、政府債務の問題である。