Credit: (photo: RODRIGO GARRIDO/REUTERS/Newscom)

新型コロナウイルスのパンデミックとラテンアメリカ 強力な政策が必要な時

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は急速に拡大しており、もはや域内限定の問題にはとどまらず、世界的な対応を必要とする課題となっている。ラテンアメリカ・カリブ諸国がパンデミックから影響を受けるようになったのは他地域よりも遅く、したがって感染曲線を平坦化するチャンスが存在している。

この目標を達成するための努力が複数分野にわたって行われている。ラテンアメリカ・カリブ地域では、医療政策的な対応強化に加えて、多くの国が国境封鎖、学校閉鎖、その他の社会距離戦略上の施策を実施し、ウイルス封じ込めに取り組んでいる。

こうした施策は、世界経済減速、サプライチェーン寸断、一次産品価格下落、観光の冷え込み、世界金融環境の急速なタイト化とあいまって、多くのラテンアメリカ諸国で経済活動の急停止につながっており、経済的な見通しを大きく損なっている。ラテンアメリカ経済について私たちが数か月前に見込んでいた成長の再加速は立ち消えになってしまった。2020年がマイナス成長に終わるというのは、ありえないシナリオではない。

  IMF

深刻な影響

結果的に借入コストが増加し、長年の低金利で蓄積した金融の脆弱性が明るみに出るだろう。石油価格の急落が域内の石油輸入国にとってはプラスに働くと見込まれるが、石油輸出に大きく依存する国々では投資と経済活動を損なうことになるだろう。

局地的な感染拡大によって最も大きな影響を受けるのはサービス部門となるだろう。これはウイルス封じ込めと自主的な隔離が行われるためである。サービス部門の中でも、観光業やホスピタリティ産業、交通業界に対する影響が顕著となるだろう。

さらに、公衆衛生のインフラが整っておらず、公衆衛生サービスを強化したり、影響を受けた業界や世帯を支援したりするための財政余地が限定的な国々は大きな圧力にさらされることになるだろう。

パンデミックの経済的影響は、域内・国内の特徴によって差異が生じる可能性が高い。

IMF

南米については、一次産品価格下落と輸出量減少(重要な貿易相手先である中国・欧州・米国向けが中心)にともなって、輸出収入低下に直面することになる。とりわけ石油輸出国にとっては、石油価格下落が打撃となるだろう。金融環境のタイト化は、金融的に統合され経済が大きな国々や根本的な脆弱性を持つ国々にとって、負の影響をもたらすことになるだろう。複数諸国でのウイルス封じ込め施策は、少なくとも次の四半期において、サービス業・製造業の経済活動を低下させるが、感染症が抑制された後に回復が見られるだろう。

中米とメキシコについては、米国の景気減速にともなって貿易、対内直接投資、観光の流れ、国外からの送金が減少するだろう。世界的な需要低下によって、パナマ運河を経由した貿易の流れだけでなく、コーヒー、砂糖、バナナといった主要な農産物輸出品にもマイナス影響が生じうる。次の四半期、局地的な感染拡大が経済活動を制約し、とりわけメキシコに顕著な点だが、すでに不確実な事業環境を悪化させることになるだろう。

カリブ諸国では、移動制限の結果、また感染が鎮静化した後にも恐怖感が残るために、観光需要が低下し、経済活動に重くのしかかるだろう。一次産品輸出国も大きな打撃を受け、流入する送金額の低下が経済的なストレスをさらに悪化させそうだ。

政策の優先課題

最優先事項は、最前線の医療関連支出を確保して人々の健康と安心を守り、病人を看護し、ウイルス感染拡大を減速させることだ。医療制度に制約がある国々が人道危機を回避できるように、国際社会が助けの手を差し伸べるべきである。

さらには、財政、金融政策、金融市場における的を絞った施策がウイルスの経済的影響を緩和する上で重要となる可能性が高い。政府は、この一時的で突然の経済活動停止に対処するために、現金給付や賃金助成金、税負担軽減措置を、影響を受けた世帯や企業に対する支援として用いるべきである。

中央銀行は監視を強化し、緊急時対応策を計画すべきである。また、中小企業には長期的な混乱に耐える備えがあまり十分ではない可能性があるため、こうした企業に融資を行う金融機関を中心として、潤沢な流動性を提供できるように態勢を整えるべきだ。また、一時的に規制適用を緩めるのも場合によっては適切だろう。

政策余地がある場合には、幅広い金融刺激策・財政刺激策が景況感を改善し、総需要を押し上げうるが、その有効性は企業活動が正常化し始める局面でより高くなることが多いと考えられる。国境を越える経済的なつながりが広範に見られる点を踏まえると、この感染症流行に応じた世界的・協調的な対策の論拠は明確である。

この方向性で国々が政策対応を行い始めている。例えば、アルゼンチン、ブラジル、コロンビア、ペルーなど多くの国々で医療支出のために追加資金が確保されつつある。また、ブラジルは緊急経済対策パッケージを317日に発表した。これは社会的弱者支援、雇用維持、パンデミック対策に的を絞ったものである。

国際通貨基金(IMF)については、コロナウイルスにともなう経済影響緩和を支援するための体制が整っており、複数の融資制度やツールを活用できる。

このブログを締めくくるにあたり、コロナウイルスの経済影響を制限し、人道危機を避ける上で、私たちの誰もが断固たる行動をとることが重要だと改めてお伝えしたいと思う。IMFには困難な時を迎えた加盟国のために、支援と協力を行う用意ができている。

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アレハンドロ・ウェルナーは国際通貨基金(IMF)西半球局長。20131月に現職に就任した。メキシコ市民。政府・民間・学界で要職を歴任してきた。200612月から20108月までメキシコの大蔵公債次官、20108月から20117月までスペインのマドリッドにあるIEビジネススクールで経済学教授を務めた。20118月から2012年末まではBVA-Bancomerでコーポレート・バンキングと投資銀行業務担当のトップを務めていた。

それ以前には、メキシコ銀行の経済研究局長とメキシコ自治工科大学(ITAM)の教授であった。また、幅広く執筆を行ってきた。2007年には世界経済フォーラムによりヤング・グローバル・リーダー(YGL)に選ばれた。マサチューセッツ工科大学(MIT)より1994年に博士号を取得。

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