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コロナウイルス経済計画 最善を願いながらも、最悪に備える

マーティン・ミューライゼン 著

コロナウイルスに感染した人々は、個人としての幸福や経済的な厚生に打撃を受ける可能性がある。隔離されたり、治療を受けたりするために仕事を休む必要があり、有給の病気休暇がなければ、不幸なことに収入が大きく減ってしまうかもしれない。治療のために薬も必要になるので、感染症の犠牲者は薄くなりつつある財布から費用を捻出して、支出を増やさざるをえないかもしれない。

同様に、コロナウイルスが今引き起こしているような、公衆衛生上の突然かつ予期せぬ緊急事態に見舞われた国々では、人的・経済的な影響に直面する中、予算の締め付けが厳しくなりうるかもしれない。

各国政府はウイルス影響対策として支出を増やす必要が出てくるだろう。同時に、経済活動の低下によって歳入が落ち込む可能性がある。また、観光収入が減ったり、一次産品価格が下落したりすることで、国々の輸出収入も下がるかもしれない。こうした状況のいずれもが、資本流入の突然の停止によって悪化しうる。こうした要因があいまって、外貨流出入の不均衡に対策を講じるために、国際収支上のニーズが突如生じてしまうかもしれない。

個々の国が大規模なウイルス感染を幸運なことに免れたとしても、世界的な動向やサプライチェーン寸断の波及効果が経済活動停滞につながりかねない。

タイムリーな資金支援

ウイルスの身体的影響については医療専門家が取り組むことになるが、IMFは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が引き起こす経済的影響の緩和に貢献できる。こうした緊急事態においてIMFが提供できる最大の支援は、資金支援のタイムリーな提供である。

IMFは長年にわたり、自然災害、感染症、紛争後の状況などに対応してきており、これら分野に関して幅広い専門知識を持っている。平均をとると、緊急時の資金支援が加盟国からのIMFに対する支援要請の約20%を占めている。外貨準備を補うため、重要な輸入品を確保するため、予算を拡大するためには、速やかな融資が欠かせないこともある。

エボラウイルスがアフリカの一部に甚大な打撃をもたらし、ギニア、リベリア、シエラレオネが人的・経済的に大きな苦難に直面した時、IMFは譲許的な緊急融資37,800万ドル(3か国のGDP合計の2.3%に相当)による支援をこれら3か国に提供した。 

IMFはまた、自らの大災害抑制・救済基金の資金を用いて、これら3か国の債務負担を減らすための債務救済を提供した。この基金の資本は、イギリスからの15,000億ドルの拠出によって、近いうちに拡大される可能性がある。

2種類の緊急融資制度

IMFラピッド・クレジット・ファシリティ(RCFラピッド・ファイナンシング・インストルメント(RFIという2種類の緊急融資制度を設けており、加盟国は大規模な自然災害や公衆衛生災害などショックに対応するために融資を受け取ることができる。これら融資制度2種類の利点は、その規模、スピードと柔軟性である。モザンビークがサイクロン・イダイの襲来を受けた後、融資の要請から実行までにかかった時間は約4週間であった。

IMFの他融資制度では融資期間中にわたって融資の提供が行われるが、これら2種類の緊急融資制度においては、国際収支上の緊急ニーズをまかなう目的で融資が全額一括で支払われ、IMFの従来型の条件は設けられない。融資を受ける国は債務が持続可能で、緊急事態を克服するのに役立つ経済政策のために尽力する意思を示すだけで良い。

数字を足していく

新型コロナウイルス感染症が深刻な景気後退を引き起こす場合には、IMFは新興市場国・発展途上国が行う初期対応の財源として、最大500億ドルの融資を緊急融資として提供するよう要請される可能性があると試算している。感染症がもたらす課題の範囲がさらに明らかになるにつれて、提供できる支援の規模も拡大するかもしれない。500億ドルのうち約100億ドルが、低所得国を対象として、おおむね譲許的な条件で用意されている。

直近の緊急事態よりも未来に目を向けると、IMFクォータ(出資割当額)と借入資金をもとにした融資力は約1兆ドルであり、この資金を借り入れる形で加盟国は新しい融資を要請することも可能である。また、現在、IMFから融資を受けている国は既存の融資取極を拡大してさらなる資金を受け取ることもできる。

世界中の誰もと同じように、コロナウイルスによる保健危機の展開を見守る中で、IMFは最善を願っている。しかし、緊急融資を通じて、私たちは最悪に備えている。アメリカの作家マヤ・アンジェロウの言葉を借りれば、そうすることで最高と最悪の「中間にある物事に驚かないで」済むように試みることができるのだ。

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マーティン・ミューライゼンIMFの戦略政策審査局長として、IMFの戦略的な方向性と、機関としての方針の設計・実行・評価に関する業務を主導している。また、G20や、国際連合など国際機関とIMFの関係を統括している。

 

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